嘘から始まった、本当の恋

⭐︎Ryua⭐︎

第1話

放課後の駅前は、いつも人で溢れていた。

スーツ姿の大人、制服の学生、観光客。

その流れから少し外れた場所に、陽毬のお気に入りのカフェはある。

ガラス張りの店内は、夕方になるとオレンジ色の光に包まれる。

騒がしすぎず、静かすぎず。

誰にも見られていないような安心感が、陽毬は好きだった。

「……またやっちゃった」

カウンターで受け取ったカフェラテに、砂糖を二本も入れてしまったことに気づく。

本当は一本でいいのに、考え事をしていると、いつもこうだ。

陽毬は高校二年生。

クラスでは目立たない方で、話す相手も限られている。

決して嫌われているわけじゃない。ただ、存在感が薄い。

「どうして、私はこうなんだろ」

明るくなれたらいいのに。

自分から話しかけられたらいいのに。

そんなことを考えていると、椅子が引かれる音がした。

「また一人で来てたのか」

顔を上げると、そこにいたのは優太だった。

「……優太」

同じクラスの、優太。

誰もが知っている名前。

背が高くて、笑顔が爽やかで、性格もいい。

女子から告白されるのは、もはや日常茶飯事。

「ここ、陽毬好きだよな」

「う、うん。落ち着くから」

「わかる」

優太は自然に向かいの席に座った。

陽毬はそれだけで、少し緊張する。

「今日も告白?」

陽毬が恐る恐る聞くと、優太はストローをいじりながら苦笑した。

「三人。正直、しんどい」

「贅沢な悩みだね……」

「そう思われるのが一番きついんだよ」

その言葉は、少しだけ本音の色をしていた。

「優しいって言われるけどさ、断るのもエネルギー使うんだ」

陽毬は黙って聞いていた。

優太がこんなふうに弱音を吐くのを、初めて見た気がした。

「なあ、陽毬」

優太が、急に真剣な表情になる。

「頼みがある」

心臓が跳ねる。

「俺と……付き合ってるフリ、してくれない?」

「……え?」

耳が追いつかない。

「フリ、だよ。偽装カップル」

「なんで、私……?」

声が震えた。

クラスにはもっと可愛い子も、明るい子もいるのに。

「陽毬がいい」

優太は即答だった。

「変に噂にならないし、口も堅いし……それに」

一瞬、言葉を探すように間が空く。

「一緒にいて、楽だから」

その一言が、胸に刺さった。

「……考えさせて」

そう答えるのが精一杯だった。

帰り道、陽毬の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

付き合うフリ。

優太の彼女役。

そんなの、自分には似合わない。

それでも――

「陽毬がいい」という言葉が、何度も蘇る。

その夜、布団の中で、陽毬は決心した。

「……フリ、だもん」

自分に言い聞かせるように呟く。

恋なんかじゃない。

これはただの演技。

そう思い込まなければ、

この関係は始められなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る