奈良時代にローマ字を!識字率アップで文明開花〜暗黒時代のヨーロッパも救う大革命〜
雨宮 徹
第1話 ローマ字、世界を変える
ひらがなも、カタカナも、まだ生まれていない。 この奈良時代、文字を読めるのは、数万の漢字を覚えた一部の特権階級、貴族と役人だけだ。 それこそが、この文明の停滞、そして俺たち農民が搾取される最大の原因。もし、最初からローマ字があれば、識字率も、印刷技術も、文明の進歩も一千年は早まっていたはずだ。だから、俺はやる。一農民の身だが、この文明の夜明けに、たった二十六文字の革命を叩き込む。
だが、大きな問題がある。俺は
俺は薄々気づいていた。役人たちは、農民の識字率が低いことを利用して余分に徴税していることを。そして、密かに懐にしまう。汚いやり口だ。これを止めるには、識字率を高めるほかない。しかし、俺自身、奈良時代の漢字は読めない。だから、決めた。ローマ字を普及させて、役人を欺くことを。まずは、家族から始めるべきだ。
「父上、お話があります」
「忙しいのだ、後にせよ」
父はせっせと
ふと、思った。前世にはローマ字があしらわれたランニングシューズがあった。草鞋は現代の靴と異なり、クッション性がない。これでは、遠くかに行くと足が痛む。
「その作りでは、足が痛みませんか」
「どういうことだ」
「つまり、踵の部分を厚くするのです。そうすれば、痛みも和らぐかと」
父はすぐさま編み終えると、その快適さに飛び上がらんばかりだ。
「国人、これは素晴らしい。間違いなく売れる」
「そう思います。流行り病は、弱った体につけこみますゆえ」
この村では、天然痘が流行している。
「流行り病ですが、熱した水で清めてはいかがでしょうか」
この時代に、煮沸消毒という概念はないに等しい。草鞋に煮沸消毒。この小さな改善を積み重ねて、一農民から成り上がるしかない。そして、ローマ字を普及させる。……待てよ、今からやれることがあるじゃないか。ローマ字を用いて、隣村にも、さらに遠くへも衛生術を広めればいい。さもなくば、ここら一帯から人が消える。そこらへんに落ちていた木に対処方法を書き殴る。もちろん、ローマ字だ。
「父上、
村を出る時、一人の坊さんとすれ違った。見知らぬ人だが、その目には慈悲が溢れていた。
「そこの若者よ、隣村に行くのか」
「ええ、流行りの病の対策を広めに」
坊さんは驚きを浮かべている。それもそのはず、この時代の人は天然痘の知識は少ない。もしかしたら、この坊さんは俺を「インチキを広める若者」とでも、考えているのだろうか。
「その木に記されているのは、天竺の言葉か。いや、違う。このような文字は見たことがない」
彼は木片に食いつくという予想外の反応をした。確かにローマ字は物珍しいだろう。しかし、その珍しさが分かるのは、漢字が分かる者のみ。この坊さんは、知識人に違いない。
「しかし、奇妙なものよ。これは規則性があるようにみえる。つまり、何かしらの文字であるには違いない」
ここは、正直に打ち明けるのが無難だろう。もし、この坊さんが理解を示してくれれば、トントン拍子に話は進む。さすがに、望みは薄いが。
「これは、新しき仮名。名をローマ字と申します」
「ローマ字とな? 不思議な響きだ。これが文字だと申すなら、なんと書いてある」
俺は、煮沸消毒の重要性、そして、おそらく空気感染だから、隔離すべきと主張した。隔離は難しくても、煮沸消毒だけは普及させねばならない。俺の必死さが伝わるのを祈るしかない。
「ほう、面白いことを言う。もし、それが真実ならば、民を救う発明だ。お主、名はなんと言う」
「国人。それが、俺の名前だ」
「なるほど、いい名前だ。わしの名は行基。さて、隣村で実証しようではないか。煮沸消毒やらが通用するか否か」
行基。俺でも知っている高僧だ。それならば、俺の成り上がりのスピードも早まる。行基は、大仏作りのために、地方を巡っていたはず。つまり、中央政権への足がかりになる。
行基は「HEBON」という俺が書いた文字を指で撫でる。これが、俺と行基との運命の出会い。そして、奈良を、いや、世界を救う物語の始まりだった。
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