第12話 選ばない理由

正しいと、

分かっている。


会わないほうがいい。


理由は、

考えるまでもなく

いくつもある。


どれも、

間違っていない。


守るべき生活があって、

壊してはいけない関係がある。


今さら、

踏み込む理由なんて

どこにもない。


だから、

会わない。


それが、

正しい。


そう思うことには、

もう

慣れてしまった。


それでも、

ふとした拍子に

考えてしまう。


もし、

今、

会ってしまったら。


声を聞いた瞬間に、

全部

終わる。


好きだったことを

思い出すんじゃない。


好きだと、

分かってしまう。


一瞬で。


それが、

過去の気持ちじゃないことも、

勘違いじゃないことも、


もう

分かっている。


だから、

会えない。


会いたい


なんて

言ってしまったら、

きっと

壊れる。


正しさも、

積み上げてきた日々も、

意味を失う。


それなのに、

会いたい。


理由は、

ない。


欲しいわけでも、

期待しているわけでも

ない。


ただ、

会いたい。


その気持ちだけが、

胸の奥に

残っている。


押し込めても、

なかったことにしても、

夜になると

浮かび上がる。


会わずに

生きていくことは、

できる。


分かっている。


ちゃんと

笑って、

ちゃんと

戻って、

続けていける。


それでも、

会わなかった人生を

選び続けることが、


こんなにも

苦しいなんて

思わなかった。


泣くほどじゃない。


でも、

息をするたびに

胸が

少しずつ

削られていく。


正しいほうを

選んでいるのに、

どうして

こんなに

痛いんだろう。


答えは、

分かっている。


正しいと

分かったまま、

諦めているからだ。


澪は、

今日も

会わない。


会いたい気持ちを

抱えたまま。


それが

自分を

傷つけていると、

分かっていながら。

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