惚れた女の子に嫌がらせをしたストーカー侍をこらしめる方法!?【江戸を駆ける三人】
和田 蘇芳
第1話 江戸に翔ぶ――見えるのは俺だけ?
「キャー!」
怪しい光の中に、ぼうっと人影が浮かび上がり、女性の悲鳴が響き渡る。
「うらめしや〜。テッサンどの〜」
女の見開いた目の眼光に捕えられたように、ハヤトは目が離せない。
ブルっと身震いして、息を飲んだ。
「一枚……、二枚……」
暗闇に皿を数える悲し気な声が響く。
と、突然、照明が明るくなり、軽快な音楽が流れ出す。
落語家は中性的な顔立ちで、恨みがましい女性の表情も、一転して明るい照明の下ではさわやかな笑顔が似合う。
客席から緊張と恐怖が消え、落語家の笑いのネタ、くすぐりに合わせて笑いが起こる。
話の終わりに落語家が深々と頭を下げると、大きな拍手に包まれた。
ハヤトとタケルは、高校の課外授業で江戸
この資料館は、江戸時代の街並みをビルの中に再現し、いたるところで伝統芸能が見られ、二人は落語を楽しんだ。
「落語って面白いな。怖い話から笑える話に変わるとは想定外だったな」
と、感心したようにハヤトが言うと、隣に座る金髪のタケルはニヤニヤとする。
「あの幽霊に、ちょっと、ビビってただろ?」
「ビビってねぇし」
イライラしながら、ハヤトはタケルの胸ぐらを掴む。
それでも笑いながら、タケルはお化け屋敷の幽霊のように手をだらりと垂らしてからかい続ける。
「デカい図体で、ケンカも強いのに、幽霊が怖いなんてカワイイとこあるよな。今どき、うらめしや〜なんて怖くもないだろ?」
「だから、怖くないって」
「後ろにプロジェクターで投影した幽霊と、悲鳴の演出、なかなか凝ってはいるよな。若手落語家だから色々工夫してるんだろうな」
冷静にタケルが分析してみせる。
すると、さっきの落語家が、高座の片付けをし始めた。
「あ、モクモクテイ アスカさんですよね? 落語めっちゃおもしろかったです!」
良く言えばコミュ力が高い、悪く言えば図々しいハヤトがアスカに近寄って声をかける。
「ありがとうございます」
高座の堂々とした姿とは別人のように元気のない挨拶をした後でペコッとお辞儀をしたが、すぐに作業に戻る。
「落語の時は男の人かもと思ったけど、かわいいっすね!」
女の子が大好きなハヤトが会話を続けようとするが、アスカは少し迷惑そうに、
「本当にごめんなさい、次の出番まで時間なくって、ここ片付けて行かないと……」
「あ、ごめんなさい。なんなら片付け手伝いましょうか?」
「大丈夫です! 大丈夫です!」
落語家は荷物をかき集めるようにして、大きなバッグに詰め込むと、慌ただしく立ち去って行った。
ぼーっと後ろ姿を見送る二人。
「あれ?」
さっきまで、落語家がいたところに、ポツンと黒い機械が置かれている。
「なんだこれ?」
ハヤトは機械を手に取った。
「モバイルプロジェクターじゃないか? さっき幽霊を映してやつ。持ち運び用だから、たぶんあの子のだよ」
「追いかけよう、まだここからは出てないはず」
ハヤトはタケルを促し、二人は走り出した。
出口へ向かう途中、長屋の路地で、アスカの姿を見つけた。アスカは困った様子で、キョロキョロ見回している。
「いたいた! 忘れ物!忘れ物!」
タケルはアスカに近寄り、プロジェクターを手渡すと、アスカは何度も頭を下げる。
「ありがとうございます。慌ててるといつも何か忘れ物するんです……。次の高座で使うつもりだったので助かりました!」
「良かったー」
ハヤトとタケルもほっと胸を撫で下ろす。
アスカはバツが悪そうに、
「忘れ物を届けてもらった上に申し訳ないんですが、わたし方向音痴で、出口が分からなくなってしまって……」
「え? 出口までほぼ一本道でしょ?」
「いつも、変なところに迷い込んじゃうんです……」
「じゃあ、出口まで案内しますね」
と、言いながらハヤトがアスカの大きな荷物を手伝おうとした時、
「誰か、そこにいる……」
震える声で、タケルが長屋の建物の中を指差した。
「ほら! あそこ!」
「え?」
ハヤトとアスカが視線を向けるが、そこにはキセルをくわえたちょんまげ姿の人形が展示されている。
「おい! ただの人形だよ。ビビり過ぎだって」
鼻でハヤトが笑うが、タケルは何度も首を振って否定する。
「違う、その奥。なんか変なおじさんがこっち見てるんだよ。うわっ、こっち来た!」
ボロボロの着物を身にまとった、
「ここであったが百年目! やっと見つけた! お前には、ワシが! ワシが見えるんじゃな!」
「ちょっと、何だよ」
抱きつく老人を必死にタケルは振り払おうとするが身動きが取れない。
「どうしたタケル? 大丈夫か?」
様子がおかしいタケルにハヤトが声をかける。アスカも心配そうに見つめている。
「仲間がいる方がいいな。よし、お前たちも来てもらおう」
老人はそう言いながら、ハヤトとアスカに触れると、二人にも老人の姿がはっきりと見えた。
「な、なに……?」
「だ、誰だ!」
アスカとハヤトが声を上げた次の瞬間、三人の姿は消え長屋の路地には誰も居なくなった。
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