どすこいエルフ

坂本 光陽

第1話 夢良関の噂


 笑わないで聞いてほしいのだが、「相撲取りの夢良関むらぜきがエルフである」という噂があるらしい。僕は最近知ったのだが、一昨年あたりから大相撲ファンの間で広まっていたようだ。


 あなたは夢良関を御存知だろうか? NHKの「大相撲中継」を見ている人ならば、間違いなく知っていると思う。夢良関はファンの多い力士である。横綱や大関よりも人気が高いかもしれない。


 相撲取りなのだから、もちろん痩せてはいない。身長は低めかもしれないが、相撲にふさわしい体格をしている。そんな夢良関がエルフであるわけがない。なぜ、そんな噂が広がったのか、そちらの方に僕は興味をもった。


 ざっと調べてみると、きっかけは二年前のSNSにあったようだ。幼稚園のときの夢良関の写真を指して、「エルフのようだ」という投稿があったのだ。なるほど、かわいらしい男の子が写っているのだが、羽根つきのリュックサックを背負っているせいで、エルフのように見えるのだ。


(厳密にいえば、「エルフ」ではなく、「妖精」か「フェアリー」になるのかもしれない。『指輪物語』の「エルフ」には羽根がなかったと思うし、その辺りの使い分けはあいまいだと思うので、ここは「エルフ」で通させてもらう)


 夢良関の特技も、エルフ説を後押ししている。夢良関は運動神経に優れていて、相撲以外に水泳やレスリング、バスケットボールなどをこなす。実はプロフィールの特技には、ブレイクダンスを挙げている。


 高校時代のテレビ取材中、カメラの前でブレイクダンスを披露したのだが、その機敏な動きは人間離れをしていた。軽やかに飛び跳ねる姿は、「エルフ」に見えないこともない。やや強引な見方かもしれないが。


 夢良関は角界一の人気者である。特に女性と子供のファンが多い。父方の祖父がアイスランド出身のせいか、真っ白な肌をしている。そんな出自も「エルフ説」に一役買っているのかもしれない。


 忘れてはならないのは、三年前、夢良関が横綱との取り組みで大怪我をしたことだ。両膝の靭帯じんたい損傷で再起不能という診断を受けて、引退の危機を迎えた。そこから奇跡の復活をとげたのだが、嘘か真か、エルフの秘術を用いたとか、ユニコーンの角を原料にした秘薬を服用したという噂がある。どちらにしても、真偽のほどは定かではない。


 確かな事実は、夢良関が地獄のようなリハビリと努力を重ねて、幕内に復帰を果たしたことである。


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