進路相談に乗ってみる
ティーサロンには、意外な客層で賑わっていた。
「おいしい! こういうところで神殿のお貸しがいただけるとは思っていませんでした!」
商家のお嬢さんやら貴族令嬢やらが、匂いで来たのか、散歩して来たのか、ある日を境にこぞって来るようになったのだ。
私は困惑してクローネとカーラさんを見ると、クローネが説明してくれた。
「あれですよぉ、ここって本土からの船が一日に二本くらいしかなくって、格好の家出スポットなんですよ。大概は治安のいい宿なり神殿なりに泊まってますね」
「はあ……治安的に大丈夫なの? 女の子たちがひとりで家出って……」
「それあんたが言うのかい、ミーナ。あんたみたいに家賃しっかり払って働く気のある子なんて稀だけどね」
カーラさんにツッコまれ、私が思わず方を竦めると、おろおろしながらもクローネが教えてくれた。
「うちの漁師たち、基本的に荒くれ者ですけど。女の子に変なことをしたら、強い女将さんたちにフライパンでたんこぶが三個くらい重なるまで殴られ続けるんで、そんなことするのはいません」
「なるほど……女将さんたち強い」
この島ではカカァ天下が強いと知り、納得した。
まあ、純情な漁師さんなり農家さんなりは、うちの店にときどきやってきては「これって持ち帰りできますか?」と相談に来るようにはなった。
その日は私はメレンゲとアーモンドプードルでつくるお菓子のアマレッティを焼き、一緒に飲むのは大麦コーヒーでセットをつくっていた。
そこですっかりと常連になった女の子のひとり、ビーチェが「アマレッティ食べたーい」と言いながら擦り寄ってきた。
「いらっしゃい。今焼きたてだから、まだ崩れやすいよ。もうちょっとだけ待っててもらっていい? 先に大麦コーヒー出してあげるから」
「そっかあ……いい雰囲気のティーサロンですよねえ」
ビーチェは白い肌に白髪にも見えかねないほど色素の薄い金髪のやけに綺麗な女の子だった。この島の人たちは皆専らワンピースにエプロンを巻いているし、私もそうしているけれど、彼女は白いワンピースにケープを羽織るというおしゃれ具合だった。
「そう? 本土だったらおしゃれなティーサロンは多いと思うけど」
「王都だったらそうですよねえ……でも、うちは家が厳しくってひとりでティーサロンには行けないですし。結婚も勝手に知らない土地に行かされそうだし、治安もあまりいい噂を聞かないから、こんなところに行きたくないって家出しちゃいましたし」
「あー……」
それ私なんだよなあ……と遠い目になってしまう。
話を聞いていたカーラさんは呆れた顔をする。
「でも大丈夫かい? いつまでも家出なんてできないだろう?」
「もういっそのこと、出家して神殿のお世話になろうかと考え込んでいる最中なんです」
「若いのに早まっちゃ駄目だろ……そこで働くんだったらいざ知らず」
私がしていた掃除婦だったらいざ知らず、出家となったら神官になることだから、おいそれとは外に出られなくなってしまう。この島だったらスザンナみたいにひとりでおつとめしていることもあるけれど、本土に用事もあるから、ずっとここにいられる訳じゃないしなあ。
私は「うーん」と言う。
「正直婚約相手が嫌過ぎて家出の気持ちはものすごくわかる」
「わかってくれますか?」
ぶっちゃけ私の家出理由もそれだしなあ。まあ、もう私は聖女でもなんでもないから、家出でもなんでもないんだけど。
私はどう言えばビーチェに嫌みにならないかなあと思いながら、言葉を選んだ。
「でも働き先がない中、伝手やコネもないのに家出はさすがに考えが足りな過ぎる。自分がなにができてなにが得意かは考えてみたほうがいいかも。ミシンが使えれば服屋で働けるし、もっと細かい細工ができるんだったら劇場で針子として働ける。魔法が使えるんだったら、魔法石つくって売れるしね。できることがあるんだったら、もしかしたら私も力を貸せるかもしれないから、まずは考えてみてね。あっ、うちの店で働きたいとかはなしよ。さすがに私も、既にクローネを雇っているし、カーラさんに家賃払わないと追い出されるから」
「むぅ……ミーナさんみたいな優しい人のところだったら働けるかもしれないのに」
「働かざる者食うべからずだから! さすがに全員には優しくできないのよ」
私はそう言うと、ビーチェは「でもありがとうございます」と言いながら大麦コーヒーを飲んだ。偉そうなこと言える立場でもないのに、厳し過ぎたかなあと思いながら、私は「もうそろそろ大丈夫だと思うよ」とアマレッティを出してあげた。
「でも本土にコネがあるって、ミーナさんお店するまでなにやってたんですか?」
クローネにツッコまれ、私は遠い目をする。
「掃除婦かなあ」
「なんで疑問形なんですかあ」
掃除婦してたら、そのまま聖女の役割押しつけられて安賃金で働いてたなんて、さすがに言える訳もないしなあと、私はただ誤魔化していた。
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