第10話「素早さと火力」
サラが『絶対防御の大盾』を手に入れたことで、俺たちのパーティの安定感は劇的に向上した。 岩石の迷宮からの帰り道、試しに遭遇したオークの集団と戦ってみたが、結果は一方的な蹂躙だった。
「ふんッ!」
サラが盾を構えて突進する。 オークの棍棒が盾に叩きつけられるが、サラは揺らぎもしない。それどころか、盾の表面に発生した反発フィールドがオークを弾き飛ばし、転倒させる。
「隙ありです!」
後方からリーナの矢が飛ぶ。 『無限の矢筒』から次々と生成される矢は、マシンガンのような連射速度でオークたちの手足を射抜いていく。
動きの止まった敵に、俺がトドメを刺す。 急所を突く。ドロップ品を回収する。その繰り返しだ。
「完璧ね。私たちが組めば無敵だわ」
戦闘後、サラが盾を下ろして誇らしげに言う。 確かに戦闘面では申し分ない。 俺(近接火力・ドロップ回収)、リーナ(遠距離火力)、サラ(鉄壁の盾)。 攻防のバランスは取れている。
だが、問題もあった。
カチリ。 俺たちが街道を外れ、近道のために森の中を進んでいた時のことだ。 先頭を歩いていたサラの足元で、何かが作動する音がした。
「え?」
ドシュッ! 茂みから丸太が飛び出し、サラの横腹を直撃する。 ゴオンッ! 鈍い音がしたが、サラは「痛っ」と短く声を上げただけだった。ダメージはない。
「もう……また罠? この辺り、猟師の罠だらけじゃない」
「サラ、足元に気をつけろと言ったはずだ」
「だって、この鎧と盾だと視界が悪いし、足元の細かい蔓なんて見えないのよ」
サラが不満げに頬を膨らませる。 そうだ。俺たちのパーティには『目』が足りない。 俺の【鑑定】は対象の情報を見るものだが、隠された罠や、遠くの敵の気配を察知する索敵スキルとは異なる。リーナのエルフとしての感覚も鋭いが、専門職には及ばない。 ダンジョン攻略や未知のエリアの探索において、罠の解除と索敵ができる『盗賊(シーフ)』の不在は、効率低下の要因になりつつあった。
「誰か、いい斥候がいればいいんだがな」
俺が独り言ちた時だ。 風に乗って、微かな匂いと、何かが暴れるような音が聞こえてきた。
「……血の匂いです」
リーナが鼻をひくつかせる。 俺たちは顔を見合わせ、音のする方へと慎重に進んだ。
藪をかき分けた先に、その光景はあった。 巨大な虎挟みのような罠。 そこに、小柄な人影が捕らえられていた。
獣の耳と、尻尾。 猫人族(ワーキャット)だ。 薄汚れたボロ布をまとい、痩せっぽちだが、しなやかな筋肉がついている。 彼女は罠に挟まれた右足を押さえ、苦悶の表情を浮かべながらも、必死に脱出しようともがいていた。
「うぅ……っ、くそっ、外れろよ……!」
少女が悪態をつく。 俺たちが姿を見せると、彼女はビクリと体を震わせ、牙を剥き出して威嚇してきた。
「ッ! 来るな! 近づくと噛み殺すぞ!」
野生動物のような警戒心だ。 サラが盾を構えようとするが、俺はそれを手で制した。 俺の目は、彼女のステータスに釘付けになっていたからだ。
【鑑定】
【名前:ミオ】
【種族:猫人族】
【職業:盗賊(シーフ)】
【状態:右足骨折、疲労、空腹、隷属の呪い】
【スキル:隠密行动Lv4、罠解除Lv3、索敵Lv4、短剣術Lv3、夜目】
【敏捷:A+】
当たりだ。 探していたピースが、向こうから転がり込んできた。 敏捷A+。レベルが低い状態でこの数値は驚異的だ。それにスキル構成も完璧な探索特化型。
「サラ、リーナ。武器を下ろせ」
「え? でも、すごく睨んでますよ?」
「怪我人だ。それに、俺たちの役に立つ」
俺はゆっくりと少女に近づく。 少女はフーッ! と唸り声を上げるが、罠のせいで動けない。
「足を挟まれているな。助けてやる」
「信用するか! どうせ人間なんて、捕まえて売り飛ばすつもりだろ!」
彼女が叫ぶ。 その首元には、無骨な鉄の首輪が嵌められていた。 奴隷の証だ。 なるほど、逃亡奴隷か。だからこれほど人間を警戒している。
「売り飛ばしはしない。ただ、俺はお前のその『鼻』と『目』を買いたい」
「は……?」
「俺たちは冒険者だ。前衛と火力は足りているが、道案内がいない。お前なら、罠を避けて最短ルートを見つけられるだろう?」
俺はしゃがみ込み、彼女の足を挟んでいる虎挟みを見る。 魔力を帯びた強力な罠だ。力任せに外そうとすれば足が千切れる。 だが、この罠にも『急所』がある。 バネを固定している留め金の一点。そこに赤い点が見えた。
「じっとしてろ」
「な、何を……」
俺は剣を抜き、躊躇なく罠の一点を突いた。 カキン。 硬質な音がして、虎挟みの噛み合わせがバカになり、ガクンと開いた。
「え……?」
少女が呆気にとられる。 俺はインベントリから下級ポーションを取り出し(これは以前ドロップした安物だ)、彼女に放り投げた。
「飲め。骨折くらいなら治る」
「……なんで」
少女はポーションを握りしめ、疑り深い目で俺を見る。
「言ったはずだ。お前を雇いたい。もちろん、報酬は出すし、飯も食わせてやる」
「飯」という単語が出た瞬間、彼女のお腹がグゥと情けない音を立てた。 少女の顔が真っ赤になる。
「……毒とか、入ってないだろうな」
「毒殺する手間をかける価値もお前にはない」
「むっ……!」
彼女は一気にポーションを煽った。 みるみるうちに足の傷が塞がっていく。
立ち上がった彼女は、足の具合を確かめるようにトントンと地面を叩き、それから俺を睨んだ。
「……借りは返す。私はミオだ」
「俺はカズヤ。歓迎するぞ、ミオ」
これで斥候確保だ。 そう思った矢先、ミオが急に首を押さえて苦しみ出した。
「ぐっ……うぅ……!」
「どうした?」
「く、首輪が……持ち主から離れすぎた……時間が……」
彼女の首にある『隷属の首輪』が、赤く脈動し始めていた。 【鑑定】の情報を見る。
【隷属の首輪】
【効果:登録された主人から一定距離離れるか、一定時間が経過すると、装着者を締め殺す呪いが発動する】
【解除方法:専用の鍵、または破壊(装着者の死亡リスクあり)】
面倒なオプション付きだったらしい。 だが、俺はすぐに思考を切り替える。 解除方法があるなら、それを手に入れればいいだけだ。
「鍵が必要か」
「……『ジェイルキーパー』。地下水路にいる魔物が……鍵を……」
ミオが絞り出すように言う。 俺はニヤリと笑った。 魔物が持っているアイテムなら、話は早い。 それは俺の得意分野だ。
「よし。次の目的地は地下水路だ。ミオの首輪を外すぞ」
「えっ、わざわざ?」
サラが驚くが、俺は即断する。 この優秀な盗賊を使い潰すには、首輪は邪魔だ。それに、魔物が落とす鍵なら、今後別の用途にも使えるかもしれない。
「行くぞ。時間との勝負だ」
俺はミオを背負うと、走り出した。
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