『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道

第1話「赤い点とドロップ率」

 気がつくと、俺は深い森の中に立っていた。  足元には湿った土の感触があり、風が木々を揺らす音が聞こえる。  そして目の前には、場違いなほど美しい女性が立っていた。透き通るような銀髪に、白いドレス。裸足で地面に立っているのに、少しも汚れていない。


「起きましたか」


 鈴を転がすような声だった。  俺は身体を起こし、服についた土を払う。見慣れない革の鎧と、腰には剣。どうやら俺の持ち物らしい。


「ここは異世界です。貴方は転移しました」


 彼女は淡々と告げる。  混乱はない。むしろ、不思議と頭は冴えていた。  俺は彼女を見る。女神と呼ぶべき存在なのだろう。


「単刀直入に言います。貴方にはこの世界で生きていただきます。元の世界に戻る方法はありません」 「……そうか」


 俺は短く答えた。  未練がないわけではないが、どうにもならないことを嘆いても仕方がない。それに、目の前の現実感は圧倒的だった。


「貴方には『生きる力』を授けます。この世界には魔物が存在し、それらを倒すことで強くなれます」


 彼女が俺の額に指先を触れる。  熱い何かが流れ込んでくる感覚があった。


「授けたのは【鑑定】のスキル。そしてもう一つ、魔物の『急所』を見抜く眼です」

「急所?」

「はい。この世界の魔物は、倒されると稀に魔力を結晶化させた『アイテム』や『スキル』を落とします。本来は運次第ですが、貴方の眼に見える『赤い点』――そこを攻撃して絶命させれば、確実にその魔物が持つ最高位の品を手に入れられます」


 確定ドロップ。  俺の脳裏にその言葉が浮かぶ。  つまり、欲しいものを狙って手に入れられるということだ。


「生き延びてください。貴方の物語を期待しています」


 言い残し、彼女の体が光の粒子となって霧散する。  後には静寂だけが残った。


 俺は自分の手を見る。  腰の剣を抜き放つ。ずっしりとした鉄の重み。安物だが、刃は研ぎ澄まされている。  とりあえず、状況を確認しよう。


 その時だった。  木々の奥から、悲鳴が聞こえた。


「いやっ、来ないで!」


 若い女の声だ。  俺は反射的に駆け出していた。  草をかき分け、声のした方へ向かう。  開けた場所に出ると、そこには異様な光景があった。


 豚の顔をした巨漢――オークだ。  身長は二メートルを超えている。丸太のような腕を振り回し、一本の木の根元に獲物を追い詰めていた。  追い詰められているのは、長い耳を持つ少女。  エルフだ。  金色の髪が乱れ、緑色の狩猟服は泥で汚れている。彼女は折れた弓を構え、震えながら後ずさりしていた。


「グオオオオッ!」


 オークが涎を垂らしながら咆哮する。  俺は足を止め、オークを見据えた。  意識を集中する。  女神に言われた通り、【鑑定】を念じた。


 直後、オークの頭上に文字が浮かび上がる。


【種族:オーク】

【討伐推奨レベル:5】

【ドロップアイテム:汚れた布、オークの肉、剛力の腕輪(SR)】


 情報が流れ込んでくる。  俺の目は、最後の一行に釘付けになった。


 『剛力の腕輪(SR)』  

効果:装備者の攻撃力を+500する。


 攻撃力プラス500。  今の俺の攻撃力がどれほどかは分からないが、この安物の鉄剣より遥かに価値があることは直感で理解できた。  欲しい。  強烈な渇望が湧き上がる。  この世界で生き抜くには力が要る。あの腕輪があれば、序盤の攻略が劇的に楽になるはずだ。


 俺はオークを見る。  視界が変わった。  オークの喉元に、小さな『赤い点』が輝いている。  あれが女神の言っていた急所か。


 オークがエルフに襲い掛かろうと腕を振り上げた瞬間、俺は飛び出した。  恐怖はない。  俺の意識は、あの一点の輝きだけに吸い寄せられている。


「ふっ!」


 俺は地面を蹴り、無防備なオークの背後に回る音もなく接近する。  オークが気配に気づいて振り向こうとした時には、もう遅い。  狙うのは喉元。赤い点の中心。


 ズブリ。


 鉄の剣が、吸い込まれるようにその点を貫いた。  肉を断つ感触がない。まるで豆腐に針を通したかのように、抵抗なく刃が埋まる。


「ギ、ガ……?」


 オークの動きが止まる。  次の瞬間、巨体が光に包まれた。  断末魔を上げる暇もなく、オークの体はポリゴン状の光の粒子となって弾け飛んだ。


 カラン、と乾いた音がする。  オークがいた場所に、銀色に輝く輪が落ちていた。


「本当に出たな」


 俺は剣を鞘に納め、その輪を拾い上げる。  ずしりとした金属の質感。表面には精緻な彫刻が施されている。  再び【鑑定】する。


【剛力の腕輪】

【レアリティ:SR】

【効果:物理攻撃力+500。装備者に怪力を与える】


 間違いない。  俺は迷わずそれを左手首にはめた。  途端に、全身の筋肉が熱くなるような感覚が走る。  試しに近くの手頃な岩を片手で掴んでみた。バスケットボール大の岩が、まるで発泡スチロールのように軽く持ち上がる。  指に少し力を込めると、岩はボロボロと砕け散った。


「すげえ……」


 これなら戦える。  俺はこの世界でやっていける。確かな手応えがあった。


「あ、あの……」


 怯えたような声に、俺は振り返る。  木の根元でへたり込んでいたエルフの少女が、信じられないものを見る目で俺を見ていた。


「助けて……くれたんですか?」

「ああ。怪我はないか」


 俺は短く返す。  正直に言えば、俺の目的はオークのドロップ品だった。だが、結果的に彼女を助けたことには変わりない。


「あ、ありがとうございます! 死ぬかと思いました……」


 彼女は涙目で立ち上がろうとするが、足に力が入らないようだ。  俺は手を差し出す。


「立てるか?」

「は、はい。すみません」


 彼女はおずおずと俺の手を掴む。  その手は震えていた。  引き上げると、彼女は改めて俺の顔を見て、それから地面に砕け散った岩の残骸に視線を移した。


「すごい……オークを一撃で倒すなんて。それに、あの腕輪……」

「これか?」


 俺は左手首を見せる。


「はい。オークがそんな綺麗な装備品を落とすなんて、聞いたことがありません。普通は汚れた皮とか、肉片くらいしか……」

「運が良かっただけだ」


 俺は嘘をつく。  『急所』のことは誰にも言うつもりはない。


 少女は姿勢を正し、深々と頭を下げた。


「私はリーナといいます。エルフの里から来ました。危ないところを救っていただき、本当にありがとうございました」

「俺は……カズヤだ。今はただの冒険者ってところだな」


 適当な肩書きを名乗る。まだギルドにも登録していないが、これからそうなる予定だ。


「カズヤさん……」


 リーナは俺の名前を反芻し、決心したような顔で顔を上げた。


「ご迷惑でなければ、森の出口まで同行させていただけないでしょうか。武器が壊れてしまって、一人では心細くて」


 彼女は折れた弓を悲しげに見つめる。  俺は少し考えた。  この森の地理は分からない。案内人がいるのは助かる。それに、エルフならこの世界の常識にも詳しいだろう。  さらに言えば、彼女も戦力になるかもしれない。弓使いなら、後方からの支援が期待できる。


 俺はリーナを【鑑定】した。


【名前:リーナ】

【種族:エルフ】

【職業:射手】

【状態:疲労、武器破損】

【スキル:弓術Lv3、風魔法Lv1、精霊視】


 悪くない。武器さえあれば十分な戦力だ。


「いいだろう。俺も街へ行きたいと思っていたところだ」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 リーナの表情がぱっと明るくなる。  俺たちは並んで森を歩き始めた。


「あの、カズヤさんはどこから来られたんですか? その服装、この辺りのものではないですよね」

「遠くからだ。ずっと東のな」

「東……東方諸国ですか。通りで、雰囲気が違うと思いました」


 異世界転移のことは伏せておく。  俺は歩きながら、周囲の気配に集中する。  視界の端に、リスのような小動物が横切るのが見えた。  その頭上にも、文字が表示されている。


【種族:フォレストラット】

【ドロップアイテム:小動物の毛皮、薬草】


 そして、その背中には小さな赤い点が光っていた。  なるほど、魔物以外にも適用されるのか。  俺は道端の石を拾い、何気なく投げつけた。  『剛力の腕輪』の補正が乗った投擲は、弾丸のような速度で赤い点を射抜く。


 ピシッ。  小動物は光となって消え、その場には一束の草が落ちていた。


「えっ!?」


 リーナが驚きの声を上げる。


「今、石を投げただけで……それに、またドロップ品が……」

「晩飯の足しにはならないか。薬草だ」


 俺は薬草を拾い、ポケットに突っ込む。  ドロップ率100%。  この能力があれば、素材集めも金稼ぎも思いのままだ。  俺の中で、この世界での生き方が明確に定まっていく。


 魔物を狩る。  赤い点を突く。  最強の装備とスキルを奪い取る。


 シンプルで、分かりやすいルールだ。


「行くぞ、リーナ。日が暮れる前に森を抜けたい」

「は、はい!」


 俺の背中を追ってくるエルフの少女。  とりあえずは彼女を守りながら、街を目指すとしよう。

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