第2話 回復剣士が出会った魔法使い
「おい、大丈夫か!」
音を頼りに小部屋に入った俺は、そこで少女を見つける。
腹から血を流して倒れており、今すぐに治療が必要な状況だ。
敵は目の前のフレッシュゾンビ――生まれたてのちょっと新鮮なゾンビ一体のみ。
「今助ける! 回斬剣・爆滅!」
俺はロングソードを横なぎ一閃。フレッシュゾンビを一撃で爆発四散させた。
他に敵はいないな。
他のアンデッドは既にこの少女に倒されたのか、丸焼けで倒れていた。
「うぅ……倒した奴が復活するなんて反則っ……! 気をつけておじさん、倒しても、また復活するかも……!」
「大丈夫、その兆候は感じられない。奴らは地獄か天国か、いずれにしても還るべき場所に還ったさ」
ここの倒れたアンデッド達は完全に無力化されている。長年戦ってきたから分かる。
俺もベテラン、ソロってのは状況確認が命取りになるからな。突入前には既に判断していたことだった。
俺は少女に駆け寄り、膝立ちで隣に寄り添う。
「やられたのは腹だけか? 毒の症状はないな?」
「う、うん……おじさん、ポーション持ってる? 私、もう切らしちゃって……」
「いや、持ち合わせていない。職業柄な」
それを聞いた少女は絶望を感じたのか、片手で出血を抑えていた手にぐっと力が入り、服にしわが寄った。
少女の服装は正に伝統的な魔法使いといったところか。
床に脱げた大きなとんがり帽子に、シックな色合いのローブ。肩を出し、ミニスカートなのは今風だな。
「は、はは……私、ここで死ぬんだ……もっと美味しいもの食べたかったなぁ……」
茶色のセミロングな髪が頬にしな垂れかかり、引っ付いている。
少女の大きな瞳からの涙が、頬を伝っているのだ。
「早まるな、君は助かる。この程度の傷なら俺が治せる」
「はは、慰めはいいよ……だっておじさん剣士じゃん……」
「そう、剣士で回復術士。その名も回復剣士だ」
見たところ一八歳くらいか。死ぬにはまだ若いぞ。
俺は剣に癒やしの光を纏わせる。
スッと剣を少女の傷口――腹の直上に構える。
「えっ、ちょ……! おじさん冒険者じゃなくて、盗賊!? う、ウソでしょ、わ、わざわざ殺さなくても、私死ぬから! 勝手に死ぬから殺さないでっ!!」
「殺さん殺さん。 あと盗賊がこんなヘンテコな技使うか? 怯えるのは分かるが、手を退けてくれないか、直にぶっ刺すのが一番効率良い」
「ぶっ刺す!? 直に!? ぎゃあああああァァァァァァ!?」
俺は少女の手を退けて、傷口目がけて垂直に剣をぶっ刺した。
――ああそうそう、以前は魔物の血べったりのまま運用していたけど、今は魔法で血を弾き飛ばしてからにしている。イメージは大事だからな。意味ないけど。
「ァァァァァァあれ……? 痛みが引いてく!? 血も、止まって――」
「他に傷はないか? 今ので全ての傷が治るとは思うが」
「な、治ったよおじさん! え、なんでなんで、ぶっ刺されたのにどういうこと!?」
「それが回復剣だ。原理は俺にもさっぱり分からん」
少女はすくっと立ち上がり、傷の治り具合だけでなく、体力が戻ったことを確かめるように拳を閉じたり握ったりした。
「本当に全部治ってる……あ、ありがっ! あり……ありありあり……」
なんだなんだ? 俺の治療に問題あったか? 急にもごもごし始めたぞ。
「と、とりあえず元気になったってコトです……」
なんか顔を赤らめて地面に話しかけているな。
まぁ元気になったのなら良かった。
「それにしても……剣でぶっ刺して治す回復術士なんて、私初めて見た……しかも、アンデッドを一撃で倒してたよね?」
「アンデッドに対しては特効があるというか、超特効みたいでな。余程のアンデッドでもない限りは一撃だ」
俺も立ち上がり、剣を鞘に収める。
「一撃……! まぁ私もこの辺りの魔物なら一撃で仕留められるけど、燃費効率が全然違うよね……しかも、ヒーラーに転じる事も出来るんでしょ? スゴ!」
「凄くないさ。Bランクだし、アンデッド以外では火力不足が深刻でな。アンデッド相手ならBランクの仕事もこなせるが、それ以外だと時間掛かって仕方ない。……回復の方も、仲間を切り裂くスタイルのせいで不評だしな……」
謙遜と言えば聞こえは良いが、まぁ自虐だな。
「仲間から不評……そっか、おじさんも……」
俺のそんな自虐に、少女は何か――
そう、共感めいたものを感じたように見えた。
「っていうか、自己紹介まだだったね! 私はリュッカ。リュッカ=ファイアストン。ランクはBで、魔法け……じ、じゃなくて、魔法使いだよっ」
「俺はザン=グレイヴン。同じくランクBで回復剣士。ずっとソロでやっている」
リュッカは小さく跳ねて言った。
胸も跳ねていたな……なかなか大きめのようで、肩凝りが酷そうだ。
それより、何か言いかけたようだが……言いにくいことなのだろうか。
立ち入るのは野暮か。今の言葉ではノンデリっていうらしいが。
「リュッカ、君仲間はいないのか? はぐれたのなら急いだ方が良いと思うが」
「あー……いや~……実は私もソロなんだよねー……へへへ……」
これ、なんかあるな……
さっきまでハキハキしていたのに、またもごもごし始めたぞ。
「そ、そうだザンさん! あなたのクエストは終わったの? 良かったら、一緒に回ろうよ! 私、まだクエスト残ってて」
「俺もまだ途中だよ。俺で良ければ一緒にやるか。それと、ザンで構わないぞ。呼びづらいだろ」
「じゃあ……よろしく、ザン! ――よっし! さっきはやられたけど、ぶっ飛ばしてやるぞぉ!」
「はは、威勢良いな。それはそうと、杖忘れてるぞ。命の次に大事だろう、魔法使いにとって杖なんて」
リュッカはあろうことか杖を忘れて先に進もうとしていた。
樫の木の杖。魔法使いがよく使うタイプの杖だ。
「え? あ、ああそうだね。あ、危ない危ない……」
「……なーんか、隠してないか?」
「えっ!? そ、そんなことないっすヨー」
嘘下手か。
怪しすぎるリュッカだったが、まぁ悪意ある嘘ではなさそうなので、問題とは思わないが……怪しすぎるなぁ。
「そ、それとさ、その……お礼言ってないよね! その……あ、ありが……あり……ありありあり……」
リュッカはタッと駆け出して、顔をこちらに覗かせながらこう続けた。
「ぁ、ありがとっ、ザン」
なるほど。どうもこの子は、恥ずかしがり屋さんらしい。
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