八百万の骸柱
月影光貴
第一話 廃神社の夜
夏の夜は嫌になる程蒸し暑い......がこんなモノを見てしまっては肝が冷える。
「木が倒れてきたッ!?灯ッ......っ!??なによっ......なんなの............
「た、助けて............足が......」
「......?灯は見えてないの?私だけ??」
女の子達の目の前には異形の化け物がいた。なぜそんな目にあったか?遡る事今日の学校、昼食中。
「ねえ
そう言うのは私の幼馴染の
「えー......どこに?それよりバズってる渋谷の店に行きたいんだけど......」
「えー、いいじゃん!いいじゃん!あの近くの森にある廃神社だよ!澪は巫女さんなんだから何かあっても何とかしてくれるでしょ?その勾玉のアクセサリーいつもつけてんだしさ!」
と澪の首から下げられた勾玉に指を刺して言う。
「これぇ?父さんがつけてろってうるさいからしてるだけだし、巫女だってバイトとして親から金もらえるからしてるだけだし............てか、そこ父さんが魂抜きとお祓いする予定の場所じゃん............」
ネックレスを外して指でクルクル回しながら答える。
「おっきな神社の宮司の娘が言う事かねぇ〜?神様泣いちゃうよ〜それに崩す予定なら尚更今見に行かないとね!」
「神サマなんていないよ、由緒ある神道の家系だけど感じた事もないし」
と冷めた感じでダルそうに言う。
「巫女がイッチバン言っちゃダメでしょ!とにかくさ、澪の好きなコーヒー屋のドリンク一杯奢るからさぁ〜お願いぃ〜〜」
と財布から千円出して無理矢理押し付けてくる。
「いいって!いらないよ!......はぁ、わかったからさ............」
いつもこうやって付き合わされる、そしてなんだかんだ楽しむ。それが常だった、だが今日は違った。
そして学校が終わり部活も帰宅部なので帰宅して夕食時になる。
「今日この後ちょっと出かけてくるから鍵持って行くね」
「夜にか?それに、もう20時になるぞ?どこに行くんだ?」
と父が食事をしながら尋ねる。
「肝試し、灯がどうしてもって言うからさ」
「女の子2人で大丈夫?最近変に事故とか事件が多いし不安だわ。昨日だって震度4の地震もあったしねえ............」
母は頬に手を添え心配そうに言う。
「そうだな、それに肝試しってどこだ?」
「秘密、って事で食べ終わったから灯との待合場所行ってくるわ」
そう言うと有無を言わさずパッパと家から出て行った。父は少し考え込んだ様子で俯いていた。
「あの勾玉を持たせているから、
父として宮司としての感は鋭く強い。彼の嫌な予感は当たる。
一方で近場のコンビニで待ち合わせをしていたので時間より早めに澪は到着するとソーダ味のアイスと乳酸菌飲料を買ってイートインに座り、アイスを齧ってスマホを弄りながら彼女を待つ。
(早く来すぎちゃったなぁ......これじゃあ私がまるで張り切っているみたいじゃない............)
そうしているとトイレに行きたくなり行く。
「ふぅ............え?ん??見間違い?」
手を洗い鏡を見ると自分が二重に重なって見え、眼の瞳孔に変な模様があるようにも見え困惑する。
「はぁ......肝試しする前から怖気付いているんじゃないわよ、私............ひっ!??」
そうしているとピタリと冷たい感触が背中刺す、叫びそうになりながら振り返った。
「なっ、な......ねぇ!灯!!びっくりさせないでよね......」
「ふふっ!私の冷やした手は冷たかろう!」
そう灯が彼女の服の下から手を通してピタッと手をつけただけである、彼女の汗を気にせず。
「もう!何かあっても助けないよ!......はぁ、さっさと行きましょ」
そう言いながら灯りの手を掴んで引いて行く。
「エスコートよろしくお願いします♪」
「はいはい、お嬢様」
そう言いながらコンビニから出て、灯はスキップでるんるんで進んで行く。それを見て自然と笑みが出る澪。
「ねぇ?澪」
「なに?」
「最近の都市伝説知ってる?」
そう唐突に言われた彼女は呆れて答える。
「何よ?藪から棒に」
「肝試し行くんだからそんなに脈絡ない訳じゃないじゃない。アレよアレ!変な見た目の化け物が沢山いて見えちゃう人は大変ってやつ!チックタックでも心霊動画でアップされてたじゃん!」
とスマホの画面を見せつける、そこには鹿の体に鱗のように人間の耳がびっしりとついており人の顔、そして頭から人間の腕が6本生えている意味不明な化け物が人に襲い掛かろうとする動画だった。
「それAIじゃないの?趣味悪いデザインだねぇ、一部皮が剥げて筋肉見えてグロテスクだし」
「他にもたーくさんあるんだよ!だから今日の廃神社で私達も撮影してバズっちゃお!」
あまりにも不敬で身勝手な理由で廃神社に行きたい灯。
「神なんて信じないって言ったけどそれはちょっとね......バチ当たらないかな?」
昼とは反対に不安になる澪、鏡の見間違いも心理的に作用してマイナス思考に。
「だったら撮影者も死んでるし大丈夫!何が来ても私が守ってあげる!」
そう笑顔で両手を広げて言う彼女を見て過去を思い出す澪。
「そうね」
(小学生の時私をイジメから救ってくれたモンね、ホントに灯には敵わないや)
そう思い過去を思い出す。
――――――
「おい!お前、いつも変なモンぶら下げてんのに先公に許されてんのズルくねえか?」
「そうだ!いつも何考えてっかわかんねえしキメェんだよ」
「............もん」
「あ?」
「灯には褒められたもん!」
「くだらねえ、引きちぎってやるわ!」
その瞬間横から拳が飛んで来ていじめっ子の顎をぶっ飛ばした。
「へぇ、
――――――――――――
(灯は強かった光っていた、私は焦がれていた)
そうしていると入り口付近まで着く。がおかしい、普通入ったら寒く感じたり異常現象が起こるのが定番だが、夜を更に暗くする木々にボロボロ石の階段。そこに近づいただけで2人は同時に寒気を感じた。
「なんかゾワっとしたよ!ここ
能天気な灯はあまり精神的ダメージを受けていない。
「いや私も変な感じしたけどさぁ......まあこんなに暗いのは想定内よ。私は3000ルーメンのライト2本とバッグとジーパンのベルト巻くところにぶら下げられる1500ルーメンの広範囲ライト6個持ってきたわ」
あまりにも用意周到である、これでは明るすぎて通報されてしまう。
「なによ〜ノリノリじゃん〜このこの〜〜♪」
と肘で突く彼女にライトを半分渡して階段を登り始めた。
「明るすぎて虫寄って来たんだけど〜」
「はい、虫除けスプレ〜」
秘密道具でも出すかの様にバックから取り出して噴射する澪。この女意外にも付き合わされてますよ感を出しておいてかなりノリノリの奴である。
「いつもこうやって私の思いつきに付き合ってくれて補助してくれるなんて助かる!ほんっとに私が男だったら澪と付き合うわ〜」
「はいはい」
(......?なんだろう、なんかモヤモヤする)
そんな事をくっちゃべっていると登りきり朽ちた鳥居を前にする。
「......酷いなぁ、ここ何でこんな事になっちゃったんだろ?」
そう言いながらキョロキョロ辺りを見回す。
「確かここの神社を壊して土退けてマンション建てる予定で無理矢理押し通したんだけど、その建てる会社が潰れちゃって無意味にここは終わっちゃったんだよね。父さんが怒っていたよ......あとあんまり同情すると変なの寄ってくるからやめな」
(そう言う優しいところも私は救われているんだけどね)
「それはアレだねアレだよ......えーっと............」
「幽霊だよ」
「そう!同情すると救ってもらえると思って寄ってくるんだよね!やめよ!可哀想だけど私にはどうしようもないし!」
そう言うと鳥居を潜って光を放ちながら進んでいく。
「ちょっと!あまり離れないで、あと肝試し誘っておいて幽霊が言葉で出てこないって............」
また呆れつつ鳥居を潜り追う。
「わー、これが本殿ってやつ?」
そう指を刺している先には小さめの建物があった。
「うーん、他に建物は物置くらいだしそうかな?ここは何を祀っていたんだろうか?父さんに聞いておけばよかったな」
「へー写真撮っとこう〜」 パシャ
「はぁ」
「っ!ひっ!??み、みみ見てっこれ」
そう言いながら本殿を撮った写真を見せつけてきた。
「は?加工したの?なにこいつ?泥の塊に人の足が何本もある化け物って、趣味がさっきの動画に引っ張られすぎる」
その画像には本殿の後ろに明らかな異物、そう化け物が立っていた。
「違うっ!ダメ、もう逃げよ......」
そう言った瞬間に横にあった朽ちた木がメキメキと音を立てて突然倒れて来る。
「灯っ!」
行こうとするも手遅れで彼女は木に当たってしまい負傷するも幸い下敷きにはならず弾かれて地面を転がった。
「うぅ............」
血だらけの足を苦しみながら抑えて悶える灯。
「木が倒れてきたッ!?灯ッ......っ!??なによっ......なんなの............
「た、助けて............足が......」
「......?灯は見えてないの?私だけ??」
(なっ、なに?臭いっ?画像の化け物が本当にいる......?そして灯は見えてないの?)
目の前には倒れた木に足を乗せている体長数メートルの化け物だ。悪臭漂わせる泥の様な物はモゾモゾ蠢き無数の足はビタビタ動く。灯を捕食する気か近付いて行く。
「やめろッ!灯に近寄るなッ!!」
無謀、無理だと分かっていても身体は動き化け物の前に立ち塞がる。
「むごぎうぐるふが??」
形容し難い声らしきモノを上げて前足何本も上げて潰しにかかる。
(くっ......ごめんっ。救ってもらってばかりなのに私は灯を救えないッ!)
そう絶望し恐怖で涙が溢れるも退かずに手を広げ続けた澪に灯は叫ぶ。
「何をしているのっ!本当に何かいるのっ?なら逃げてッ!!」
「嫌だァ!」
(都合が良過ぎるけど、どうか神様今だけで良いから助けて......私には灯に返しきれない恩があるんだッ、例えダメでも退けないッ!)
その叫びの刹那に化け物は足を高速で無慈悲に連打した。
「びがぎぐるる!!............ぼびっ?ぐばぁばび!!」
勝ち誇った化け物は驚いた、たかが女のガキ相手楽に潰し終えると思っていた、だが違った澪の首から下げている勾玉から光の壁が生成され完全に防御していたのである。
「えっ......?た、助かっている?......驚いている場合じゃないっ。灯っ、逃げるよ」
そう言いながら肩を貸して化け物が困惑しているうちに立ち去ろうとする。肩を借りた灯は申し訳なさそうに澪の顔を見て驚く。
「ごめんね......本当に......??眼が、澪の目の中に三日月みたいな模様がある上に光ってる......?」
「なにっ?とにかく逃げなきゃ」
彼女の話を聞く余裕などなく足を引き摺りつつも頑張って鳥居の手前まで来る。だが化け物も馬鹿ではない、気味の悪い足音を立てて近付いて来る。
「やばいやばいっ」
(この化け物鳥居を潜れないんじゃないか?穢れを持ち込まない為に鳥居は潜って入れないなら、穢れの塊みたいな奴はこの穢れた神域の鳥居から外に出れないんじゃないか?)
そう思い化け物の速度的に間に合わないと思い灯を本気の力で投げ飛ばして鳥居の外に出させた、彼女は無力に転がって行く。澪は覚悟を決めて振り返った。
「アンタが何なのか、私の直感が教える。ここの神だったモノだね、何があったか知らないけど灯にこれ以上手出しされて堪るかってんだよ」
そう言いながらまた祈る。
「うびびまちぬる゛る゛!!」
化け物は光の壁に四方で囲まれた動けなくなった。
「なんとかなった、なら終わらせれる筈......」
(うぅ、なんて臭い............まるでドブ川の臭い......)
そう言いながら近づき化け物の足に触れた、その瞬間に絶叫する。その化け物に光が纏わりつき始めた。
「う゛ぼあ゛ごごな゛さ゜」
しかし、そう上手く行くわけも無く化け物は力を振り絞って壁を壊して逃げていった。澪は安堵しその場にへたり込む。
「......はぁ............勘弁してよね............いや、無闇に荒らす様な事をした私達が悪いか......」
そうしていると後ろから走り近寄る足音、灯が走れる訳がないので急いで立ち上がると父がいた。
「と、父さん!?」
「バカタレ!ここにさえ行かなければ現状はこの付近は大丈夫だったのに............まあ、その眼を見る限り結局は神はお前を選んだんだな、だから助かった」
父親が訳のわからない事ばかり言うが、それよりも灯の安否を気にした。
「ねえ!灯は!灯は大丈夫なの?」
「今はな、骨折もしていない。だが奴に呪を施された、奴を討つしかない。お前の役目だ、俺にその力はほぼ無い。俺はアレがああなる前に浄化するか消し去る事に特化している、ああなっちまったらお前みたいな奴しか倒せん」
漫画の様な事実を告げられ惑うが灯を救いたい一心だった。
「なら倒す、それだけよ。灯はどこに?」
「俺のダチが病院に運んでくれてるよ、だが足の傷に施された呪いは広がり、やがては壊死に似た症状になり切断するしかなくなる。その勾玉で奴を討て、首から外した握りしめてみろ」
言われた通りにすると勾玉は剣になった。
「!?なにこれっ、見た感じ
「違う少しな。皇族でも陛下でも実物を見てはいけない本物とは違うが、同じ製法で作られた過去の遺物だ」
「なんで......?何でそんなモノを私にずっと持たせ続けたの?これからバリアみたいなの出たし......眼が変になるし......」
「話せば長くなる、今は帰るぞ。灯ちゃんのご両親は幸いこの事象に理解があるから揉めずには済むが」
「この事象?あいつに名前でもあるの?」
「奴は
「ガイチュウ............?」
(神を殺す?......でも、あれは加害性はあれど被害者............何か他に道は............)
そう困惑する澪、そして澪は骸柱を討つべくして翌日の土曜にまた現地に向かう事に............。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます