第4話 赤備えの最後

 眼前には鉄砲隊を従えた徳川家康。その彼を守らんとする為左右を固める本多、榊原と徳川の主力が今鬼と化した昌景を止める為に立ちはだかる。


 対してこちらは先程の射撃により大半が討ち取られ数にして百に満たない。


 「ここにきて徳川の小僧がワシの死に際を見守るというのか?因果なものよ」


 かつて三方ヶ原の戦いで家康を追い詰めた立場とは逆の立場である。


 「ぬかせ…ここで簡単に討ち取られる程ワシは」


 ゆっくりと立ち上がる中昌景は指揮棒を口で掴み立ち上がる。


 それだけで徳川の鉄砲隊に緊張が走る。彼等は知っている山県の赤備えの恐ろしさその長である昌景の武勇を。


 既に潰走し撤退する部隊を援護し続けた彼等は唯の死兵であるが死兵ではない。誉ある、赤備えが闘志を紅蓮し焦がし今燃え尽きようとしておる。


 昌景が立ち上がるのを確認した家臣は一人の騎馬隊を呼び馬から降りてもらった。


 「殿」


 後から家臣に呼ばれ昌景は何も言わず家臣に助けられながら馬に乗り力を失った両腕を無理矢理動かしもらい手綱を握りしめ。


 バンと馬の尻を叩き走らせた、既に家臣達に戦意は無く涙ながらに昌景の勇姿を見送ることしできなかった。


 昌景の動きに家康は無言のまま軍配を振り下ろすと同時に鉄砲隊の一斉射撃と他には弓隊からの援護射撃が飛び交う。

 

 チュン!とスズメの鳴く声よりも重い音が鎧や兜を掠めるが昌景は気にせず前進を止めない。


 次第に距離が近づくにつれて昌景の太腿や肩に激痛が走るが彼はそれでも馬を進める。


 そして…徳川家康と数百メートルの所で動きを止める。


 指揮棒を咥える口からは大量の血が溢れ腕はさらに銃弾をくらい千切れそうになっている。


 それでも昌景は歩みを進めようとした時。


 バンと無数の轟音と共に昌景の腹部に銃弾がめり込む。


 そこで昌景はまだ戦意を失っていない目で徳川家康と目が合う。


 「殿!?、どうなさいますか!?」


 「もうよい、あれでは助からぬ。お前達もよく見よ武田の赤備えの天晴れな武者振りよ。武田は戦に敗れたが武田の武と赤備えは後世の語り草になるであろう」


 血だるまな状態でまだなおもこちらを睨んでいる昌景に家康はかつて追い詰められた敵に対して。


 「見事だ」

 それだけ告げ山県隊がいた場所を迂回する形で武田の追撃を始めるよう指示を出した。


 敵方が兵を引き上げる動きを見せたと同時に昌景は糸が切れたようにゆっくりと馬から転げ落ち始めたのだ。

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