第13話 未来につながる場所

朝食 7:30


施設では朝食が出るところもあるし、出ない所もある。

ここは質素な朝食が出るだけ。


豪華じゃないが、無料で温かいものが出るだけで大きく感じる。


福祉課に提出する書類の説明を職員がしてくれる。


「今日、14時にケースワーカーさん来ますからね」


俺はうなずきながらメモを取る。


午前 9:00


シャワー室へ。

同じ時間帯に他の入所者と入らないよう、スタッフが軽く調整してくれる。

体を洗い、髭を剃り、爪を切る。


これだけで、社会に戻る準備が進んでいる気がする。


その後、職員が

「履歴書、写真撮りましょうか」と言ってくれる。


施設の簡易的な背景シートとスマホで撮るだけだが、久しぶりに人に写真を撮られた。


昼食 12:00


質素な弁当が出る。

これは生活保護費から差し引きされる。


お世辞にもおいしいとは言えないが、3食きちんとした食事が生活リズムを作る。


午後 14:00


ケースワーカー面談。


今後の方針、アパート転居までの流れ、就労支援との連携、必要書類の確認など、淡々と進む。


「この施設は家賃も低く、あなたに残る生活費が多いので、2〜3か月でアパート移行できますよ」


「本当に……行けそうですか?」


「行けます。大丈夫です。あなたは動けてますから」


夕方 16:00


軽い散歩に出る。

外出は自由。

近くの公園へ行き、ゆっくり深呼吸。


この2週間は「体調と書類を整える期間」なので、あえて日雇いは入れない。

体が回復するほど、焦りより「やれるかもしれない」という気持ちが勝ってくる。


夕食 18:00


他の利用者と顔を合わせる。

派手な人もいるが、多くは静かで、疲れていて、誰も人に干渉しない。

みな、黙々と食事を済ませる。


夜 20:00


部屋で一人、ケースワーカーにもらった資料を読んだり、

ハロワの求人を検索したりする。

書類を整えるのに必要な住民票や身分証の再取得も、職員が同行してくれる予定。


今の一日はこんな感じだ。

ネカフェでただ今日を生きるだけだった時とは違う

人間らしい生活を送れていると実感できた。


2週間で準備、その後アパートへという目標を思い返す。


お世辞にもここでの生活は快適とはいえない。


けれど、未来につながる場所としては、十分な価値がある。


翌朝、俺と朝倉は地域就労支援センターの目の前に立っていた。


古い雑居ビルの3階にある「地域就労支援センター」。

朝倉と並んでエレベーターの前に立つと、金属の扉に薄く映った自分の疲れ顔が目に入る。


「……ほんとに行けるのかな、俺たち」


隣の朝倉は、うつむき気味に言う。

彼女もネカフェ生活の疲れがまだ抜けていない。けれど、今日だけは薄くメイクをしてきていた。


「大丈夫。書類も揃えたし、ここで方向決めるだけだから」


そう言いながらも、自分の声がわずかに震えているのを自覚する。


俺たちは不安ながらも、センターへと足を踏み入れた。

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