第24話
いや、まあどちみち出来る限り戦おうとは思ってるけど……。
「確かに、ここには三浦さんがいるもんね」
「そうだそうだ!大丈夫だって!」
皆、途端に気が抜けたような表情になり、朗らかな雰囲気で廊下に出始めた。
えっ、何その信頼感。皆私に信頼を置きすぎじゃない?
こ、これはもしかして、倒せなかったら学校での居場所がなくなるタイプ?というかそもそも、私が他の隊員が来る前に負けたら、皆は……。
そこまで考えて、私はゾッとした。私が負けたら色んな意味でまずい。なんとか耐えねば。
仕方なく一応つけてきたベルトのボタンを押して、隊員服に着替える。
「おー!すげー」
「頑張ってね、三浦さん!」
「う、うん」
謎の声援と注目を浴びつつ、私はなんとか下に降りた。屋上に避難って言ってたし、まあ下にいるはずだという予想だった。
エミュレイターセンサーが更に強くなる。びりびり体に響く感覚。
晴れ渡った空とそれに似つかない騒々しく不穏な空気が周囲を包んでいた。上からの喧騒に対し、下の階は酷く静かで不気味だ。
慎重に壁を伝って周囲を見回す。生き物の影はない。どこだ……?というか、そもそもどんな形なんだろう?
そんなに早く動く生き物ではないはず。そしてそこまで大きくもないはず。だって10体も学校の中に入るなら……あれ、そもそも、全部校舎の中に入ったのだろうか?
私は気になって、慎重に玄関から校舎の外に出た。その間、何か怪しい影を見た気がするが、一旦それは放っておいた。
グラウンドで周囲を見渡してみて、驚いた。
そこにいたのは、大量の、鹿。
「え、鹿?」
エゾシカだった。
分裂群かと思ったが、すぐにそれは違うと悟る。一匹目は口から火を吐き出し、二匹目は自分の角を氷づけに、三匹目は竜巻を起こしていた。いやいや、そんなことってある?
しかしこれで分かった。珍しいことだが、稀にエミュレイターが集まって群れを成すケースがある。本当に稀な話だが、その場合、こんな感じで同種に擬態し群れで色々行動する。
思えばこの学校は裏が森なので、しばしば動物の出没情報があったりした。鹿の話だってあった。なので、こういうこともまあ、ありえないことはない、のか?
でもカオスすぎだろ、いくらなんでも。
とにかく、能力が違うなら一匹一匹対処が変わる。あと鹿は単純に俊敏なので全部相手にすると収拾がつかない。
なのでとりあえず校舎の中にいるものから片付けることにした。
校舎に戻り、エミュレイターセンサーの反応する場所を探す。そのとき、なにやら怪しい声が聞こえてきた。
「ぎゃーー!!!!この、このぉぉおおおっ!!」
……この声、茜では。
嫌な予感がして声のする方に見に行くと、そこには、鹿の角に攻撃されている茜と鹿の下で完全に死んでいる茜の姿が。
どういう状況?と思いつつ、鹿が動かないのを良いことに、鹿の核を転移させる。
あ、ちょっと鹿が角動かしてたせいで上半身全部持ってきちゃった。まあいいや。
どろりと黒い血が流れる胴の断面を見ながら、私はまっすぐ核があるであろうところに剣を突き刺す。
ぱきり、と核が割れる感触がして、エミュレイターセンサーが弱まった。
「……あれ?え、どういうこと?」
上半身が突如なくなったグロい姿の鹿を見て、茜はしかし叫ぶことはせずただ困惑する。
同時に、もう一人の茜はパッと姿を消してしまった。分身の時間が切れたようだ。
私は話しかけようか迷ったが、決断を下す前に茜がこちらに気づいた。
「あ」
「し、史詩夏」
視線がかち合う。
茜は何やら気まずげな表情を浮かべて私を見ていた。私は私で、茜にどんな反応をすれば良いか分からず曖昧な顔をする。
「どうしてここに?」
「いや、その……」
「怪我してない?」
「う、うん」
茜は挙動不審に答える。どうしたのだろうか。普段はすごく……なんというか、勝ち気で自信溢れる感じなのに。
「ごめん、私は他のエミュレイターを食い止めに行くね。茜は早く上に行って」
「待ってよ!私も手伝う!」
「えっ」
思わぬ言葉に、私は素っ頓狂な声を上げた。
ぐんぐんと近づいてきた茜は、私を真っ直ぐ見つめて、一言。
「私も仮にもEESの端くれだし、皆のピンチに何もしないのは信条に反する!」
どーん!と効果音がつきそうなほど勢いよく、茜はそう言い切った。
「いや、危ないから上に行って」
「なんでよ!!」
キレのあるツッコミだった。おお。
「茜は危険度B一匹にも負けるでしょ。さっきも、あのまま鹿にめっためたにされててもおかしくなかったよ」
「それは……そうだけど、でも」
「とにかく、私は行くから。早く逃げて」
「あ、ちょっと!」
私は吠える茜を尻目に、再び校舎を出た。
相変わらず鹿たちは縦横無尽にグラウンドを歩き回り駆け回り、氷や炎を散らしている。あ、桜の木に火が!と思ったら水が落ちて今度は消火……。この水はあの個体の能力かな。
とりあえず一匹一匹の能力を確かめて、考える。危険度Bなら力でゴリ押しできるかもしれない。何体も集まってこられたらすぐ逃げて、隙を見て一匹ずつ倒していけばいいか。
……ただ、問題は彼らが一匹単位で行動することが基本的にないということだが。
鹿の特性って何かあったかな。うーん、やっぱり音には敏感だよな。ただ、今彼らはどちらかというと捕食者側なので、思うような反応はしてくれなさそうだが。
悩んで、結局一匹一匹の上に行き機関銃で殺していく作戦にした。
「転移」
即座に氷を操っていた個体の上に行き、目が合う前に機関銃をぶっ放す。コイツは目が合った物全てを凍らせていて一番厄介だ。
蜂の巣になって奴はばたりと倒れた。
よし、まずは一匹。
しかし、戦闘の音のせいで、他の個体がすぐさま集まってきた。
私はまた転移し、一番離れたところにいた鹿を上からまた蜂の巣にする。
この鹿は……水を操っていた個体だな。
そのとき、近くにいた一匹の鹿がこちらへ迫ってきた。
やべっ。次の瞬間、炎が私の体を包んだ。慌てて転移し、ポーチからウォーターボールを取り出し自分にぶつける。その瞬間、炎は消火されたが、私の髪はちょっと焦げた。
この個体は炎を出す個体か。私はまた転移して鹿の真上から機関銃をぶっ放して倒す。
しかしまた大量の鹿たちが迫ってきたので、転移してもう一匹倒す。4匹目。
そのとき、突如鹿たちの体がぐにゃぐにゃと歪みだした。
くそ、本体になられたら厄介なのに……!
鹿たちの体は、変形を繰り返して人のような形になる。それぞれ、石、電気、植物、風、熱、闇を彷彿とさせる姿で、まさしく怪物と称すのが相応しいような出で立ちだった。
ああ、本性表した。
私は肩を落としつつ、彼らを見つめ返した。
勝てるかは正直怪しい。だが、やってみるしかないのだ。とにかく、あと四時間は耐えなければ。
さあ、第二ラウンド開始だ。
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