第7話 街の伝統

 サミリーさんにお呼ばれしました。昨日の今日ですが、昨夜の製麺機の使い心地や、使い勝手などを共有するために呼んだのではないか、と隣を歩くジェリーは言っています。

 ムスヒに行ったこともなければ、麺類というものを食べたことがない私は全くどんな食べ物かわからないので、昨日の製麺機を見ても何もイメージできませんでした。

 ジェリーがいうには「ローラー部分で薄く延ばして、それを歯の部分で等間隔に切るという構造の物です」と教えてくれたけれど、そもそもどうやって食べるの?焼くの?煮るの?茹でるの?そのまま?それはないか・・・。何もわからない・・・・。


  コンコン「サミリーさん。エリアノーラです。いらっしゃいますか?」

 「いらっしゃい。すまないね、続けて呼んでしまって。ジェレミアも一緒か。とりあえず中にどうぞ」

 「お邪魔しますー」

 「お邪魔しまーす」

 「2人とも、いらっしゃい」

 「あ!ジェシーお姉様!お久しぶりです!」

 「ジェシーさん、お邪魔します」

 「エリーちゃん、久しぶりだね。元気だった?って聞くまでもなさそうだね」

 「私は、いつも元気ですフンス!ジェシーお姉様こそ、いつも会うたびにお忙しそうでしたが、平気ですか?」

 「領地の農場もいろいろと落ち着いてきたからね。今は少し楽になったよ」

 「それならいいのですが・・・。」


 ジェリーから聞きました。サミリーさんが、自分の代で農作物の供給力は一定の目途が立つと仰っていたとか。ですが、もちろんサミリーさんお一人で出来るものではありません。サミリーさんの背中を見て育ったジェシーお姉様の助力なくして、到底ここまでたどり着けなかったことでしょう。と、勝手に思っていますけれど、間違ってはいないのではないかと思います。

 少しは、お母様から労いがあればいいのですが。


 「ジェレミアは察しがついてるとは思うが、一応の結果報告だ。結論から言うと、この個人用は十分使えるレベルだ。昨夜、アンとジェシー、旦那に食べてもらったので、合格ラインだと思う。多少の太さのバラつきはあるが、手作業ということを考慮すれば、さすがの出来と言っていい。この方向で、精度を上げて作ってくれ」

 「か・・・簡単に言うね・・・。まあ、わかったよ。努力はしよう」

 「それは素晴らしいですね。さすが、職人長です。ところで・・・アンさん。僕から依頼をしたとしたら受けてもらえますか?」

 「うん?まあ、それは構わないよ。私は、今は個人の伝手での依頼しか受けないことにしてるから、そんなに多忙な身というわけでもないからね」

 「それは良かった。では、を作ってほしいんです」

 「ムーラン?」

 

 全員が同じタイミングでしたので、思わず笑ってしまいました(笑)

 しかも、同じ転生者のサミリーさんもわからないようでしたので、一般的ではない器具なのでしょうか。なんだか、ちょっと可愛らしいネーミング。


 「はい。一般的な家庭にはあまりないものですので、サミリーさんが知らないのも無理はありません。まあ、ざっくり言うととでもいうんでしょうか。鍋なんかに乗せてハンドルをくるくる回すと、網目と羽で具材が押しつぶされて、網目を通って裏漉しされて鍋に落ちるような機構です」

 「ほう・・・。んー・・・はあはあ、なるほど。なんとなく形が掴めてきました。ということは、羽はちょっと角度がついてないとダメだよね」

 「そうですそうです。で、種なんかは網を通らずに残る、みたいな」

 「これは、水車製麺機より早く作れそうだから、こっち先にやるけどサミリーいい?」

 「構わない。そんなに急いでいるわけではないからな。」

 「よし、決まりだね。じゃあ、さっそく帰ったら作り始めるよ。一応、形になったら同じように見せに来よう」


 なんだか、スルスルと話が進んでしまってジェシーお姉様と私は全くいる意味がなくてフンマンヤルカタナイというやつです(あってる?)。ですが・・・


 「ジェリー。そのムーラン?を使って何をするつもりなの?何かやるつもりなんでしょう?」

 「はい。この製麺機を飲食店に入れます。そこでパスタを提供して、そのソースを作るのにムーランを使います。」

 ん?・・・・なんだか・・・。まあ、まだ大丈夫そうですが。


 「いや、そんなに大量に作れるか?これ、意外と面倒くさいんだぞ?そもそも飲食店だって、夫婦だけ、家族3人とかで経営している店ばかりだ。そんな負担は・・・それに」

 「確かに、現状の人員でやろうとすると難しいでしょう。ですので、水車製麺ができるようになるまでは、価格設定を割高にして、富裕層向けとして提供します。その儲けを使って新たにパスタ要員として新規雇用を目指します。そして・・・」


 あー、それはダメです。

 「ストップ!ストーップ!その話、少し待ってください」


 この街フーペは、とても良い街です。

 治安も良く、食べ物も美味しく、人もみんな優しく親切。そして、何より「和を大事にしている」ことが大きいのです。みんなが他を思いやる気持ち、相手を尊重する姿勢、そして、何事も必ず合意形成を図ってから物事を進める、ということを徹底しています。纏まらない時にだけ、領主の判断を仰ぐというプロセスです。

 これは、フーペの伝統。 

ですので、このジェリーの拙速な判断では、まだ先方に話もしていないでしょう。それでは、住民以上に街としての反発を招きます。

 きっと、知らないのでしょう。しかし、動き始めてしまうと「知らなかった」は通用しません。ここで止められてよかったと思いましょう。


 「あぁ、エリアノーラ。すまない。私のミスだな。説明していなかった。先輩として伝えるべきことだ」

 「いえ、私もこれまで失念していました」

 「え?え?なんです?僕、何かやってしまいました?」

 「ジェリー。この街は、代々転生者の生まれる街で、転生者には寛容です。しかし、私たちは人と人です。人と人であるが故に、何かを決める時には必ず相応のプロセスを踏むことが肝要です。あなたの今回のお話は、相手に対して礼を失しています。あなたは、転生者です。ですが、だからといって、街の人の心を無視して何かを決めることはできないのです」


 厳しい言い方かもしれません。ですが、良い機会かなとも思います。私は、ジェリーの友人である前に領主の娘なのです。ジェリーなら、理解してくれるはず。


 「・・・・・。なるほど、確かにその通りですね・・・。全く、そういった認識が抜けていました。これまでの経験から、思いついたら行動しても平気だったのもありますが、思えば・・・きっとそれでも問題ない事柄、範囲だっただけなのかもしれないですね。サミリーさんがあまり急がないのも、これが理由ですか・・・。これは、本当に恥ずかしい。お嬢様、街のみんなから蔑んだ目で見られる前に教えていただいて、ありがとうございます」

 「フーペの街の治安の良さは聞き及んでいましたけど、そういう街の中での意思決定のプロセスが働いてるのもあるんでしょうね。我がモランドなんて、それはそれはカオスの極みですよ(笑)領主様も匙を投げる時があるくらいで(笑)エリーさん・・・では領主様は、特に街のアレコレに関与しないんですか?」

 「お父様が出張ってくるのは、街ではどうにも決められない時の調停くらいです。あとは、公共事業とかですね。ご自身でも、「私が出ることで何か話が進んでしまうと、自分で考える必要がなくなってしまうだろう?」と仰っていましたし」


ジェリーも項垂れていますけど、もう大丈夫でしょう。あまりに酷いと報告しなくてはいけませんが、やはり転生者の方は理解が早いです。


 「じゃあ、ジェレミア君。さっきのムーランの件はどうしよっか」

 「いえ、製作はお願いします。ただ、僕もサミリーさんを見習ってスピードを緩めようと思います。ですので、アンさんの都合でやってもらって平気です」

 「わかったよ。でもまあ、予定通り作って持っては来るよ。いつから使うかは、ジェレミア君の方の進捗で決めればいい」

 「ありがとうございます」


 どうやら、ハプニングはありましたが上手く話はまとまったようです。ちょっとヒートアップしてしまって、今更ながら顔から火が出そうなくらい恥ずかしいですぅ。こんなつもりじゃなかったのにぃ!

 どうしよう。「うっわ。こいつ、めちゃくちゃうぜえ」とか思われてたら・・・。あああああああ!もっと言い方あったでしょ!もう!エリアノーラのバカ!なんでもっと・・・・・はあ・・・。いえ、今更もう遅いですね・・・。


 「エリーちゃん!」

 「ジェシーお姉様。どうしました?」

 「さっきのエリーちゃん。とってもカッコよかったよ!さすが、領主の娘って貫禄で頼もしかった」

 「ジェシーお姉様・・・。ありがとうございます。街の声を代弁出来ていたか不安もあったので、褒めていただいて気が楽になりました」


 

 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る