第2話 切り抜きチェック(本人は知らない)


配信終了から、わずか三時間後。


とある動画サイトの急上昇欄に、一本の短い切り抜きが滑り込んだ。


【衝撃】新人銀髪JK、初ダンジョンで見せた戦場の動きがヤバすぎる件

〈00:12〉

しゃがみ歩行→即座に遮蔽物越しヘッドショット

まさに戦場


〈00:27〉

跳躍モンスターを空中撃破

まさに戦場


〈00:41〉

「角は必ず死角があるので」

まさに戦場のコメント



《切り抜き動画》

――再生数:1万 → 5万 → 20万


《コメント》


動きが完全にプロ

クリアリングが教本

これ自衛隊かPMCだろ

銀髪美少女で誤魔化すな

中身絶対手練れのオッサン


JK(他称)

重火器

落ち着きすぎ

役満です(上がり)


新人探索者(嘘)

初ダンジョン(嘘)

人生二周目(真)




さらに火を注いだのは、掲示板だった。

【ダンジョン配信】銀髪JK重火器持ち、あれ何者?【切り抜き】

1 :名無し探索者

あの動き、完全に場数踏んでる

初心者の挙動じゃない


2 :名無し

索敵のタイミングが異常

あれ「来る」って分かってるやつ


3 :元自衛官

角止まる癖、訓練受けてないと出ない

民間じゃまずやらん


4 :名無し

でも見た目はJKなんだよな……


5 :名無し

だから怖いんだよ



【考察】中身は元兵士?それともチート?

12 :名無し

チートスキル説


13 :名無し

いやチートならもっと派手

あれは堅実すぎるきらいが…


14 :名無し

撃たなくていい場面でも撃ってない

弾管理してる


15 :名無し

熟練の戦士のソレだわ



【悲報】新人配信者、初日でプロ疑惑をかけられる

21 :名無し

本人無自覚なのが一番怖い


22 :名無し

「練習です」とか言ってたぞ

何の練習だよ

戦争か?


23 : 元自衛官

 いちいちスレ立てすんな




一方、その頃の本人は。


「……なんか通知多いな」


銀髪の少女――ファントムバレットは、

コンビニのおにぎりを頬張りながらスマホを眺めていた。


課金勢からのスパチャがスマホのアプリに入金されたのだ。


登録者数:312 → 4,860


「……バグ?」


首を傾げる。


「まあ、ゲーム配信って当たるとこういうこともあるか」


深刻さゼロ。


次の配信の準備を始める。


まずは、簡易版のコメント欄に変更。

更にUIを…あったよ、使ってた奴、選択っと。



タイトル入力して。


【ダンジョン探索・練習(昨日の続き)】


「さて…次はどうなるやら」




《配信開始》


視聴者数:1,200 → 5,000 → 12,000


《コメント欄》


本人だ!

切り抜きから来ました

伝説の始まり

例のJKだ!


「あ、どうも。昨日の続きです」


《コメント欄》


なんでそんな平然としてる

炎上してますよ

正体バレそうです


「? 炎上?」

首を傾げながら装備チェック。



《コメント欄》


弾数確認する仕草がプロ

それ見せちゃダメなやつ

もう隠す気ないだろ


「弾切れは怖いですからね」



《コメント欄》


怖いの基準が違う

トラウマ持ち?



奥で物音確認。

少女の表情が変わる。


一瞬だけ――

戦場の顔。


「……静かに」



《コメント欄》


今の声怖かった

声低くない?

鳥肌立った


出現する複数反応。

「三体。右、左、奥」



《コメント欄》


数えた

即座に

もう無理好き



――ドン、ドン、ドン。

正確無比な射撃。



《コメント欄》


はい無双

運営見てる?

これBANされない?



「クリア、戦闘終了。今日は少し深く潜ります」



《コメント欄》


少し(階層ボス狙い)

無理するな

でも行け



その時。

配信画面の隅に――

【公式探索者協会:視聴中】



《コメント欄》


え!?

公式!?

見られてるぞ!

当たり前ゲート潜る時チェックしてんだぞ

それにしたって凄くね

なかなか公式チェック無いよな




「……?」

少女は首を傾げたまま、銃を構え直す。



元・最強傭兵は知らない。


――この瞬間。

プロの世界が彼女を、現実の商材…として認識したことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る