Redo -The Phantom of the Mask-
くろぬか
1章
第1話 Redoという世界
「おい頼む! 頼むから誰か応答してくれよ!」
戦場に響き割った叫び声に対して、彼が手に持った端末からはノイズだけが返って来る。
随分と派手なSF風の鎧に全身を包み、銃火器を装備し、都内の街中を慌てた様子で走り回っている男性。
そんな彼は息を切らしながらも、そこら中に銃口を向けつつビルの谷間へと逃げ込んでいった。
暗闇に入った所で呼吸を整える為に座り込み、再び手にしたゴツイ端末へと声を荒げる。
「なぁ、何で誰も返事してくれないんだよ? 生き残ってるんだろ? こんなのただの“ゲーム”じゃんか。しかも今回の相手、あんなに弱そうなヒョロイ“鎧”を着てたじゃんかよ……俺等のチームが、そんな簡単に負ける訳ねぇだろ? なぁ頼むよ……誰でも良いから、返事してくれよ!」
切羽詰まった様子で、彼は悲鳴の様な叫びを上げたが。
シンと静まり返った夜の街並みの中、その声は反響しながらも空気に溶けていく。
ぜぇぜぇと未だに荒い呼吸を繰り返す音だけが響き渡り、手にした端末からは仲間達の声はやはり聞えない。
まるで世界にたった一人、全人類が消え去ったこの場所に取り残されてしまったかのような孤独感を覚えているのだろう。
とはいえこれも仕方のない事。
だって本当に、彼以外の人はもう“フィールド”には居ないのだから。
これはゲーム。
人間同士が争い、生き残った者だけが“現実”に帰る事の出来るという、ふざけたデスゲーム。
この場に呼ばれる“プレイヤー”は、それぞれ自分だけの“鎧”を身に纏い、他者を狩る事が強要される。
本当にテレビゲームや、スマホで出来るソーシャルゲームみたいな手軽さで。
密かに世界へと侵食しているこの遊びは、いったい何の目的で誰が開催したのか。
どんな技術を使って、こんな摩訶不思議な現状を引き起こしているのか。
プレイヤーは、誰も真実を知らない。
けど、そんな事を考えている暇も無く、争いはどんどんと日常化していく。
何度でも言うが、コレはゲームだ。
“
ここで起きた事は、現実から隠される。
ここで死んだ人は、現実から居なくなる。
なのに世界は普通に回るし、何事も無かったかのようにプレイヤーだって“表側”に紛れ込んでいる。
殺し殺され、そんなイカれた世界を自らの為だけに利用しているクズ共。
そして僕もまた……その一人という訳だ。
このゲームは、自らの本能を曝け出す。
普段どんなに綺麗事を述べようとも、この世界に踏み込んだ瞬間全て表面に現れてしまう。
だからこそ、誰もこのゲームを否定出来ない。
だって人間の心の奥底なんて……大抵、真っ黒と言って良い程汚いモノなのだから。
「っ!? だ、誰だ!」
路地裏に座り込んだ彼は、どうやら此方の存在に気がついたらしい。
酷く怯えた声を上げながら銃を構え、兜の奥からガチガチと奥歯を鳴らしているのが聞える。
あんなに怯えて、可哀想だ。
そんな風に、心は言葉を紡いでいる気がするのに。
「こんばんは。貴方方に“強襲”を挑まれた対戦相手……プレイヤーネーム“
暗闇から歩み出し、スッと頭を下げながら演技掛かったお辞儀を披露してみれば。
相手は更に身体を震わせつつ、その場で尻餅をついてしまったではないか。
「モ、モンスター? 違うだろ、お前に勝負を挑んだ時……“サーチ”で表示された名前は、全然違って……」
「えぇ、そうでしょうね。僕は“役者”、他人を演じるのが仕事ですから」
「ふ、ふざけんなぁぁぁ!」
彼は手に持っていた銃火器を乱射し、その銃弾が此方の身体を貫いた。
しかしながら……。
「酷いですね、身体に穴が空いてしまったではないですか」
「なん、だ……お前、本当に何なんだよ? そんな貧弱そうな鎧、それにふざけた仮面とマント……なんとか座の怪人ってか? お前と戦ってから皆おかしくなって、一人ずつ死んでいった……マジでふざけんなよ? 何なんだよお前!」
おや、かの有名な怪人の様だと褒められてしまった。
でも確かに、今の僕には相応しい表現なのかもしれない。
ミステリーやサスペンスに登場する様な、絶対悪である“怪人”。
此方の戦い方は、そちらに近いしい何かがある。
なんて、今更な話だ。
だって“そう演じないと”、僕は戦う事の出来ない程弱い人間なのだから。
綺麗事を並べたところで意味のない弱肉強食の世界で、生き残る為に“悪役”を演じる事に決めた役者。
それが僕、自らに『
だって周りの皆の様に強くないから、とても真正面から戦える程勇ましい心は持っていないから。
その弱い心境が生み出した鎧、僕の“アバター”。
それこそ“怪人”が登場する舞台役者の様な、不気味な仮面を被り、この身を隠す程の大きなマント。
全身に鎧こそ着ているものの、僕のソレは非常にか弱い。
見るからに細く、装甲も薄い。
特徴と言えば、やはり仮面とマントのみ。
あとは唯一の武器とも言える、鋭利に尖った指に装備された爪くらいなもの。
他の人が平気で武器を振り回す中を生き残る為には……狡猾で残忍な悪役を演じる他無かったのだ。
という事で。
「すみません、これも生き残る為ですので。存分に恨んで頂いて結構ですよ? ただし……僕が誰なのかは、この仮面を剥がした人じゃないと分からないでしょうが」
「ヒッ――!」
相手が僕の作り出した幻影に銃を向けている間に、後ろからスッと近付き。
そのまま指に装備されている爪、凶器としか表現出来ないソレを相手の首に突き刺した。
敵の鎧の隙間に滑り込ませる様にして、本当に音も無く。
引き抜いてみれば、彼の首からは血液が溢れ出す様な……“エフェクト”が発生し、それらは大地に広がってしばらくすると消えてなくなる。
これらのゲーム的要素が、多分誰もを狂わせるのだろう。
自分達がやっているのは遊びであり、人殺しじゃないと勘違いする。
例え敗れたプレイヤーは現実世界に帰って来なくとも、それらを糧に自らは楽が出来る。
だからこそ、この“Redo”は。
こんなにも身近な所まで侵食してきているのだろう。
本当に、嫌になるね……。
『お疲れ様でした、マスター。今回“強襲”を仕掛けて来たプレイヤーは、今の方で最後です』
「そう……それじゃ、帰ろうか。ログアウトして、“チェシャ”」
『了解です。本日もお勤めご苦労様ですってところですね、ポイントもそれなりに稼げましたし』
先程まで足元に転がっていた男性が“死亡エフェクト”に包まれ、完全に消失した瞬間。
此方の鎧の中から、僕の端末が軽い雰囲気の声を上げて来た。
Redoでの相棒的な存在……の筈なんだけど。
このテンションだけは、未だ戦闘中に聞くと慣れない。
普段なら、別に気にする事でもないのだけれど。
思わず溜息を零しつつもそのままビルの影を抜け出し、表通りへと歩き出してみれば。
『ログアウト完了です。さぁて、帰りましょうかマスター、晩御飯何にしますか?』
「煩いな……対戦の直後に、ご飯の話しないでくれる? ちょっと吐きそう……」
『相変わらず、リアルの方だともやしっ子ですね? ちゃんとご飯食べないと、大きくなれませんよ?』
そんな会話と共に、多くの人々が行き交う街並みへと紛れていくのであった。
チラッと路地裏を振り返って見ても……先程の鎧姿の男性は、綺麗さっぱり居なくなっていた。
そもそも、元から存在すらしなかったかのように。
これが“Redo”というゲーム。
生き残る為に、これまでの人生をやり直す為に。
今までとは別の手段を用いて、落ちぶれた人生を覆す為の一手。
自らの心が生んだ鎧を身に纏い、ずっと戦っていく世界。
戦わないと、生きて行けない弱肉強食の世界。
こんなゲーム、始めるんじゃなかった。
何度もそんな風に思ってしまうが、もう過去には戻れない。
もしもあの時……ちゃんと断わる事が出来る強い人間だったのなら、こんな状況には陥らなかったのかもしれないけど。
そう考えると、後悔にも近い感情が心の中に渦巻くが。
「もう一回彼女からお誘いを受けたら……今でも、断われる自信ないなぁ……」
『どしました?』
「いや、何でもない。帰ろう、チェシャ。帰り道でも、プレイヤー情報を偽装しておいてね」
端末とお喋りしながらも歩き続け、今更ながら昔の事を思い出すのであった。
まだ彼女の“招待”を受けてから、そんなに時間が経った訳でもないのに。
もう随分と、“こっち側”で過ごして来た気分になってしまうから不思議なものだ……。
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