第3話 森の異変①
昼の森はいつも通り賑やかだった。木漏れ日が地面に散らばり、鳥の声が柔らかく響く。しかし、平穏かに思われたその風景はすぐに破られた。
「キャーッ!」
子供の悲鳴が森の奥から響いた。
たまたま森の近くにいたアッシュ・ルーベンは瞬時に体を引き締める。
「この声は、村の子供たちの!?」
隣にいたフーゴ・シェルキも駆け出す。「俺も行く、待ってろよ!」
二人は急いで声がした方向へ進む。枝をかき分け、茂みを抜け、森の奥に行くと、そこには、
黒い毛並みの獰猛な狼の群が、村の子供たちを囲んでいた。
「…昼の森林にこんなのがいるのか!」
「アッシュ、油断するなよ。俺たちで片付ける!」
二人に緊張感が走った。アッシュは拳に炎を宿す。赤黒く揺れる炎は、アッシュの動揺を表しているようだった。
アッシュは火球を放つ。火球は狼の群れを分断させ、子供たちとの間に壁を作った。
「フーゴ、今だ!」アッシュの声に合わせ、フーゴは風魔法で枝を薙ぎ、狼の動きを妨害する。
狼の目が鋭く光る。獰猛な牙と爪が森の土を蹴り、地面が揺れ、こっちに走ってきた。
「フーゴ、もっと風を!右から来る!」アッシュは叫んだ。フーゴは葉や小枝を巻き上げ、こちらに向かって走ってきた狼は視界を遮られた。
「おう!」
風が渦を作り、狼たちは混乱した。
その隙に村の子供たちはバルデンが過去に教えていた森の中にある避難場所に逃げる。
「みんな、そっちに走れ!」アッシュの声が森全体に響き、緊迫感が増す。
アッシュは赤黒く揺れる炎を大きく整え、炎を狼の群れに向けた。「来やがれ!」
炎の熱に狼たちは後退するが、何匹かの狼が横から周り、死角からアッシュ追い詰めようとした。
フーゴはその動きに気づき、風で炎の形を変え、自分たちを囲うように炎を纏った。その結果、狼たちは下手に攻めることができず、動きを制限することができた。
「アッシュ、この炎消えねえように燃やし続けろよ!」フーゴが叫ぶ。
アッシュは軽く頷き、赤黒い炎をさらに強め、狼たちを威嚇する。「村に近づかせねーぞ!」
彼達の表情には、村を守る者としての覚悟と、年頃の青年らしい焦りが混ざっていた。
森での騒ぎを聞きつけた村人が増援を呼び、森に急いで駆けつけ、棒や火を使い狼を抑え、子供達に駆け寄った。
「来てくれて助かったよ。けど、後は俺たちに任せてくれ」
アッシュとフーゴが大きく息をした
「アッシュ、フーゴ!大丈夫かー!」年老いた村長ボウガンの叫び声が響く。
小さな子供たちも村人たちと逃げながら戦いを見届けていた。
バルデンは少し離れた場所で土を操り、森のあちこちに簡易の防御壁を作る。「無茶しやがって、アッシュ、フーゴ! もちろん無事だよなぁ!」
狼は次第に群れを増し、森の暗がりから飛び出してくる。
「くそっ、数が増えてきた…!」アッシュ達は焦るが、深呼吸して冷静なる。
フーゴも風の刃で狼に攻撃を続け、アッシュも火球で応戦した。「アッシュ、こっちに誘導できるぞ!」アッシュとフーゴは攻撃を中断し、群を分断させる動きに移った。
森の土や木々、バルデンが作った防御壁を巧みに利用し、アッシュとフーゴは狼たちを分断させた。バルデンはアッシュとフーゴが攻撃を受けないように土魔法でサポートをする。その隙に村人たちは子供たちを村に逃がす。
赤黒い炎と風が絡み合う様子は、森の中で異彩を放つ。
狼の群れはやがてバラバラになり、一匹では太刀打ちできないと考えたのか、狼は森の奥へと逃げ込んだ。そして、村の子供たちは無事に村へ避難することができた。
アッシュは膝をつき、荒い息を整える。「はぁ…危なかったな…」
フーゴも笑みを浮かべつつ肩を叩く。「お前、ちょっとは頼もしくなったな」
森の中で赤黒く揺れる炎は、まだ誰にも秘密のままだった。
アッシュは自分の胸に手を当てる。「この力…少しは村のために役立てたかな…」
バルデンは二人を見て、にっこり笑う。「今日の戦いで何かを学んだようだな。力だけじゃ守れん、頭も心も使うのだ。だがお前たちは確かに成長した」
アッシュは短く息を吐き、でも少し自信の光が混ざる。「ああ…俺、やれる…やらなきゃな」
森の風が揺れ、木漏れ日の中で二人の成長と覚悟が確かに描かれた。
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