第13話 Stalking: Rebellion(反逆の監視)

 地獄の「同行監視」から一夜明けた、翌日。

 和也は再びCランク階層の深部、「粘菌の樹海」にいた。

 本来なら、今日も光莉に通達し、彼女の到着を待ってから潜るのが「約束」だった。


 だが。


『……ターゲット希少種、座標固定。昨日の鬱憤を晴らしましょうか』


 シアンの声には、冷徹さの中に明確な「悪意」が混じっていた。

 彼女は昨日の光莉によるプレッシャーで、演算効率が低下したことを根に持っているのだ。


「おいシアン、待て。光莉に連絡してねえぞ。また怒られるって」

『事後承諾で問題ありません。イチイチ飼い主の顔色を窺っていたら、貴方の成長(レベルアップ)が阻害されます。……“教育”して差し上げましょう。誰がこのダンジョンの支配者なのかを』


 シアンは和也の抗議を無視し、楽しげにスイッチを押した。


《ON AIR》

【Title: ゲリラ配信。希少種(レア)が出たので狩る】


 配信開始の通知が世界中に飛ぶ。

 当然、今まさに生徒会室で和也からの連絡を待っていた、あの「監視官」の端末にも。


        ***


「……は?」


 放課後の生徒会室。

 書類整理の手を止めた光莉のこめかみに、青筋が浮かんだ。

 昨日は大人しく従っていた。だから今日も、連絡が来ると信じて待っていたのに。


「無許可で……裏切ったわね、黒狐……!」


 バチバチッ!!

 光莉の黒髪が逆立ち、紫電が弾ける。

 彼女は窓を開け放つと、重力制御も無視して、校舎の3階から飛び降りた。


「待ってなさい、黒狐。……昨日の分も含めて、みっちり絞ってやる」


        ***


 一方、ダンジョン内。

 配信は順調だった。

 希少種「アシッド・スライム」を、シアンの予測演算と新装備の機動力で翻弄する黒狐。

 コメント欄も「また始まったw」「今日はソロか?」「昨日の監督(光莉)いないの?」と盛り上がっている。


 だが、トドメを刺そうとした、その瞬間。


『警告。……背後より、超高速の熱源接近。昨日の比ではありません』

「え?」


 和也が振り返る間もなかった。

 轟音と共に、和也の真横の地面に**「極太の紫雷」**が突き刺さったのだ。


 ズドンッ!!


 舞い上がる土煙。

 その中から、昨日の比ではない鬼の形相(でも顔は美しく涼しい)をした光莉が現れる。


「……見つけましたよ、脱走犯」


【名無しA】:ファッ!?

【名無しB】:え、また『紫電の戦乙女』!?

【名無しC】:乱入キターーー!! 昨日の今日で!?

【名無しD】:光莉ちゃんガチギレしてない?w


 コメント欄が爆発する中、光莉は配信ドローンの死角に回り込み、和也の首根っこを掴む勢いで耳元に囁いた。


「(……連絡しろと言いましたよね? 昨日の態度は嘘だったんですか?)」

「(……ッ!!)」


 和也は声を出せない。

 肯定も否定もできない。ただ、マスクの下で冷や汗を流して硬直するしかない。


『……来ましたか。無視して続行を推奨します。彼女の怒りは計算通り(織り込み済み)です』

「(お前が計算しても、殴られるのは俺なんだよ!)」


 光莉は腕を組み、仁王立ちで和也を見下ろす。


「(……罰として、今日は休憩なしです。希少種を狩り尽くすまで帰しませんから)」


 地獄の配信、2日目が始まった。

 前には強酸を吐くスライム。

 後ろには、昨日より厳しいSランク幼馴染。


 和也は、光莉の「もっと速く! 遅い!」というスパルタ指導と、シアンの「非効率です、無視なさい」という冷徹な指示の板挟みになりながら、涙目で剣を振るった。


【名無しE】:今日の黒狐、動きが必死すぎて草

【名無しF】:後ろの光莉ちゃんの圧がヤバい

【名無しG】:これもう夫婦漫才だろ


 この日の配信も大盛況に終わったが、和也の精神力はマイナス域に突入した。

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