12 カッコいいを作ろう!

「くっ……臭い!!」


コロはプンプン臭ってくる油の臭気に鼻を摘み、こんな場所に連れてきた俺を睨んでくる。

しかし、俺は気にせずキョロキョロと周囲を見回し、目的のヤツを見つけて、指を差した。


「ほら、あいつ見てみろよ。あの一匹だけ様子が違うヤツ。」


「はっ?……なに?」


俺が指差す方向を渋々見つめたコロは、キョトンとした顔をする。


俺の指の先にいたのは、一匹のイボイボ・ケロッグだが、そいつだけは周りのケロッグ達とは違い、イボがなくツルンとしていた。

確かに外見が大きく異なるその個体を見て、コロは『あれ?』という顔をしたが、だからと言って俺が言いたいことは分からず首を傾げる。


「?あのツルツルのカエルモンスターがどうした?」


「あいつさ、生まれつきあんなツルツルした外見で生まれてきたらしくて、オタマジャクシの時からあんなんだったんだよ。」


「……ふん、どうでもいい話だな。生まれつき綺麗に生まれたから何だ?そんな戯言を聞かせるためにこんな臭い所に連れてきおって!」


コロは一瞬傷ついた顔をしたが、直ぐにまた元気よく悪態をつく。

大いに誤解している事に気付いた俺は、コロの背中をぽんぽんと叩いた。


「アイツ、めちゃくちゃモテなくて、誰も仲間に入れてくれなかったんだ。

イボイボ・ケロッグは、あのイボが沢山あって大きい程カッコよくて、膿油が沢山出る程イケメンな世界だから。

俺が見ている限り、アイツは小さい頃から一人ぼっちでいたよ。」


「────!」


コロは驚いた顔をして、そのツルツルなヤツを凝視していたが、直ぐにそのツルツルなヤツに寄り添うメスケロッグを見て、顔を顰める。


「……嘘をつくな。だって、アイツの隣には番のメスもいるし、今は他の仲間たちも普通に近くにいるじゃないか。」


コロは、メスの番と寄り添い、他の仲間たちに囲まれているツルツルケロッグを睨みながら、指を差した。

俺は一度コロを下に下ろし、懐から一個のトマトを取り出すと、大きく振りかぶってソレを沼地へと投げる。

すると────……。


ピョピョ~ン!!!


あのツルツルケロッグが我先に飛び出し、とんでもない大ジャンプをしたのだ。

普通のイボイボ・ケロッグは、飛べて10cm程なのに、そいつだけ軽く5mは飛んでいる。


「…………っ!!」


コロはビックリした様子でそのツルツルケロッグを見上げ、そして見事俺のトマトをキャッチしたソイツは、自分の番へプレゼント!

そんなツルツルケロッグを、他のメス達はハートを飛ばして見ているし、他の仲間たちも羨望の眼差しで見ていた。


俺は、言葉なくそんなツルツルケロッグを見ているコロの肩をポンポンと叩く。


「俺は、周りからどんなに無視されようが馬鹿にされようが、自分のできる事を頑張って、ああやって認められるヤツってカッコいいと思う。

アイツは毎日頑張ってジャンプの練習をして、あんなに凄いジャンプができる様になったんだ。それを周りは認めてくれたんだよ。

元々あるカッコいいを吹っ飛ばして、新しいカッコいいを創り出したんだ。

それでモテモテ人生まっしぐら!くぅ~……!カッコいいじゃないか!」


本気で羨ましくて拳を握るが、コロは多分色々想う所があったのか、ボンヤリしながら小さな声で呟いた。


「……自分ができる事?」


「うん。それは周りが羨む様なモノじゃなくても良い。頑張る姿がカッコいいんだから。」


「…………。」


コロは自分の手のひらを見下ろし、開けたり閉めたりを繰り返し、何かを考え込んでいる様だった。


一体コロに今まで何があったのか、そして何を考えているのかは分からない。

だが、俺は自分が人生の中で見つけた答えをしっかりと伝える。


「俺には生まれつき戦闘の才能も、ものづくりに役立つ器用さもなくて、更に顔も普通、頭まで悪い!

だから、この歳まで色々頑張ったけど……世で『素敵』と呼ばれるモノは何一つ頑張っても手に入らなかった。

でも、俺は人に対して真摯にちゃんと向き合う事をずっと頑張ってるんだ。

もしかして、いつかはそんな俺をカッコいいって思ってくれる人が現れるかもしれない。

そんな希望を持って生きてるからさ、お前も何か頑張ってみろよ。お互い頑張ろうぜ。」


ニヒッ!と笑って言うと、コロはゆっくり俺の方を見上げ……怖いくらい真剣な顔で言った。


「……ムギは頑張る俺をカッコいいと思うか?こんな醜い姿の俺が頑張って……誰も見てくれなくても……。」


泣きそうな顔でそう口にするコロに、俺は大きく頷く。


「コロは頑張ってるだろう?

一人で知らない村に来て、必死に弱みを見せないコロはカッコいいと思う!

だから、色々頑張ってみろって!

ジャンプできるだけであんなモテモテになるヤツだっているんだしさ。」


俺がツルツルケロッグを指さして言うと、コロはその場でボロボロと泣いてしまったので、背負って家に送り届けてやった。


そして次の日の朝、いつもは朝イチでやってくるコロが来なかったから、心配して家の方へ行くと、なんと家は兵士の格好をしている人達が解体していたのだ。


「えっ!!コロはっ!?」


慌てて近くにいた兵士に尋ねたが、コロは急遽王都の方へ帰る事になった事、そしてもう二度とココへは戻ってこない事を告げられた。

突然の事に寂しくて泣いていると、一人の兵士がそういえば……と思い出した様に口を開く。


「世話になった村人が一人いると聞いているが、お前の事か?

ならちょうどいい。伝言だ。

『全てを貰いに行くから、それまで待て』との事だ。」


「???は、はぁ……。」


全てを貰いに行く??

一体何を貰うのか分からなかったが……多分俺の畑の野菜の事だと思われる。

つまり……。


「お前は畑を頑張って大きくしろよ、俺も頑張るから!……って事か。

ハハッ!あいつ、言ってくれるじゃないか!

よ~し!俺も負けてられないな!今日も畑を頑張って耕して、美味しい野菜を作るぞ~!」


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