10 走馬灯?
◇◇◇◇
「?……う……うぅ??あ、あれ……??」
硬い土の感触を感じて起き上がると、自分の今いる場所に光が差し込んでいるのが見えた。
その光をボンヤリした頭のまま目で追っていくと、鉄格子が見えて……一気に青ざめる。
「……えっ?なんで俺、牢屋に捕まっているの???」
穴を掘って作った洞窟に鉄格子をつけたこの場所は、悪さをした村人を閉じ込めておく目的で作った牢屋だ。
まぁ、平和なこの村では、殆ど荷物置き場としてしか使ってなかったが……。
チラッと周りを見れば、余った干し草の残骸やよく分からない祭りの時のお巫山戯道具などなどがごっちゃり置かれている。
「…………。」
ヒンヤリ冷たい牢屋の中で、冷静に考えた俺は……とりあえず自分がスカイ様にものすごいキスをされて気絶し、その後に罪人の様に牢屋に閉じ込められている事を理解した。
「な……なんで……??」
サッパリ意味が分からず真っ白になりながら牢屋の外の空を見ると、太陽は高く、時刻は多分正午前くらいだと思われる。
つまり昨日の夜から俺は気絶して、今までおねんねだった様だ。
「……マジか…………。」
呆然としながら嵐の様な出来事の数々を思い出し、ついでに自分の格好も確認し能面顔になった。
俺の格好は、昨日のまま。
これをジロやニコが着ていたら、『服脱いだほうがマシじゃないか?』というレベルの、意味不明な露出服。
「……もういっそ全部脱ぐか……。」
俺は色々悲しくなってきて、ハートのビキニと紐のパンツを脱ごうとしたが……一応スカイ様から指示された服であることを思い出し、やっぱり止めて膝を抱えて丸まった。
いや、本当に何が起きているの……?これって夢???
初めて会ったはずのスカイ様から陰湿ないじめを受け、乳首を痛い目に合わせるわ、鞭で浣腸されるわ、ファーストキスを奪われるわで散々な目にあっている。
「……初めてだったのにぃ~……。」
グスグスと泣きながら、初めてはシメナワ・ミミズ達が見守る畑の中……実った野菜が生い茂る中で触れるだけのキスを────が台無しだ!!
「いやいや、あんなのキスじゃない。偽物のキスもどきだ!
赤ちゃんに舐め回されたのと同じ感じだったもんな。唾液でベチャベチャ舐め回されただけだ。」
へッ!と卑屈に笑っていると、突然牢屋に近づいてくる足音が聞こえて震え上がる。
更にその足音は一人二人ではなく大人数である事が分かり、もしかして村長や村民達が心配して……?と思って鉄格子の隙間からポコッと顔を出すと、その正体を知り悲鳴が出そうになった。
「ア、アース様と騎士様達……?」
スカイ様にふっ飛ばされたアース様と、他騎士の人達が数十人。
話の内容は……アース様の殺気に塗れた顔を見ている限り明るくはない事は分かる。
「あ……あの~……俺、どうして牢獄の中に……。」
ビクビクしながら尋ねれば、アース様は大きく深呼吸をした後、力強く俺の方を指さした。
「貴様をこれから死刑に処す!!
罪状はスカイ様を、そのふざけた格好をして誘惑しようとした誘惑罪、並びにキスをされた逆淫行罪だ!
どちらも死刑が相応しい大罪である!!」
「は……はぁぁぁぁぁっ!!??」
もうビックリ仰天!だ。
どう考えても大罪人どころか、こちらは被害者なのに!?
「そうだそうだ!!」
「気色悪い変態おっさんめ!!」
むちゃくちゃな事を言っているアース様の横でギャーギャー援護するのは、若い騎士様達で……少し年がいっている騎士たちは、ただ気まずそうに下を向いている。
勿論俺は、鉄格子の隙間から必死に顔を突き出し、大声で弁解した。
「いやいやいや!!どう考えてもおかしいでしょう!?
この服はスカイ様からの贈り物だし、俺、無理やりキスされた方なんですけど!?
理不尽にもほどがある!!」
「黙れっ!!!神に等しき光の勇者スカイ様が、お前みたいな中年に誑かされるなど……断じてあってはならない!!
よって全て消去だ。……分かるな?」
瞳の奥に『殺』の字が見え……もう何を言っても無駄だという事が分かった。
「そ……そんな……俺……ただ真面目に……生きてきただけなのに……っ。」
ボロボロ泣く俺を見て、同じ中年の騎士だけが悲しげに胸を抑えているが、アース様と若い騎士たちはそれはもう……睨む!睨む!睨む!!
その中でとびきり睨んでいたアース様は、俺に向かって黒いマントを投げてよこした。
「さっさとそれを着て表へ出よ。今すぐに処刑を実行する。」
「ひっ……ヒグッ……っ……。」
男泣きしながらマントを羽織ると、牢屋は開けられ数人の騎士たちが中へ入ってきて、俺の両手に手錠を掛ける。
そしてそのまま俺は両脇を抱えられて運び出された。
◇◇◇◇
外に出ると、村の皆が悲しげな目で俺を見つめていたが、騎士様達には逆らえないため、止めに入れない様だ。
村長なんて俺の似顔絵を書いた絵を持っていて……両隣にいるジロとニコはきれいな花を持って立っている!
まさかそれ……俺の葬式用??
「しょ……しょんにゃ~……っ!」
ダラダラ涙を流す俺を、両隣の騎士たちは「煩い!」「汚い!」「ついでに加齢臭くさい!」と言いたい放題だ。
そして街の中央広場に連れてこられた俺は……そこに用意されているモノを見てガタガタと震えた。
そこには無惨にも壊された首吊台の残骸と、かわりにそれはそれはご立派な火炙り用の磔台が用意されていたから!
「邪悪なるモノに正義の裁きを!!」
「聖なる炎で浄化せよ!!」
「「「我らの神たるスカイ様を、邪悪なる意思から救い出せっ!!」」」
騎士たちはダンダンっ!と力強い足踏みをすると、その手に松明を持つ。
俺は真っ青になって磔台を見上げ、すぐに逃げようとしたが騎士に持ち上げられていて、足は全て空振りになってしまった。
「そっそんなぁぁぁぁ!!!どっどうかお助け下さいぃぃ!!騎士様ぁぁぁ!!どうか……どうかぁぁぁ!!」
ワンワン泣いたが、騎士たちの手が緩む事はなく、そのまま淡々と俺は張り付け台に括りつけられる。
「煩いぞ!この邪悪なる存在め!」
「浄化の炎に炙られろ!この悪魔!!」
酷い言われように……もう自分を助けてくれる者はいないと悟った。
村娘達まで松明を持って無表情で睨みつけてくるし……。
「……ハハッ。」
もはや笑うしかない状況に、俺はボンヤリと空を見上げる。
すると……自分の生きてきた人生が、ものすごい早さで駆け巡っていった。
あぁ……これが走馬灯ってヤツなのかな。
口元にフッ……と笑いを漏らすと、随分と懐かしい記憶が蘇ってきた。
8歳になった時両親が死んで……俺は周りに強がってはいたが、本当は寂しかったのだと思う。
色んなヤツに話しかけたり助けたり、自分にできる事はなんでもやって……そうしたらなんだか寂しさが埋まって嬉しかった。
だから、当然俺はいつも通りに率先して話しかけたのだ。
アイツにも……。
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