AND ONE

綴玲央(つづりれお)

1章 バスケ部再始動

第1話 過労勤務

埼玉県立城徳高校さいたまけんりつじょうとくこうこう。川口市とさいたま市の境目にある。東京方面とは逆方向だ。


そこで勤務する澤田孝則さわだたかのりは、日本史の先生で、バスケ部顧問。職員室でパソコンをいじりながら、ため息をつく。


「もう、こんな時間」


時計に目をやると、既に21時を過ぎていた。ひとり、ボソッと呟きながら再び、ため息。正直、休める時間が足りない。疲労困憊の状態だった。


もちろん、多忙勤務が続いているのは、澤田だけではない。部活の顧問を受け持っている先生は必ず残業。勤務終了が遅くなることもしばしば。


規則は変わってきたとはいえ、土日のどちらかは、部活の指導で学校に来ることになる。おまけに部活の指導では勤務外となるので無給だ。


「はぁ……」


三度目のため息。


パソコンの電源を切った。仕事が終わったのは23時。


(こんなんで、体がもつのか……俺は……せめてバスケ部の顧問がなければ少しは楽になるんだけど)


そうは思ったものの、澤田はそれは言い訳だと言い聞かせた。


自分が悪い。要領よくタイパで仕事ができれば、こんなに遅くなることもない。いつしか、そんな思考が澤田を追い詰めていった。


帰り道、澤田はお酒を飲んでいるわけでもないのにフラフラだった。


澤田は橋の真ん中で、ふと、川を見つめた。


過酷労働で見も心もボロボロ。本来はどんなに辛くても、ふと、立ち止まることができる。自分の体を気にして、なにか対策を考える。しかし、このときの澤田には余裕すらなかった。


(死ぬほうがマシかもしれない)


他には何も考えられない。そう思った瞬間、無意識に身体が動く。手すりに足をかけると、躊躇なく飛び降りてしまった。

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