第23話『佐藤さんとの帰り道 前編』
その後、皆で本棚からホコリまみれの本を取り出しては、廊下へと運んでいく。
幸いなことに、文芸部の部室は二階の一番端だ。多少廊下に物を出したところで、通行の邪魔にはならなかった。
「わ、この本、慎重に持たないとバラバラになりそう」
奥の棚の本を段ボール箱に移していた
文芸部は歴史が長いだけあって、骨董品のような本が次々と出てきた。
「これ、二十年以上前に作られたやつらしいぞ。
そんな中、一冊の薄い本を手にした
どうやら、部誌という名の同人誌らしい。
懐かしのアニメ特集で見るような作品が題材にされていて、古めかしさの中にも情熱が詰まっている気がした。
「え、同人誌って、まさかえっちいやつ?」
その時、『同人誌』という言葉に反応したのか、妹の
「もともと学生が作った本だし、そんなのじゃないから!」
「翔さん、
つい声を荒らげるも、
これは絶対誤解されていそうだ。
「なあこれ、ずっと昔に流行った格ゲーだったか?」
「そうだね。今もたまにゲーセンで稼働してるのを見るよ」
やがて一誠が見せてきたページには、それこそ深月さんが好きそうな古のゲームキャラクターが描かれていた。
きっとお嬢様モードじゃなかったら、「見せて見せてー!」と飛びついてきたことだろう。
現に今もどこかソワソワしているし、俺たちの会話に入りたくて仕方ないようだ。
「ほらほら男子二人、本読んでないで手を動かしてよー」
その矢先、七海さんが笑顔を向けてくる。
満面の笑みなのに、ものすごく怖かった。
「そ、そうだな。ほら翔、遊んでるヒマはないぞ!」
そんな七海さんに気圧されたのか、一誠は本の詰まった段ボール箱を持ち上げると、足早に廊下へと飛び出していく。
俺は思わず苦笑したあと、同じように本を抱え上げたのだった。
……その後、室内の本をあらかた廊下に運び出し、その汚れを落としたところで、今日の作業は終了となる。
空になった本棚や机を運び出す作業には人手が必要だし、また後日行うことになった。
「み、皆さん、おつかれさまです」
作業を終えたと同時に、
その両手いっぱいにパックジュースを抱えている。
「こ、これ、どうぞ」
「え、買ってきてくれたの? わざわざありがとう」
「いえ、お口に合えばいいのですが」
鈴ちゃんは言葉少なだったけど、感謝の気持ちは伝わってきた。
「ありがとー。それじゃ、いただきます」
それから皆でお礼を言って、ジュースを受け取った。
……やがてジュースを飲み終わると、その場は解散となる。
俺は七海さんと一緒に、本の掃除に使った道具を掃除部の部室へと片付ける。
「翔くん、鍵の返却、頼んでいい?」
「あ、うん。やっておくよ」
七海さんからそう言われ、俺は部室の鍵を手にすると、職員室へと向かった。
「……あ」
鍵を返却して生徒玄関までやってくると、そこに鈴ちゃんがいた。
他の皆の姿はなく、一人のようだった。
「えっと、まだ残ってたんだね」
なんて声をかけるか迷った挙げ句、そんなありきたりな言葉しか出なかった。
「あ、はい。部室の戸締まりをしてました。部長さん、いないので、ボクが代理です」
言いながら、鈴ちゃんは銀色の鍵を左手に持っていた。
右手に学生カバンを持っているし、どうやらこの子は左利きみたいだ。
「あの、翔センパイ」
「え、何?」
その時、鈴ちゃんがトテトテと近づいてくる。
まるで小動物のような動きだけど、俺は数歩後ずさってしまう。
「せっかくなので、一緒に帰りませんか」
次の瞬間、鈴ちゃんは胸の前で指をもじもじさせ、顔を赤くしていた。
……すっかり忘れていた。この子も佐藤の呪いの影響下にあるんだった。
「あー……うん。じゃあ、待ってるよ」
「す、すぐに戻ってきますので。置いていってはダメですよ」
俺の返事を聞いて、鈴ちゃんは職員室のある方向へと駆けていく。
……あんなふうに上目遣いで見つめられては、嫌と言えなかった。
◇
それからしばらくして、二人で帰路につく。
鈴ちゃんは俺の背中にぴったりくっつくようにしながら歩いていた。
そして、俺は背中にずっと妙な抵抗感があった。
「あの、鈴ちゃん?」
「は、はい。なんでしょうか」
「制服の裾を掴まれてると、その……歩きにくいんだけど」
「あっ、すみません」
そう告げると、とたんに抵抗感がなくなった。
……その代わり、はっきりとわかるため息が背中にかかった。
いたたまれない気持ちになった俺は、歩く速度を落として鈴ちゃんと並ぶ。
「わ、わわ」
ところが、鈴ちゃんは顔を真っ赤にすると、俺の背中へと回り込んでしまった。
「えっと……後ろじゃなくて、できたら隣を歩いてほしい、かな……その、話しにくいし」
「い、いえ。恐れ多いです」
……恐れ多いって何。俺は苦笑するしかなかった。
鈴ちゃんは俺と同じ……いや、俺以上の陰キャで、コミュ障だと思う。
呪いの力で俺に対する好感度が爆上がりしていてもこの状況だし。
素の状態で出会っていたなら、おそらく話すことすらなかったはずだ。
それが、一緒に帰りましょう……だなんて。佐藤の呪い、恐るべし。
「わ、わかったよ。制服の裾は握ってくれてもいいから」
「あっ、はい。あ、ありがとうございます……」
鈴ちゃんの精一杯の勇気に応えるように、俺はそう口にする。
直後、制服の裾がおずおずと握られた。
振り向かなくても、鈴ちゃんの顔が赤くなっているのが容易に想像できる。
なんか、臆病な子猫を連れて歩いてるみたいだ……。
なんとなくそんなことを考えながら、俺はゆっくりと歩みを進めたのだった。
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