第13話『佐藤さんのお誘い』

 女子がやりたくなるようなゲーム……どんなものがあるのかな。

 ネットで検索しようとスマホを開いた時、メッセージが来ていることに気がついた。


『(深月) やっほー、かけるクン』


 開いてみると、相手は深月みづきさんだった。


『(翔) 深月さん、おつかれさまです』

『(深月) 相変わらず、挨拶かったいなぁ』

『(深月) 今、時間ある?』

『(翔) 大丈夫ですよ』


 メッセージを返しながら、俺はベッドに腰を落ち着ける。


 深月さんからは、『佐藤まみれ』のグループ経由で個人の連絡先を教えたところ、時々こうやって連絡が来るようになった。


『(深月) 明日の日曜日、どっか遊び行かない?』

『(翔) え、明日ですか?』

『(深月) そうそう。明日、奇跡的に習い事が全部休みになってさー』

『(深月) せっかくだし、遊びたいなって』


 画面越しでも、深月さんの嬉しそうな表情が浮かぶようだった。


『(翔) いいですよ。いつものゲーセンですか?』

『(深月) あそこは日曜日、人多いからねぇ』

『(深月) レトロゲー目当てに、仕事が休みの玄人ゲーマーたちが集うし』


 俺が一文打つ間に、深月さんはその倍の分量を打ち込んでいた。どうやらスマホでの入力も慣れているらしい。


『(翔) なるほどですね』

『(深月) だから、どっかでデートしたいなって』

『(翔) デートって言わんでください』


『(深月) いいじゃん別に』

『(深月) それで翔クン、いいお店知らない?』

『(翔) え、急にそんなこと言われても』


 俺は思い悩む。ゲーム好きな深月さんが気に入ってくれそうな場所か……。


『(翔) いいお店かどうかわかりませんが、中古ゲームショップとか行ってみません?』

『(深月) そんなお店があるの? ネット上にしかないと思ってた』

『(翔) いえ、実店舗、割と近くにありますよ』


 それとなく好きそうな場所を提案すると、彼女は予想以上に食いついてくれた。


『(深月) いいねぇ。明日のデートはそこにしよう』

『(翔) だから、デートじゃないですって』


 俺は思わず苦笑したあと、明日の予定を決めていく。


『(深月) お昼ごはんはハンバーガーがいいなぁ』

『(翔) そんなのでいいんですか?』

『(深月) うんうん。入ったことないし』

『(翔) 了解です』


 ……その後もやり取りを続けていて、ふと思う。


『(翔) 今更ですけど、通話のほうが早かったりします?』

『(深月) ゴメン、通話は無理なんだよ』

『(深月) さすがに親にバレちゃうからさ』


 尋ねてみると、そんなメッセージが返ってきた。


 ……そうだった。彼女は日頃から、お嬢様を演じている。それは家でも同じだろう。

 ゲーマーモードで通話して、家族に会話を聞かれようものなら大変だ。


『(翔) そうでしたね。すみません』

『(深月) こっちこそゴメンねー。では、続きをどうぞ』


 ……そんな感じに、その後もメッセージのみで明日の予定を詰めていった。


『(深月) 明日の11時に、学校近くのハンバーガーショップに集合ね。了解』

『(翔) はい。よろしくお願いします』

『(深月) こっちこそよろしく~。じゃ、また明日』


 メッセージのやり取りを終えて、俺は大きく息を吐く。


 誰かと出かけるなんて初めてだけど、深月さんはゲームにも詳しいし、それなりに話のタネはあると思う。


 外出がてら、女子が好きそうなゲームについて深月さんに相談できそうだし。

 少しだけ、楽しみに思っている自分がいた。


 ……あれ?

 そこまで来て、重大なことに気がつく。


 当日の服装、どうしよう……!


 ◇


 ……そうこうしているうちに、翌日となる。


 俺は予定時刻の10分前に、待ち合わせ場所のハンバーガーショップにやってきていた。


 今日は先に食事をしてから、本命のゲームショップに行く……という流れになっている。


 ちなみに俺の服装は……手持ちの服で無難なものを選んでおいた。

 あの時間から、新しいものを買いに行く余裕もなかったし。


 まぁ、お嬢様とのおでかけ……なんて言うと仰々ぎょうぎょうしく聞こえるけど、相手は深月さんだ。

 いつもと同じ格好でいい……はず。


「翔クン、おまたせ~」


 羽織ったパーカーを見ながら、なんともいえない気持ちでいると、弾むような声が飛んできた。


 顔を向けると、深月さんが手を振りながら駆けてくる。

 その服装はスウェットに淡いデニムというラフなもので、お嬢様らしさは微塵もない。


 一方で、お嬢様オーラとはまた別のオーラがにじみ出ていて、道行く男子たちが振り向きまくっていた。


「きょ、今日はよろしくお願いします」

「なんか肩に力入ってない? 気楽に行こ、気楽に」


 いつものように栗色のウェーブヘアをサイドポニーにまとめた深月さんは、腰に手を当てながら笑みを浮かべる。


 メッセージのやり取りと違って、実際に会うとどうしても緊張してしまう。


「ちょうどお腹も空いてきたし、さっそくハンバーガー食べに行こう!」


 深月さんはふいに俺の手を取ると、小走りでお店に向かっていく。

「え、そんな急がなくても……」

「ハンバーガー初体験だから、楽しみでしかたないの!」


 いきなり手を握られた恥ずかしさにドキマギしているうちに、店内に足を踏み入れる。


「いらっしゃいませー。こちらに見やすいメニューがございますよ」


 入店した俺たちに、店員さんが接客スマイルを向けてくる。

 まだお昼前ということもあり、注文カウンターに人はいなかった。


「私、注文方法わからないから、まずは翔クンがお手本見せてよ」


 思わず立ち尽くしていると、深月さんから背中を押される。コミュ障だけど、頑張らないと。


「あの、スマイルバーガーを一つで」

「お得なセットもございますよ。お値段変わらず、ポテトのサイズもお選びいただけます」

「じゃ、じゃあセットで。サイズは……Mサイズで」

「そこ、Lサイズのほうがいいんじゃないの?」


 たどたどしく注文していると、深月さんが隣にやってくる。

 狭いカウンターで肩と肩が触れ、いい匂いがした。香水かな。


「いや、俺って少食ですし、残したら悪いかと思って……」

「残りそうだったら私が食べるよ。値段が同じなら量は多いほうがいいし」

「じゃ、じゃあLサイズで……」


「お飲み物はどうされますか?」

「翔クンはコーヒーだよね。サイズはLでいい?」

「あ、はい……それで大丈夫です」


 ……気がつけば、深月さんにすっかり主導権を握られていた。


「お連れ様のご注文はどうされますか?」

 思わず凹んでいると、店員さんが深月さんの注文を聞いてくる。


 笑顔なんだけど、目が笑っていない気がした。バカップルみたいに思われてるのかな。


「私もスマイルバーガーのセットで。ポテトも飲み物もサイズはLで。コーラがいいかな」


「かしこまりました。ご注文は以上でよろしいですか?」

「あ、サイドメニューとか試してみたいかも……翔クン、どれがおいしいの」


 続いて、深月さんは真剣な表情でメニュー表とにらめっこする。

 いきなり聞かれても、俺も普段はサイドメニューなんて頼まない。


「オススメはチキンナゲットですね。今ですと、期間限定のソースがついています」


 そんな俺を見てか、店員さんがさり気なく新商品を勧めていた。


「おお。いいね。二人で分けよう。それもお願いします」

「かしこまりましたー」


 店員さんは淡々と注文を受けてくれるも、やっぱり笑顔が怖い。

 俺は早く注文を終わらせたい気持ちでいっぱいだった。


「お会計、1500円になりまーす」

「あ、料理が来る前にお金払うんだ」


 店員さんの言葉を聞いて、深月さんは驚きの表情を見せていた。


 このあたりは、さすがお嬢様っぽいなぁ……なんて考えながら、俺は代金を支払ったのだった。

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