第6話『集まった佐藤さん』
「なぁ
その日の昼休み。購買で買った焼きそばパンを食べていると、前の席の佐藤君が唐突に話しかけてきた。
「え、どこも行ってないけど」
「嘘つけ。二人で渡り廊下を歩いてるの、見たんだぜ」
うろたえながら言葉を返すと、得意顔で言う。
彼は野球部だし、練習場所のグラウンドからは渡り廊下が丸見えだ。見られてもおかしくはない。
「……まさか、放課後デートか? やるな」
「そ、そんなんじゃないから」
とっさに否定するも、佐藤君はぐいぐい来る。
助けを求めるように隣の席を見るも、当の七海さんはクラスの女子と談笑していて、俺たちの会話に気づいていない。
「さ、佐藤君の思ってるようなことは一切ないから」
「おいおい。俺と翔の仲じゃないか。今更苗字呼びはやめようぜ」
そう弁解すると、彼は驚きと悲しみが入り混じったような顔をした。
正直なところ、この佐藤君と仲良くなった覚えは一切ない。
これも佐藤の呪いの効果なのだろうけど……どう対応するべきか。
「親友だと思ってたのは俺だけだったんだな。悲しいぜ」
俺が悩んでいると、顔を伏せておいおいと泣き始めてしまった。
……なんか、こっちが悪いことしているような気分になってくる。
「わ、わかったよ。ちゃんと名前で呼ぶから。い……
「おう、いっそ、呼び捨てにしてくれて構わないぜ!」
緊張しながらその名前を呼ぶと、めっちゃ笑顔を向けられた。さっきのは嘘泣きだったらしい。
体育会系のノリで、バシバシと肩を叩かれる。先日の七海さんのそれと違って、すごく痛い。
……それでも、不思議と嫌な気はしなかった。
「それで翔、やっぱり七海さんとはデートか?」
あ、その話題、まだ続いてたのか。
「ち、違うよ。実は七海さん、最近掃除部に入ってくれてさ」
「ああ……そういえば、翔は掃除部だったな」
俺が説明すると、一誠く……一誠は思い出したように言った。
教えた覚えはないのだけど……佐藤の呪いは、記憶さえも書き換えるのか?
「掃除ってことは、力仕事だろ。男手が必要になったら、いつでも呼べよ?」
たくましい腕を見せてくれながら、彼は続ける。
ロッカーを運んだりすることもあるし、運動部の一誠が力を貸してくれるのならありがたい。
「え、一誠くんも掃除部に入ってくれるの!?」
そんなことを考えていた矢先、七海さんが話に入ってきた。
「おう。荷物運びは任せてくれ!」
「でも一誠くん、野球部じゃなかったっけ? そんな時間あるの?」
「弱小野球部だし、昼休みなら手伝えるぞ。所属も……問題ないよな?」
一誠は一瞬不安げな顔をし、俺を見てくる。
「あー……うん。掃除部は文化系の部活だから、兼任できるよ」
「なら、問題なしだね。体力自慢の部員ゲット!」
いえーい、といった感じで、七海さんは俺にハイタッチを求めてくる。
とっさに応じるも、直後にめちゃくちゃ恥ずかしくなった。
「お前ら、相変わらず仲いいよなぁ」
そんな俺たちを見て、一誠は豪快に笑っていた。
悪いやつじゃなさそうだし。いざという時は頼りにさせてもらおう。
「じゃあ、今日の放課後に入部届を書いてほしいんだけど……時間ある?」
「ああ、大丈夫だぜ」
そこから先は、七海さんがサクサクと話を進めてくれる。
本来は部長である俺の役目だが、コミュ障の俺は人と話すことに慣れていない。彼女の存在はありがたかった。
……そうこうしていると、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
「げ、やばい」
話に夢中になって、まったく食事が進んでいなかった。
俺は食べかけの焼きそばパンをコーヒーで流し込むと、急いで午後の授業の準備にとりかかった。
◇
その日の授業を終えて、俺と七海さん、一誠の三人は掃除部の部室へと向かう。
「運動部の部活棟と違って小綺麗だよな。あそこは壁も床も傷だらけだぞ」
周囲を見渡しながら、一誠はそんなことを口にする。
偏見かもしれないけど、運動部はどうしても血気盛んなイメージがある。
「……あれ?」
やがて部室の入口が見えてきた時、そこに見知った顔がいた。
「え、
「あ、おにい! 待ってたよ!」
俺が困惑していると、妹は勢いよく抱きついてきた。危うく突き飛ばされそうになる。
「おにい……って、翔くん、妹さんがいたの?」
「はじめまして!
俺から素早く離れると、雨芽は七海さんと一誠に深々と頭を下げた。
妹は同じ学校の一年だし、ここにいるのは当然だが……うちの部室になんの用だろう。なんだか、嫌な予感がする。
「雨芽、どうしてここに?」
「私も掃除部に入ろうと思って! 顧問の先生に聞いたけど、部員少ないんでしょ?」
おそるおそる尋ねると、そんな言葉が返ってきた。
やはり、嫌な予感が当たってしまった。
俺はなんと答えるべきかわからず、七海さんや一誠を見る。
「もちろんいいよ。新入部員は大歓迎」
「そうだなー。人数は多いに越したことはないし」
すると、二人は二つ返事でOKしていた。
……佐藤の呪いにかかった皆は、仲が良くなる法則。すっかり忘れていた。
「ありがとうございます! 先輩方、よろしくお願いします!」
雨芽はもう一度深く一礼する。相変わらず外面だけはいいんだから……。
「立ち話もなんだし、部室で話そうよ。翔くん、鍵貸して?」
「あ、うん……」
満面の笑みを浮かべる七海さんに、俺は部室の鍵を手渡す。
「どうぞー、入ってー」
「おじゃましまーす」
それからすぐに鍵が開けられて、皆はぞろぞろと部室へ入っていく。
……完全に主導権を握られていた。変だな。部長は俺なのに。
……その後は雨芽と一誠の二人に入部届を書いてもらいながら、それぞれ自己紹介を済ませる。
「はー、ななみん先輩も一誠先輩も、苗字が佐藤なんですね。すごい偶然です」
雨芽が俺たちの顔を見渡しながら、感嘆の声を上げていた。
残念ながら雨芽、これは偶然じゃない。呪いの力だ。
「……なぁ、皆は呪いって信じる?」
ここにきて、俺は意を決して聞いてみる。
「え、どうしたの急に」
「呪いぃ? わら人形的なやつか?」
七海さんは首をかしげ、一誠は素っ頓狂な声を上げた。
「そ、そう。実は俺たちは佐藤の呪いにかかっていて、ここに必然的に集められたとしたら……」
「あはは、そうだったら面白いねー」
「呪いなんてもん、あるわけねーじゃん」
「そうだよー。変なおにい」
必死に伝えるも、三人が信じてくれる様子はなかった。
呪い、目の前にあるんだけどなぁ……。
「そうだ。人数増えてきたし、連絡用のグループとか作らない? 雨芽ちゃんに一誠君、スマホ持ってる?」
その時、七海さんが空気を変えるように言って、スマホを取り出す。
「はい! 持ってます!」
「持ってるが、俺はあくまで幽霊部員だぞ。野球部がメインだからな」
「それでも事前連絡は必要だよ。ほら、翔くんも」
輪になった三人を少し離れたところから見ていると、七海さんから手招きされる。
「え、俺も?」
「当たり前だよ。ほらほら」
困惑しながらスマホを取り出し、皆と連絡先を交換する。
家族以外から連絡先をもらうなんて、初めての経験だった。
「じゃあ、佐藤さんばっかりの集まりだから、グループ名は『佐藤まみれ』にしない?」
「いいですね!」
「めっちゃ甘そうだな」
え、そこは『掃除部』じゃないんだ……なんて考えるも、口を出すのは野暮な気がした。
佐藤さんだらけのグループ『佐藤まみれ』誕生の瞬間だった。
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