第3話 骨に肌を、財布に痛みを

あのスケルトンの顔を作りたい。笑わせてやりたい。そのために、金がいる。

ダンジョンを出ると、満足感とこれからの不安が一気に押し寄せてくる。


 だが、考えなしに家を売ったわけじゃない。

 知り合いの美術商から金を借り、その担保に家を入れたまでだ。


 分割で返す話だが、期限を超えたら宿無しになる。そんな契約だ。

 とりあえず800万。家と考えれば安い金額。だが今の俺には大金だ。

 まだ手持ちに200万残ってる。

 さて、50万あれば今月は支払いできるし生活にも困らない。

 

スケルトンの頭を表面だけでも整えるためにはもう100万必要。つまり100残して2か月の余裕を持てるわけだ。

スケルトンの衣服を揃えたりで多少減るかもしれない。


 悩む俺の肩を叩く奴がいた。えーい、今忙しい。振り向くと美術商が笑っていた。


「勢いで借りてった金は有効に使えたかい?」


 メガネにコルセットとスカート姿の若い女性。親が豪商の道楽娘で、有り余る金と人脈で実家の新事業と言えるほど手広くやっている。俺に仕事をくれる存在、セラお嬢。今回も深く聞かず金を用意してくれた。


「初回から心配することじゃないけど、もう少し分割、細かくしたほうがいいんじゃない?」


「期限近くなったら相談する」


 弱気なわけじゃない。保険だ。決して早くスケルトンに顔をつけたいから予算ギリまで使おうとか考えてない。


「最悪返せなかったら」

「あの店だろ、わかってる」

「いや、あの店は別にいらないんだ。君の体で払ってもらう」


「何そのスケベ展開」


「おいといて」

「おいとかれた」

「君の修理の腕を、存分にうちで発揮して欲しいってこと」

「腕を見込まれるのはありがたい」


「だから、無理はしないでよ。こないだも危険なクエスト受けたらしいじゃないか」


「あーまあ、あの時は、早く余裕が欲しかったからな」


「そういうところ、今日死ぬ気で頑張っても明日があるんだから、程々に」


 含蓄がありそうだが、お嬢がサボる時によくいう言葉だ。こないだは「何もしないをしてる」とか言ってたな。


「それはそうと、お嬢はどこで服を買うんだ?」

「なんだ、服を褒めて下心でもあるのかい?」


「いや、全く」

「そこは少しはあるそぶりをしなよ。オーダーメイドだよ。家で相談して出来上がりを持ってきてもらう」

「うへぇ、高そう」


「最低20万。今来てるの全部合わせると50、いや70あればできるかな」

「想像以上でした」


「服の中もすごいんだよ」

「それはなんか、すごいことになりそうなので遠慮します」


お嬢はくすくすと笑ったあと、不意に口調を変える。


「……ところで、人工スキンの取り扱い、うちでも少しやってるけど?」

「え?」

「義手や義足用の人工皮膚ね。他で大量に買う人がいるから、安く融通できるかも。聞いたよ1セット買ったのだろう」

 お嬢はセトの顔をじっと見る。


「君の周りに、そういう必要な人がいたっけ?それとも、もしかしてあれかい」

「……?」


「ちっちゃい人形作って、ウフフする気かい?」


 セトは心臓が跳ねる音を感じた。図星だ。いや、人形じゃない。等身大だ。スケルトンだ。でも──やってることは……。


「な、なんでもない」


「ふふっ、顔に出すねえ。まぁ、いいよ。私は君のそういうところ、嫌いじゃない」


「君がそんな調子だから私は退屈しないよ」


 お嬢のお付きが近くに迫る。嬢より頭一つ小さい黒髪おかっぱの少女メイド。

「お嬢、そろそろお時間です」


「おっと、もっと話したいが、周りがうるさいんでね。頑張りたまえよ」

 ひらひらと手を振りながら、お嬢は街の喧騒に紛れていった。


お嬢の情報網に察知されていることに冷や汗をかくも、人工スキンが少しでも安いなら利用しない手はない。

服の予算と相談しながら、頭部に使う人工スキンを手配してもらおう。

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