そうだ、タイムマシンに乗ろう。
みぞじーβ
第1話 トーストボタンの悲劇
佐藤健太は、ガレージの薄暗い蛍光灯の下、自作のタイムマシンを前にして胸を張った。
「友子!見てくれ!ついに完成だ!」
タイムマシンとは名ばかりで、土台は廃車置き場から持ってきた古いアメ車の運転席。
計器類はジャンク屋で買った謎の部品と、大量のボタンで構成されていた。特に目立つのは、操作盤の中央に鎮座する、どこかの電子レンジから流用されたらしい、大きくて平たいボタンだ。
そこにはなぜか**『トースト焼く』**と油性マジックで書かれていた。
「すごいわね。見た目はともかく」
と、幼馴染みの田中友子がため息交じりに言った。
「それで、ちゃんと動くの?」
「もちろんだ!俺が天才健太だぞ?行き先は、世紀の大発見がある西暦2050年だ!未来の技術を盗み放題だ!」
健太は意気揚々とダイヤルを回し、目的地の「2050年」に合わせる。
ガタガタとタイムマシンが震え、独特の機械油の匂いがガレージに充満した。
「よし、出発だ!」
健太は『トースト焼く』ボタンに手をかけた。
「ちょっと待って、健太!」
友子が慌てて手を伸ばした。
「なんで出発ボタンが『トースト焼く』なのよ!しかもマジックで書いてある!」
「いいんだよ、感触が良かったから使ったんだ!行くぞ!」
健太がボタンを押そうとした、まさにその瞬間。
友子の手が勢いよく彼の腕にぶつかった。ピッ。「あ!?」
タイムマシン全体が一瞬、眩しい光に包まれた。健太と友子は衝撃で座席にのけぞる。
異様な振動が収まり、周囲の光景が一変した。目の前に広がっていたのは、見慣れたガレージではなく、木々がうっそうと茂る山中だった。
「つ、着いたのか…?」
健太が恐る恐る尋ねた。
友子がナビゲーター代わりの古びたカーナビに目をやった。
画面には、目的地設定として健太が合わせたはずの「2050年」ではなく、全く予期せぬ日付が表示されていた。
【目的地:永禄三年・西暦1560年5月】
【現在地:尾張国・桶狭間付近】
友子は顔を青くした。
「健太…ねぇ、これ。戦国時代よ」
「え?戦国時代?俺、2050年って合わせたぞ!まさかこの『トースト焼く』ボタン、行き先ランダムだったのか!?」
「知らないわよ!って、後ろ見て!」
友子が指さした先。木々の間から、甲冑姿の武士たちが、刀や槍を構えて、こちらを警戒しながら進んでくるのが見えた。
彼らの顔は疲労と緊張で固まっている。健太は慌ててタイムマシンの操作盤に飛びついた。
「やばい!織田軍か今川軍かわからないけど、見つかったら俺たち歴史の闇に葬られるぞ!トーストボタン!トーストボタン!」
彼が『トースト焼く』ボタンを連打しようとした、その時だった。健太のポケットから、電源を切り忘れていたスマートフォンが、着信音と共に明るく光った。
🎶「お〜いぇい!未来は俺らの手の中〜♪」🎶(健太の自作着信音)
夜の闇の中、その光と音は異様すぎた。
「な、なんだ!?」
武士たちの一団が、突然の閃光と奇妙な音に驚き、一斉に彼らのタイムマシンの方を向いた。
「ひ、光る鉄の箱に、未来の鬼が乗っておるぞ!」「呪いだ!未来の呪いだ!」
武士たちがワナワナと震えながら、タイムマシンを取り囲み始める。健太は顔面蒼白になりながら、スマホを慌てて電源オフにした。
「圏外って言ってるだろ!余計な仕事すんなバカスマホ!」
「圏外も何も、ここは1560年よ!それより、早く出発するのよ!」
友子が叫んだ。
健太は焦りすぎて、今度は**『脱水』**とマジックで書かれたボタンを、祈るように強く押し込んだ。
ゴオオオオオオ!!タイムマシンが激しく回転を始め、周囲の木々を薙ぎ倒すほどの風を巻き起こした。武士たちが悲鳴を上げながら四散する。
タイムマシンは凄まじい轟音と共に、再び光の渦に飲み込まれていった。
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