ぼくのなまえはこまりです
四十住沓(あいずみ くつ)
第1話 こまりのちいさなぼうけん
ぼくのなまえはこまりです。きれいなけなみがじまんの ジャンガリアンハムスター。このまえ うまれてから いちねんたったばっかり。
ぼくは さんにんの ニンゲンと くらしています。「おかあさん」とよばれる おんなのひと。「おとうさん」とよばれる おとこのひと。そして まだちいさな 「けいたくん」とよばれる おとこのこ。ぼくのおせわは おもに けいたくんが してくれる。
ぼくには まだわからないことが たくさんある。たとえば このケージのそとの せかいとか。なんで きめられたじかんに ごはんがやってくるのかとか。どうして けいたくんは ごはんをくれるときに ぼくのことを なでていくのかとか。ぼくの おかあさんは どんなかんじだったんだろうとか。
そのひ、ぼくにはやっぱりわからないことが おこった。
まいあさ けいたくんが ごはんをくれるのだけど けさは ごはんがこない。いつものごはんと おやつのひまわりのたね ひとつぶ たべたいんだけどな。けいたくん どうしちゃったんだろう。なにかあったのかな。けいたくん からだがわるくなっちゃったのかな。
ホイールをぐるぐるまわして しばらくまっていたけど きょうはこないみたいだ。おなかが ぐーぐーいっていたぼくは じぶんでごはんを さがしにいくことにした。けいたくんも さがさないと。ぼくがついていないと だめなんだから!
ケージのとびらが すこしあいてる。めをつぶって おでこでこつん! とびらがひらいた!
おそるおそる ケージのそとにでる。こんなこと はじめてだ。どこか ワクワクしてる。いくらはしっても ぶつからない! でも なにもかも ぼくよりおおきくて ちょっとこわくなってきた。
テレビとよばれる くろくてうすい おおきないた。テーブルとよばれる あしのついたなにか。たんすとよばれる しかくいかたまり。おおきなかぐで できたかげが すこしこわくて ぼくはあしがすくんだけど おいしいおやつを ぜったいてにいれるんだ。
ひまわりのたねは どこにあるんだろう。においを くんくん。あっちのへやかな? たべもののにおいが いっぱいするへや。ニンゲンたちのごはんのときに おいしいにおいが してくるへや。
そこへいこうとすると――
「おい おまえ。」
きゅうに ひくいこえで はなしかけられた!
「だ、だれですか。」
「おれだよ おれ。そうじきだよ。」
そこには 「おかあさん」が ひるま うるさいおとをたてて ゆかをごしごしする あいつがいた。ぼくは そうじきのおとが にがてだ。でもきょうは いつもみたいにうるさくない。
「……きょうは さわがしくしないの?」
ぼくは おおきなそうじきに かけよって ぴたっとさわってみた。ひんやりした かんかくが まえあしにつたわってくる。
「おれは ひとのてがないと うごけないんだよ。」
そうじきは すこし さみしそうに わらった。
「そうなの? どうして?」
「そういうふうに つくられているんだ。おれは ひとりじゃ はしれないんだぜ。ニンゲンが スイッチを いれてくれなきゃ ただのかたまりさ。……おまえはひとりで うごけていいよな。」
そうなのかな。ぼくは みんなじぶんで はしれるとおもってたんだけど。ぼくは しあわせなのかな。
「ひとりでうごけることを 『じゆう』っていうんだぜ。」
「じゆう。」
「そうだ。おまえは じゆうだ。……ちょっとだけ うらやましいよ。」
じゆうって なんだろう。そうじきは うらやましいって いうけれど ニンゲンのてで うごかされるだけも わるくないとおもうんだ。ぼくは ぼくのおかあさんをおぼえてないけれど おかあさんがいたら おかあさんをたよっているだけで しあわせになれる きがする。
でも…… ぼくは ひまわりのたねとけいたくんを さがすために はしっていかなきゃいけない。ぼくのてで みつけなきゃいけないんだ。
「おまえ、どうしてケージから でてきたんだ。」
「きょうね、ごはんが とどかなかったんだ。けいたくんを みてない?」
「きょうは みてないな。ほかのニンゲンも みてない。ごはんなら たぶん キッチンにあるぜ。おくのとびらの むこうだ。」
やっぱり、あのいいにおいがする へやのことだった。ぼくはそこへむかいながら そうじきにあいさつした。
「ありがとう! そうじきも、じぶんでうごけるようになると いいね。」
「ああ、そんなひが くるといいな。……おれにも どこへでもいける あしがあったらなあ。」
そうじきとおわかれして キッチンにむかおうとすると ふいにふわふわのけだまが あらわれた!
「あら、こまり。きょうは おでかけ?」
はいいろの ながいつやつやのけなみの 「ねこ」とよばれる いきもの。なまえは アイシャ。ちょっとおしゃまな おんなのこだ。
「アイシャ。ぼくは ひまわりのたねと けいたくんたちをさがしているんだ。」
「ふうん…… ニンゲンたちは きょうはみていないわ。そんなに ひまわりのたねが ほしいの?」
「うん! カリカリしていて とってもおいしいんだよ。」
ぼくがまえあしで ひまわりのたねをつかむような ジェスチャーをすると アイシャはなにか かんがえこむようだった。
「こまりは かりができないの?」
「かり?」
「むしや とりや どうぶつをつかまえて たべたり ニンゲンにみせたりすることよ。」
「うーん、むしをたべることはあるけど…… そんなにしないかなあ。」
アイシャは ツンと はなさきをうえにむけて わらった。
「アンタはかわれているだけで まんぞくしているのね。」
「かわれている?」
「ニンゲンのおもうがままってことよ。しぜんのなかじゃ いきていけないわね。」
「しぜん……」
「しぜんのなかは キケンもおおいけど かぜのにおいは とってもきもちいいわ。」
ぼくは ときどきみるゆめを おもいだしていた。いちめんにひろがる そうげんのした あなをほって くらしているゆめ。ぼくにはないはずの ぼくのきおく。はなのおくで あめあがりの くさのにおいがした。
「……ねえアイシャ。かわれているのと しぜんでくらすのは どっちがしあわせなの?」
かわれていれば こわいどうぶつに おそわれなくてすむ。でも しぜんでくらしていれば ぼくはもっと じゆうだ。おかあさんと くらせたかもしれない。
「さあ。それは アンタがきめることよ。」
「うーん…… ぼくには むずかしいよ。」
よくわからなくて あたまがぷしゅーって してきた。ぼくには まだわからない。それより、ひまわりのたねを さがさないと。
「それじゃあ、ぼくは いくね。」
「はいはい。ひまわりのたね みつかるといいわね。……アンタはアンタのままでいいのよ。しぜんでも、かわれていてもね。」
キッチンのとびらは おもすぎて ぼくのおでこでは あけられなかったから アイシャにあけてもらった。
「ありがとう!」
「いってらっしゃい、ちいさなぼうけんしゃさん。」
キッチンは うすぐらかった。それに、けいたくんたちは ここにもいない。けいたくんは ぼくのことを ときどき らんぼうにつかむから にがてだったけど いないとしんぱいだ。
「あ! あった!」
はなをきかせていると テーブルのうえで ひまわりのたねをみつけた! ふくろからとりだして ひとつぶずつかじる。ニンゲンたちは いつもひとつぶしかくれないから きょうはいくらでもたべられて ぼくはしあわせだった。
カリカリたべて のこりはほおぶくろに。ケージまでもっていこう。おなかいっぱい!
「……まり、こまり」
うん……? けいたくんの こえがする。
「こまり、ねちゃったの?」
きがつくと ぼくは けいたくんのてのひらのうえで ねむっていた。
「……ゆめだったの?」
ぼくのあしのうらには まだキッチンのつめたいゆかのかんかくが のこっていた。でもほおぶくろには ひまわりのたねがない。おなかも ぐーぐーのまま。
それでも、けいたくんのかおをみたら ほっとした。うしろに 「おかあさん」と「おとうさん」も たっている。
「こまり、ごはんあげにきたのに ねちゃったみたい」
「かわいいわね。けいたのてのひらが おきにいりなのね」
「きっと あんしんしているんだろう」
ニンゲンたちは なにやらしゃべっている。てのひらは あったかくて またねむくなってきた。
「おうちのなか……たのしかったなあ。おそとは もっとたのしいのかなあ。ケージのなかと おそと どっちがしあわせなのかなあ。」
うとうとしてきたけど ふいにきがついた。
「あ!」
そういえば ほんもののひまわりのたねを たべてない!
「ガブッ!」
「いたっ! こまりに かまれた! こーまーりー!」
ひまわりのたねを もらうまでは ねるわけには いかないんだからね!
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