第12話:爆音Ⅷ:深い孤独と即興の狂気

第一章:月の夜に集まる、即興の地獄


その夜、ライブハウス「Set Sail」の窓辺には、まるで誰かが勝手に設置したような、やわらかな月が浮かんでいた。


「月、きれいだね」

ナナがピアノの鍵盤を軽くなぞりながら言った。(BGM:ドビュッシーの『月の光』…の、最初の3音くらい)


「月がきれいな夜は、ブルースだな」

ヨハンがカウンターの奥でベースの弦を撫でる。その音は、まるで夜の空気をひとすじ裂くように低く響いた。(ただし、低すぎて誰も気づかないレベル)

「じゃあ、今日は即興でブルース作るか」


ケンが譜面台を持ち出してきた。その顔は真剣そのもの。でも、誰もが知っている。この男の“真剣”は、だいたい混乱”の前触れだ。


「テーマは?」

とタカシがギターを抱えながら聞くと、ケンはにやりと笑って言った。


「“あいうえお作文”でブルースだ」


「……え?」


ネネがマイクの前でフリーズした。


「“あいうえお”でブルースって、それ、教育番組と夜の酒場の融合じゃない?(斬新すぎるだろ!)」

ナナが笑いながら言うと、カズが

「それ、逆に新しいかも。ジャンルの不倫だ!」と乗ってきた。


「じゃあ、つ、き、あ、か、りで作っていこう」


ケンが譜面に自分の渾身の一行目を書き込む。


> つまんない

> きみがいった

> あけがたまで

> からだよせあい

> りずむとりあい


> 2番はネネにパスする


「“つきあかり”ね……」

ネネがペンを取り、しばし黙ったあと、**まるで呪文を唱えるかのように**、さらさらと書き始めた。


そして、冷徹な表情で読み上げた。


> つきあえない、

> きがあわない、

> ありきたりの、

> かんがえだけで、

> りこうぶっている


静寂。


「……え、重くない!?」


ユウジがドラムスティックを**反射的に**落とした。


「それ、誰のこと!?俺たちの爆音団の不協和音のことじゃないよね!?」

カズが椅子から半分立ち上がる。


「いや、あの、即興だから…」

ネネはノートをそっと閉じた。(完全に図星を突かれた顔)

「即興でそれ出てくるの、逆に怖いわ。ネネの孤独、加速してない?」

タカシがギターを抱えたまま、じわじわと後ずさる。


「でも、ブルースってそういうもんだろ」

ヨハンが静かに、だが深く言った。

「心の底から出てきたものを、そのまま音にする。これは…魂の叫びだ」


「魂、叫びすぎじゃない?ブルースじゃなくて、内ゲバだよ!」

ナナが笑いをこらえながら、ピアノの蓋をそっと開けた。


こうして、“月明かりブルース”の夜が、静かに、そして即興ゆえの緊迫感とともに始まった。




第二章:歌詞の嵐とツッコミの嵐


「つきあえない、きがあわない…」

ネネがもう一度読み上げると、ケンは譜面台の前で頭を抱えた。


「これ、どうやって歌うの!?メロディーが血を吐いてるよ!」


「メロディはもうできてるよ」

タカシがギターをポロンと鳴らしながらつぶやいたが、あまりの騒動にスルーされた。


「俺たちのことじゃないよね!?(二度目)」

ユウジとカズが妙に息の合ったハモリで叫ぶ。


「ブルースって、こんなに疑心暗鬼になる音楽だったっけ?」ナナが吹き出した。


ヨハンはベースを静かに鳴らしながら言った。


「疑心暗鬼こそ、ブルースの源泉だよ。“俺のことか?”って思った時点で、もうそれは自分の歌なんだ」


「深いな…(俺のツッコミもブルースだったのか)」

カズが感心したように言ったが、ユウジはまだ眉間にしわを寄せていた。


「でもさ、“ありきたりの考えだけで利口ぶってる”って、それ、俺が昨日言ったジャズって自由だよね”のことじゃないよね?(あれ、結構渾身のコメントだったのに!)


ネネはノートを見ながら、「うーん…それは…偶然…」と口ごもった。


「偶然って言いながら、めっちゃ目そらしてるじゃん!お前の嘘の重力**が重すぎる!」ユウジが叫ぶ。


タカシは譜面に向かって、真剣な顔で作曲の指示を出す。


「じゃあ、メロディーは…“つきあえなーい”、“きがあわなーい”のなーいは半音階上がって、さらっと…」

「で、りこうぶっているは…?」

ナナが聞くと、タカシは譜面を見ながら言った。


「そこは、叫ぶ」


「叫ぶの!?それ、ブルースじゃなくて、ケンカじゃん!」ネネが驚いた。


「叫ばないと、この歌詞の怒りが伝わらない」ヨハンがベースを鳴らしながらうなずいた。


「叫ぶブルース…それはもう、魂の火事だな。(消火活動が必要だ)」




第三章:サビと3番の誕生(ブルースのお説教タイム)


「たどり着いたのは街灯のない街」

ネネがぽつりとつぶやいた。店内が静かになる。


「つきあかりが…きれい」

その言葉が、まるで場違いな希望のように空気に溶けていった。


「それ、サビにしよう」

タカシが譜面台の前で立ち上がった。「“街灯のない街”って、ブルースの舞台として完璧じゃないか?」


「でも、“きれい”って…」

ケンは首に巨大なクエスチョンマークが宿ったかのように首をかしげた。「ちょっとロマンチックすぎないか?途中で和解しちゃうの?」


「ロマンチックとブルースは、紙一重だよ」ヨハンがベースを鳴らしながら言った。


「紙一重っていうか、もう紙が燃えてる気がする」ユウジがドラムスティックを回しながらぼそり。


ケンはノートを睨みながら、つ、つ、き、きと呪文を唱えるように唸っている。(俺の渾身の歌詞が、完全に蚊帳の外だ!)


ネネは、月を見ながら、スルスルとペンを走らせた。


> ついてきな、

> きがつきな、

> あゆみだせ、

> かまえすぎずに、

> りらっくすしなよ


「……おばあちゃんか!**」カズが**光速でツッコんだ**。


「いや、違うの!月が優しくて、なんかこう、ポエミーな何かが爆発しちゃったの!」ネネはノートを抱きしめ、震えた。


「“かまえすぎずに”って、ブルースで言うか?それ、もはや座禅のススメじゃね?」ユウジがニヤニヤしながら言うと、カズが


「逆にアリかも。じいちゃんの遺影の前で歌うブルースみたいで」


ケンは譜面を睨みつけ、世界平和の鍵が隠されているかのような真剣な顔を装いながら言った。


「じゃあ、3番は“月からのお説教タイム”ってことで」



第四章:音と心が重なる瞬間(誰かを許すノイズ)


ナナがピアノの前で、コードを探すように指を滑らせていた。


「この曲、意外と優しいかも」


「優しい?」ネネがマイクの前で首をかしげる。


「うん。辛口の歌詞も、3番の“りらっくすしなよ”も、なんか…誰かを許してる感じがする」


「たしかに。怒ってるようで、実は“もういいよ”って言ってる気がする」ケンがうなずいた。


ネネは少しだけ笑った。「うーん…最初はただの愚痴だったけど、みんなが音にしてくれたから、なんか…歌になった気がする」


「愚痴が歌になるって、それこそブルースじゃん」カズがリズムを刻みながら言った。


ヨハンがベースを鳴らしながら答えた。「それ、いいな。誰にも届かないと思ってた言葉が、月に届いて、音になって返ってくる」


ネネはマイクの前で、そっと目を閉じた。


ナナがピアノを鳴らす。ケンがベースを重ねる。ユウジとカズがリズムを合わせ、タカシがギターで月の光を模したノイズを流す。


そして、ネネが歌い始めた。


> たどり着いたのは 街灯のない街 。

>つきあかりがきれい。


Set Sailの店内には、音と心が重なる瞬間の、あたたかい沈黙が流れていた。



第五章:月明かりのステージ(本音の大爆発)


その夜、Set Sailのステージには、いつもより少しだけ哲学的な空気が流れていた。


「じゃあ、次の曲は…即興で作ったブルースです」


ナナがピアノの最初のコードを鳴らす。


ネネが歌い出す。


> つまんなーい

>きみがいった

> あ・け・が・た・まーで

>からだよせあい

>りずむとりあい


そして、ネネの魂の叫び**が炸裂する。


> つきあえなーい、

>きがあわなーい

> あ・り・きたりーの

>かんがえだけで

>りこうぶっている!!!(叫び)


客席の誰かが、ふっと息をのんだ。(それ、俺のことか!?)


そしてサビ。


> たどり着いたのは 街灯のない街

> つ・き・あ・か・り・が きれいー


ネネの歌声が、辛辣な怒りと和解の優しさを往復する。


そして3番。月からの説教タイム。


> ついてきな、

>きがつきな

> あゆみだそう、

>かまえすぎずに

>りらっくすしなよ


最後のフレーズが終わると、店内にはしばし、静寂が流れた。


ネネはマイクを握ったまま、達成感と疲労で小さく笑った。


「ありがとう。この曲、みんなで作りました。…たぶん、誰かのために」


ケンがうなずき、ヨハンがベースをそっと鳴らした。


その音は、まるで月が「よくやった。ブルースは、そういうもんさ」と言ってくれているようだった。

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