第22話
◇ ◇ ◇
大陸南部に位置するシュードスタル王国、そのおおよそ中央部に王都アールミッド
はある。
堅固な石の城壁に囲まれた中にはエルフ、ドワーフ、獣人、人族、多種多様な種族
が行き交い、華やかでありながら洗練された街並は、王の座す都に相応しい。
都の中心には堀と内壁に守られ聳えたつ白亜の城館。
その中の一室では、剣呑な空気が漂っていた。
「……であるからして、その予算は我々、国軍に回していただきたい!」
大きな長方形のテーブルを大勢が囲んで席につく中、引き締まった体の男がまくし
立てる。
「サーヴィン卿、これまで血税がどれだけ軍事費に投じられているとお思いか?
街道及び港湾の新設、維持、整備、産業振興、そろそろ民たちへの還元が必要
では?」
あきれた様子で言葉を返す恰幅の良い男。
「何が民たちだ! 貴様らの息がかかった商人どもへの便宜であろう、何をどれだ
け掴まされた!? 金か、それとも
サーヴィン卿と呼ばれた男が利益誘導を糾弾する。
「国軍こそ非番の酒と博打に禄を溶かしているのでは? 全く大局に立ったものの
見方もできぬとは。騎士からの成り上がり家系には荷が重すぎましたかな?」
罵倒された男は嫌味で返す。
「シュパーザル、貴様……! 父祖を愚弄するとは、許さんぞ!」
醜い舌戦を、険しい顔で見つめる男がいる。
一体、こいつらは何をほざいているのか。
シュードスタル冒険者ギルド統括長レヒタムが心の内で悪態をつく。
この会合は、逃走したユニーク個体、その保護を妨害し今なおつけ狙う各組織への
対応、そして開拓拠点オーフデックの復興計画を話し合うため大臣、各団体代表、他
有力者を招集し開かれたものだ。
ユニーク個体について対応することには全員一致したが、何を何処まで伝えるか
という点について議論は紛糾した。
他国、他勢力への情報漏洩防止のため一部の情報を少数に伝えるべきだ、いや、危
険な魔物の出現を広く伝えてより多くの者たちと協力すべきだ云々。
それ以外に金、功名、研究対象目当ての思惑が絡み合い、結局何も決まらな
かった。
裏組織などへの対応はやれ証拠が不十分なままでは無意味だの慎重に内偵すべきだ
などと尤もらしいことをあの胡散臭い笑みを貼り付けた商人ギルド長がねちっこく述
べ立て、それに財務卿シュパーザルが頷き有耶無耶になった。
どうせ、奴らやその傘下の一部商人らとのつながりが露見することを恐れたの
だろう。
そして、現在、開拓拠点については何故か縮小あるいは撤退する前提で軍務卿サー
ヴィンとシュパーザルが浮いた予算の使い道について口角泡を飛ばしている。
人に恨みを抱いた魔物が報復せんと爪と牙を研いでいるかもしれないというのに
己らのことだけしか考えられぬのか。
苛立つレヒタムから漏れ出る魔力に彼の両隣に座る魔術ギルド長と薬師ギルド長が
恐れ距離を置くよう椅子を引く。
「軍務卿、そして財務卿よ。まずユニーク個体、暗躍する各組織についての方針を
定めるべきではないか? それにオーフデックの取り扱いはまだ何も決まっておら
ぬ」
空転する会議を見かねた議長を務めるシュードスタル国王ヴェルミテレンが
窘める。
「恐れながら陛下、開拓拠点は設置して以来、もたらされる利よりも費用が上回り
続けております。ただ危機への備え、調査研究だけでは存続の理解は得られぬものと
愚考いたします」
シュパーザルは国王に恭しく申し述べる。
「陛下、もし開拓調査を続けるべきとお考えならば、樹林奥地にあり維持管理に難
のあるオーフデックから撤退し、樹林にほど近い場所にある既存の街を整備し拠点と
するのは如何でしょう。例えばテムルファなどは運河沿いの街道と河港を使っての資
材及び人員の移動や確保が容易、すでにある軍営を改修すれば要塞としても利用可能
です」
サーヴィンがここぞとばかり我田引水な案を主張した。
「しかしだな……」
国王が反論しかける。
「そもそも、今回の一件は、オーフデックの実質的な管理運営者である冒険者ギル
ドに落ち度があるのでは? 襲撃犯の計画を未然に防げず甚大な被害をもたらした上
に捕らえておくべきユニーク個体まで消息不明。お得意の領分さえ満足にこなせぬと
は、いやはや魔物の専門家は格が違いますなぁ」
シュパーザルが冒険者ギルドに矛先を変えてなじる。
「やれ未知の脅威だ、資源だ、新種だなどと陛下の耳に吹き込んで
とどのつまり、その日暮らし連中の食い扶持を国からむしり取っているだけではない
のか?」
サーヴィンは、王からの信と予算をかすめ取る冒険者たちめ、と対抗心をにじま
せた。
両人がレヒタムに視線を向けたその瞬間だけ、息が止まる。
一見すると平静を装ってはいるが、眉間に多くの皺が深く刻まれ、こめかみには
血管が走り、周囲には大量の魔力が浮遊し、目には見えぬ火花が激しく散っていた。
自己の立場に汲々としていた他参加者たちも伝説級の元Aランク冒険者の異変に漸
く気づいて慄く。
「サーヴィン卿……」
レヒタムが重々しく口を開く。
「なっ、なんだ!?」
精一杯虚勢を張って答えるサーヴィン。
「軍務派の中でも魔境調査開拓の拠点且つ人口密集地に押し寄せるであろう脅威に
対する防波堤や監視塔としてのオーフデックに意義を見出し賛同する者もあるよう
で。他国に対する守りと発言力の増強に勤しむのは結構ですが派閥の長ならば懸念
を的中させた彼らの意見もとりまとめてから物申して頂きたい」
サーヴィンは項垂れ何も答えない。
「時にシュパーザル卿……」
レヒタムの目が財務卿を捉える。
「……なにかね、ギルド統括長……」
震えながらも最低限貴族としての威厳を保ちつつ答える財務卿。
「メサトレー産の素材を懇意の商人ともどもご愛顧くださっているようでありがと
うございます」
「あ……ああっ、そそそうだとも、魔境より手に入る希少素材であるからな!引く
手数多で商業活性化の一助にもなっているようだな!な!」
シュパーザルの見え透いた世辞に合わせて首を素早く縦に振る商人ギルド長。
「ええ、何やら商人の使いと称する荒っぽい方々が安い金額で大量に買い占めてい
くものですから流通量が極端に少なくなってしまいましてな、売値が仕入れ値の数倍
なら可愛いものです」
レヒタムの言葉に固まる商人ギルド長、脂汗を流しながら彼を横目で見る財務卿。
「陛下から直々に預かった地からの産物をただ何も考えず流しているだけだと思っ
たか?あんたら財務派の多くと大商人が屯してる南東諸領にもギルドはあるんだよ」
歯を剥き獰猛な笑みを浮かべるギルド統括長。
「オーフデックじゃ移送に赴いた国軍の騎士も居合わせた商人も冒険者もみんなで
きること考えてすでに動いてんだよ。末端の人間が必死になって汗かいているのに上
の者が下らない言い争いだって? お前らいい加減にしろよ!」
レヒタムの咆哮とともに室内に荒れ狂う魔力の嵐が解き放たれた。
「……ギルド統括長よ、脅したとてすぐに妙案は出てこぬぞ。各自、本件を持ち
帰って検討し、明日、登城せよ。以上、本日は散会とする」
歯の根が合わぬ者、椅子から転げ落ち震える者、座ったまま白目を剥き泡吹く者
一時の暴風が過ぎ去った後の惨憺たる有様の会議室から国王とレヒタムは退出し
た。
「陛下、申し訳ありませんでした」
レヒタムは、応接室のソファーには座らず立ったまま頭を下げた。
「よいよい、あやつらには良い薬になったであろう」
国王は鷹揚に笑う。
「はっ、して、これからの対応は如何いたしますか?」
レヒタムは席に座ると国王に尋ねる。
「……あの様子では、明日も期待できぬ。レヒタム、頼むぞ」
真剣な表情を浮かべる国王。
「了解しました。そうですね……シュードスタル全ギルドに対して信頼のおける上
位冒険者へ極秘裏にユニーク個体の調査捜索依頼を出すよう通達といった所でしょう
か?」
「裏で動いている連中については、騎士団に警戒、取り締まりをさせる。オーフ
デックの復興については王家より持ち出しで物資、人員を送ることにしよう。ただ
いずれの件も冒険者ギルドに協力の依頼を出すかもしれん。その場合、可能な限り優
先するよう申し添えてくれ」
レヒタムの提案に国王が付け加える。
「はい、では、そのように」
レヒタムは頷き懐から携帯型通信魔道具を取り出すと、冒険者ギルド王都本部に
つなぎ指示を出し始めた。
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