――その後、未亡人とはどうなったかって?


 それは君、下衆の勘ぐりってやつだよ。突然やって来たかと思えば、無粋極まりない。え?それでも知りたい?ま、想像にまかせるよ。僕の話はここでお終い。明日のしたくをしなければならなくてね。ん?富士の樹海さ。いやいや、自害などはしないよ。人生に悲観なんて、これっぽちもしていないのだから。仕事でいくだけさ。君が持ってきてくれたこの”くろ玉“は、道中のお供にさせてもらうよ。二週間ほどかかるからね。樹海の仕事がなにかって?仕方ない、特別におしえるよ。霊峰の麓にある風穴の一つが、地球の中心につながっていてね。四年に一度行かなきゃならないんだよ。


 ――なんのため?


 それは、地球のネジを巻くために決まっているじゃないか。そうやって何万年も地球をまわしているんだぜ?有史以来続いている大事な仕事。これは君だから教えるのさ。もちろん口を滑らすなかれ。天地がひっくり返って、地球が逆転してしまう。本当の仕事を隠す為に『ネジ巻き猫』の物語を作ったのだから。まあ、あんなに滅茶苦茶な解釈されているとは思わなかったけどね。ん?なんていった?年寄りなんて、馬鹿にしちゃあいけないよ。長く生きた分、古今東西あらゆる知識は僕の中にある。国の作り方、人の動かし方、恋愛の妙、男女の機微。大家の爺さんの死期だってわかるぜ?


 しかし残念だけど、そんな僕にもわからないことが、ひとつだけあるんだ。有史以来、誰にもわからない摩訶不思議な事。


「ほんと、あの猫はどこに流れて行ったのだろうな」




              終幕

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