半額セールの乙くんに沼
無変むくう
第1話 乙、半額セールです
───いつもの景色。毎日同じ時間、同じスーパー。
店員が男女複数の人間を精肉コーナーに陳列する。リコルは人間に売られてる時点で、扱いは下僕だ。買われたリコルは奴隷のように扱われる。
俺は乙。何の価値もない残り物のリコルだ。
22時30分過ぎると店員が半額のシールを俺たちに貼る。おばちゃんが毎度、半額の俺たちを買う。
俺は薄気味悪く観察してくる人間を殺している。奴らの腕をもぎったり、鈍器で頭部をぶっ潰したり、腕、首、耳、腹部、片足、足首から刃物で切り落としバラバラでぐちょぐちょになるまでそいつを抉るのが快感で仕方ない。
口を豪快に開けニヤリと笑い相手を睨んでいるからか、毎日売れ残る。けどあいつは違った──。
その男は、綺麗な顔立ちをしている。じっとり、俺を監視する。視線が痛いというかむんむんしていてやばい、俺の残虐行為に対抗して何時間も監視してくる。俺の視線から外れない。外されない──
なんかきた俺の全身が震えだし波打っている。
汗が止まらない。待て待て待ていや何文字だこいつ。
余り者の俺を見ては頬を高揚させて、喉仏が上下してシャトルランしている。
はあ、はあ、はあ、またこいつのせいで、息ができない。絶対に支配されてはならない。
「っちお前、俺のどこがいいんだよ」
「うわあ、初めて話してくれた。待って声すっごい可愛い」
キャラクターかよっていうぐらい過剰反応。
俺は最大限ドン引きし、拒絶するが男はさらに左耳から近づいてきてすうっと匂いを嗅ぎながら舐めるように見る。
「ちょっ耳、嗅ぐなって」
「乙くんの耳って一口サイズでふわふわしてそう」
この視線から解放してくれない。
「近づくなっおい、聞け」
星牙は正面に戻り俺の左胸にある値札プレート、乙半額という文字を凝視する。
「僕買います、乙くんを買います」
「いやマジでやめろ。相当やばい使い方するだろう。今までだって、断固拒否する」
顔面が酒に酔っ払った様に真っ赤でふらふらする。
「大丈夫、ひどい事はしませんよ。僕は宮田星牙って言います。僕があなたをお世話したいんです」
星牙が手を伸ばして、俺の手を取ろうとするが、拒絶して放つ。
「やめろ、触るなっ」
俺は出てはいけない精肉コーナーを全力でダッシュして離れる。だが鮮魚コーナー、お菓子コーナー、どこの角を曲がっても星人牙が隠れんぼで鬼ごっこのようにつけて来る。
俺は誰もいないレジの下に隠れて息を止める。
──息が持たない。何なら頭もピリピリしてきた。早く酸素を取り込みたい。
「乙くんみーつけた」
「ぷはっ、お前な」
膝がガクンとなり倒れそうになるのを星牙はがっしり掴む。目の前で悪いことしたなと言う名の、顔面蒼白になっている──。
「乙くん、乙くん聞こえる。乙くん」
視界いっぱいに星牙の美形な顔面。
「うわっ、離れろって」
「もしかして僕の顔好きじゃない?」
「顔っていうかこの状況がこえーんだよ」
星牙は俺の前で跪く。
「乙くん、あの時から僕は乙くんしかいないんだ。せめて君の側にいたいだけなんだ」
「この変人リコルをどうしたいんだよ、焼き殺されそうで怖い。お前にだけは絶対に買われたくない」
星牙は突き刺す青い瞳で俺を見る。
「乙くんが僕を利用したらいいよ、人間を殺したいんでしょ。今まで脳内でどうやって殺めてたの」
俺の右頭赤い血管がブチリッと音を鳴らした。
「簡単だよ。バラバラにしてぐちょぐちょになるまで激しくやってやるだよ、それはもう快感だよ。人間なんてもう何人」
はっと口を手で塞ぐがもう遅い。俺のやってる行為全て完全にバレてた。
「乙くん実際にしたいんでしょ満足するまで。
僕を殺してもいいから僕だけのリコルになってくれる」
「っはは、何なんだよ」
笑えないが笑ってしまう。俺は無視して精肉コーナーに戻ろうとするが手を引き止められる。
「乙くんお願い、僕を見捨てないで。僕だけのリコルになって」
ああもう何なんだよ。くそっこんなに、
「意味わかんねえ」
星牙が俺の左手を取り跪き、心臓に重ね合わす。
「僕は今日から乙くんを守る心臓になります」
リコルで生存してきて初めて買われた。
ちくしょー。憎い、憎い、憎い、憎い、分かんないけど感情が渦巻いてなんか気持ち悪い。
俺は星牙の手を拒絶して離す。
「星牙、俺はお前を骨の髄まで利用して本能のまま行動する。お前の事も信用していない。俺と一緒に居たら狂うぞ、それでもいいなら使ってやる」
「何処までも乙くんの生に。なんなりと」
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