短編の詰め合わせ
夢月 愁
1:涙の婚約破棄-実は愛しい彼女の為に-
:涙の婚約破棄-実は愛しい彼女のために-
僕はレスター王国の第二王子ウェイン。
金髪に碧眼の、赤い王子服を着た、女のような顔とよく言われる何の取り柄もないヘタレ王子だ。
僕には、白いドレスの似合う伯爵令嬢の婚約者、少し強気な黒髪の美女ミラリアがいる。
けど、彼女は僕の友人にして屈強な騎士エルドレッドに気があるようで、エルドレッドも彼女をほのかに慕っているみたいだ。
なので、僕はミラリアに婚約破棄をすることにした。強くて男らしいエルドレッドと一緒のほうが、彼女も幸せだろうから。
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豪奢なシャンデリアに、煌く調度品の数々、赤いカーペットの敷かれたこのレスター王国の宮廷で、僕はミラリアに、婚約破棄をしようとする。階段の上から、彼女を見下ろすようにして。
「ミラリア。君との婚約は破棄させてもら…う、ぐすっ…」
僕は情けないことに、婚約破棄の口上の途中で涙を流して泣き出してしまう。そう。僕はまだミラリアの事が好きなんだ。
「ちょっとウェイン。婚約破棄する側が泣き出すってどういう事?なにがあったの?」
僕に向かってミラリアが、困惑気味に駆け寄る。僕の涙にぬれた碧眼と彼女の意志の強い黒眼が互いを見やる。
「…僕より、エルドレッドのほうが、勇ましくて強いから…。彼も君を慕ってるようだし…」
パシィン!
白いドレス姿のミラリアが右手で、僕の頬をはたく。痛いってば。
「何言ってるのよ。あなたは私を好きなのでしょう?なら、私を惚れさせる位、強くなってみせなさいよ!」
その場には、帯剣した鎧姿のエルドレッドもいたので、彼も僕に歩み寄り、こう語りかけた。
「そうだぜウェイン王子。俺は確かにミラリアが好きだけど、人の婚約者を横から奪うつもりはない。俺が王子を、一人前の剣士に鍛えてミラリアにふさわしい男にしてやるよ。そして王子がミラリアを幸せにするんだ。俺のミラリアへの気持ちはそれでチャラだ」
「ミラリア…エルドレッド…ありがとう。僕は強くなるよ。手伝ってくれるね?」
銀髪に水色の眼をした、エルドレッドはしっかりと頷く。
「もちろんだ。だからさっきからそう言っているだろう。きっちり鍛え上げてやるから安心しな」
長い黒髪に、優しくも意思の強そうな黒眼のミラリアも続くように僕を激励する。
「私も期待しているわ。ウェイン。頑張ってね」
パチパチパチパチ…。
それを見ていた、貴族諸侯達も、拍手をしながら僕に対して声援を送る。
「頑張れ、殿下!」
「負けるな、ウェイン王子!」
僕はまたも涙を流した。今度のは嬉し涙だ。
…僕は何もできないヘタレ王子だけど「本当の味方」だけはたくさん持っているようだ。
そして、僕は皆の応援で奮起して、エルドレッドの指導の元、心身を鍛えるべく、剣の修行に打ち込んだ。
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そして、それから三年が過ぎて…。
キィン!キィン!キン!キン!カキィン!
粗い造りの練武場での激しい剣の打ち合いで、僕はエルドレッドの剣を弾き飛ばした。綺麗な一本勝ちである。
「よく頑張ったな。ウェイン王子。これで王子もこの王国で5指に入る立派な剣士だ」
厳しい修行の成果で、騎士エルドレッドに認められた僕は、この国でもやりての剣士になった。
伯爵令嬢のミラリアもこの頃には、僕の成長を認め、僕たちは晴れて相思相愛になっている。
「ミラリア。僕は強くなったよ。僕のこの気持ち、受け取ってくれるかい?」
「もちろんよ。嬉しいわウェイン。さあ、愛のある誓いのキスと行きましょうか」
煌びやかなレスター王国の宮廷に敷かれた赤いカーペットの上で、僕、王子ウェインと伯爵令嬢ミラリアは華麗に口づけをする。それを見るエルドレッドも満足そうだ。
貴族諸侯達も祝福の拍手と声援を送り、父王もこれを祝う宴を開き、宮廷は賑やかにして、和やかにな雰囲気に包まれた。
これで全てはハッピーエンド。レスター王国の宮廷は、今日も平和で明るかった。
(了)
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