平凡で特別な日常はいつもここから
大塚信乃
第1話 兄妹の日常はいつも暖かい
【プロローグ】
天の川銀河・太陽系第三惑星地球。
その星は、普通に見えて少し違う。元々は人間という生き物が、支配していた星のはずだった。
しかし、ある日を境に、人間とは別の存在が次々に現れていく。
人ならざるもの達・怪異が、人の目の前に姿を現したことが始まり。
人間たちは、最初の内は彼らを恐れ、警戒し、毛嫌いして遠ざけたが
いつの間にか、共存し、怪異を受け入れる。
そして現在、西暦202X年
2つの存在は互いに助け合い、共存して行くことが当たり前になった現代社会。彼らの技術進歩は続いていく___。
ここはとある刑務所。
世界で収容されたら終わりと恐れられている三大刑務所の1つ。長谷原刑務所。今日も囚人達を、監視、管理して、釈放、刑罰を下す。
「書類が多すぎて潰されそう。」
そう執務室でぼやくのは、この刑務所の副看守長 藤伊来夏 である。
「そもそも、部下の仕事をなんで私がやらなきゃいけないのよ。私の今日のノルマ終わってるのに。」
「副看守長は、部下の仕事をやる役職じゃないっての。」
と、私は文句を垂れつつ、ペンを動かし順調に仕事を片付けていく。
コンコン。
扉が叩かれた音がした。
「ん、どうぞ〜。」
扉が開き、入ってきたのは目を合わせただけで凍りつきそうな目つき。
真っ白なショートヘアに、ピシッと看守服を着用し、規律に厳しく、刑務所内で最も恐れられることで有名だ。
そんな彼がこの刑務所の看守長で、私の兄で上司の 藤伊 来冬である。
「あ、看守長。お疲れ様です〜。」
「あぁ、お疲れ」
「どうしたんですか?こんな夜遅くに。私、まだ書類作成終わってなくて。」
看守長の眉が少し上につり上がり
「おかしいだろ、今日の提出書類は先程確認したぞ?」
「そうなんですが、先程部下が、急ぎの仕事と言い私に預けてきたんですよ。」
そういうと、私は、彼に書類の束を1つ渡す。
「どう見ても急ぎの仕事じゃないと思うんですけどね、アハハ。」
と苦笑いをしながら、彼の顔を伺う。
どう見ても怒っており、顔が看守帽の影で隠れていたとしても私には
ひと目でわかる。
「副看守長」
「なんです?」
「これを、渡してきたのは誰だ?」
「えーっと、確か、主任看守の武内。それから、看守部長の多野ですね。」
伝えた瞬間に、看守長の口からため息がひとつ。
「あいつら、どうせろくな業務もしてないくせに。他人に、しかも、上司である副看守長に、仕事を押し付けるとは。」
あ、これ、めっちゃ怒ってるな。
殺意が凄くて空気が重い。
「まぁまぁ、大丈夫ですよ。昔からこういうの慣れてますし。」
「あ、あと看守長。私、いいこと知ってるんですよ。少し耳をこちらに」
と言い私は、彼の耳元で囁く。
「主任看守と看守部長が、上層部から多額の賄賂を受け取っているとか。この間、所長がこっそり教えて下さいましてね?」
と、主任看守と看守部長の秘密を暴露した。 日頃の恨みを晴らすのにはちょうどいい機会だと確信したから。
彼が、滅多に見せない"笑顔"
しかも、殺意や圧が強まったのが一瞬で感じられるのは長年の経験からだろう。
「そうか、そうか。なるほどな、情報提供感謝するよ。副看守長?」
「いえ、お役に立てて何よりです。看守長?」
と、私は微笑みながら、軽く敬礼する。
「まぁいい。とにかく、その書類はこちらで預かることにする。」
「と言っても、流石だな。副看守長。もう終わってるのか。」
「まぁ、元の担当は違えど、業務に支障をきたすことはしたくないので。終わらせておきました。」
そもそも、私に来てる時点でおかしいことなのだが、まぁ今回は、大目に見よう。
「この書類は後日確認しておく。」
「あ、そうだ。副看守長」
「どうしました?看守長?」
と尋ねたら、彼が耳元で、「荷物をまとめたら出口で待っている。」と耳打ちしてきたので
「了解」と軽く返事をした後、看守長が部屋を出て、私は素早く退勤の準備を済ませていく。
「もう、素直じゃないんだから、うちの兄貴は。」
と少し笑いながらも、執務室を出て刑務所の出口に歩く。
「副看守長、お疲れ様です。」
「うん、お疲れ様〜。」
部下の看守と少し挨拶を交わしたあと、やっと彼が待っている出口に着いた。
合流して刑務所から出たら、私と彼は上司、部下の関係ではなく、兄妹の関係に戻る。
「んんーっ、疲れた〜。デスクワークは中々に辛い」
「まぁ、あの仕事の量じゃ、到底巡回など行けなかっただろうな」
「兄貴が、巡回代わってくれて助かったわ 。ありがと」
「…別に、礼を言われることでは無い」
と、そっぽを向く兄
「(素直じゃないな〜、うちの兄貴は)」
昔からこうなのは知っているので、今では可愛く見えるのは妹の私だけ。
「今日ご飯なににする?」
「そうだな、久しぶりに、来夏のうどんが食いたいな。」
「うどん!じゃあ帰りにうどんの材料買って、好きな具入れよっか」
「麺、まさか1から作るのか?」
と少し驚いた表情で聞く兄。
「まぁ、すぐ出来るから安心しな。兄貴もやる?結構楽しいよ?」
多分乗ってこないだろうと思いつつ聞いてみることに。
「そうだな。1回体験はしてみたいもんだ」
「え、珍し。兄貴が乗ってくるなんて。」
「俺だって、興味のひとつやふたつはある」
「じゃあ、買い物さっさと終わらせて作ろっか。楽しみだな〜、兄貴と久しぶりの共同作業」
と言ったあと、隣から笑い声が聞こえ、見てみると兄が笑ってて
「ねぇ〜、なんで笑ってるのさ。そんな面白いこと言った?」
と私は不貞腐れながら頬を膨らましてそっぽ向く。
「いやぁ、悪い。お前が可愛く言うからつい」
私は、つい顔を赤く染める。
「兄貴のバカ。平気でそういうこと言う。」
と言っても、兄は笑っていた。
怒ってる私を見ながら。
第2話に続く
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