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普段は甘く、無邪気で、子供のような無邪気さを見せるが、一度でも興味を惹かれるもの、特にそれに対して深く考えている時は、極めて合理的かつ理知的である。

所謂、ゾーンに入ると普段取り繕っているものさえ不要と判断し、容赦なく切り捨ててしまう。余りにも傲慢で、あまりにも気位の高い、才だった。


「本当に美しい、なんの争いもない世界は、様相論理のS5の世界。全ての言葉に反論はなく、バグはない、数学の世界。

人間はバグが多い。容易く間違える。神がそうお創りになったから。だからエデンの林檎に手を伸ばし、追放された。

けれどもその事に気づく人間は、果たしてどれだけいるの? バラつきを産んでいる時点で、争いは耐えない。常に何処かで欠陥塗れの諍いが起きる」

ギラギラとした双眸。蘭々と輝く瞳孔。其れは猫や蛇の目の様に縦に鋭く、そして全てを排するように、容赦がなかった。

ゾーンに入っているのである。だから無駄な事は一切しないし、人が持つ優しささえ不要として暴言を連ねる。品位が分からないのは機械と同じ。つまりAIに成り果てた挙動であった。

俺はそろりと鏡花の頬を撫でる。人を論理で殺す目が此方に向かった。

「戻って来い。今すぐに」

今の鏡花が危険なのは言うまでもない。通常時の温情さえ不要と断定してしまっているので、殺戮人形の様な冷徹さだけがそこにある。

彼奴の思考は元々AIに近く、だからこそ常に完璧を求めいる。だが其れは感情のないAIだからこそ出来る芸当であり、人間がやる様なものではない。

「着いてこれ無いやつは、その場で見捨てていけば良いんだよ。自然界に順応してしまえば良い」

「お前は人間のはずだ。獣でも、AIでもない。そして今、お前は人間に必要な敬意や品位さえも不要と断定している。獣やAIに近い動きになっている。

戻ってこい。安心しろ。不条理に溺れて苦しみ続けているとは、お前だけじゃない。俺も、諭羅もそうだ」

猫の様な縦長の瞳孔から一転し、通常時の丸いものへと変化した。つまりゾーンから抜け出して、通常時の鏡花へと返って来たのである。

「良くないね。AIと獣を同列に語るなんて。でも……本能的なところで稼働しているから、そうなのかも」

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