第7話 当人不在で始まるコラボ

第一章

当人不在で始まるコラボ


異変に気づいたのは、

俺の配信が終わった直後だった。


おすすめ欄に、

とんでもないサムネが並んでいる。


「レンタル超能力大学生を語る【コラボ考察】」


「偶然か?演出か?複数視点で検証」


「“あの現象”を同時検証する」


出演者:


ロジカル眼鏡


データ厨パンダ


中堅考察系A


中堅考察系B


……俺、いない。


「いや呼べよ」


第二章

疑っている人たちのテンションが一番高い


彼らのコラボ配信は、

やたらと穏やかに始まった。


「今日は感情抜きで行きましょう」

「断定はしません」

「可能性の話だけです」


コメント欄:


来た

メンツ強すぎ

これは決着


俺は別端末で、

そっと視聴していた。


彼らは真面目だ。

真面目すぎる。


時系列を揃える


当たりの種類を分類


“外し方”にタグを付ける


俺の「うどんを啜る未来視」が、

真顔で分析されている。


「これは“安全圏の予測”ですね」


やめてくれ。


第三章

方向性はバラバラ、結論は同じ


面白いことに、

彼らは全然意見が一致していない。


ロジカル眼鏡:

「演出説が一番現実的」


データ厨パンダ:

「演出なら再現性が低すぎる」


中堅A:

「偶然だけで片付けるのは無理がある」


中堅B:

「でも超能力はありえない」


つまり。


誰も分からない。


コメント欄が一番正直だった。


結局分からん

でも面白い

本人呼べ


その瞬間、

全員が一瞬黙った。


第四章

主人公、呼ばれそうになる


「……一度、

本人と話す必要があるかもしれませんね」


ロジカル眼鏡が言った。


心臓が跳ねる。


「公開で呼ぶのは、

リスクが高いですが」


データ厨パンダが続ける。


「DMで、

軽く雑談程度なら……」


やめろ。

雑談が一番怖い。


コメント欄が盛り上がる。


直接対決来る?

逃げるな

これは神回


そのとき。


俺の自販機が反応した。


第五章

自販機の“予測”が外れる


表示:


観測者同士の干渉:進行中

次のイベント:

公開接触(確率68%)


「高すぎだろ」


俺は、

先手を打つことにした。


第六章

主人公のカウンターコメディ


その日の深夜。


俺は突然、

緊急配信を始めた。


タイトル:


――

「考察されすぎて怖いので

普通に雑談します」


内容:


大学の単位の愚痴


学食の値上げ


洗濯機が壊れかけてる話


一切、能力を使わない。


コメント欄:


急に人間

これはこれで好き

平和回


そして、

あの考察コラボ配信者たちも

全員、黙って見に来ていた。


誰もコメントしない。

スパチャも飛ばない。


ただ、

“観ている”。


最終章

会議は続く。だが主導権は――


翌日。


考察系コラボの続編配信。


「昨日の配信、見ました?」


全員、頷く。


「……正直、

よく分からなくなりました」


「超能力者にしては、

生活感が強すぎる」


「でも、

あれが演技なら

逆にすごい」


結論は出なかった。


だが一つだけ、

彼らの中で共有された。


――

「軽々しく踏み込む相手じゃない」


俺はそれを、

切り抜き経由で知った。


自販機の表示が、

静かに変わる。


干渉フェーズ:安定

次のリスク:

視聴者側の過剰参加


「……今度は視聴者かよ」


俺は苦笑する。


疑っている配信者同士は、

コラボしても答えを出せなかった。


だが、

彼らが集まった事実そのものが、

俺の“異常さ”を

さらに広めてしまった。


それでも。


俺は、

次の配信タイトルを入力する。


――

「超能力を使わずに

どこまで疑われるか検証」


コメント欄は、

きっとまた笑う。


だが、

“会議”はもう、

配信者だけのものじゃない。


どこかで、

次の観測者たちが、

参加する準備を始めている。


自動販売機は、

今日も黙って立っていた。


まるで、

この群像劇そのものを

楽しんでいるかのように。

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