【悲報】人類管理の『神様』、ただの旧式システムでした。〜地下監獄の底辺炭鉱夫だった私、うっかり空を掘り抜いて『管理者権限』を強奪したので、封印美少女と一緒にクソ運営を物理BANします〜

弦本スージー

第1話 底辺炭鉱夫、うっかり『空』を掘り抜く

「掘れ、728番!」


私は歯を食いしばり、ドリルを突き立てる。 ガガガガッ!


刃が骨みたいな岩を噛み、


腕が痺れて、指がほどけそうになる。 バキィン。


岩盤が割れた。 その奥から、風が来た。


生ぬるい地下の空気じゃない。


冷たい、匂いのない風。 「……は?」 裂け目の向こうは、青かった。


ランプの光じゃない。


目が、勝手に明るさを拾っていく。 天井じゃない。


果てがない。


星みたいな光が、そこに沈んでいる。 ――空?


母の声が頭で鳴る。


『見上げるな』


次の言葉が、思い出せない。 脳が、真っ白になった。


「コツ、コツ……」


背後で靴音が増える。 「728番! 止まれ!」


監督官の声が、喉元に刺さった。


「……壁が光ってるぞ。何を隠した」


鉄棒が床を叩く。 見つかった穴は、即処刑。


逃げ場はない。


あるのは、目の前の“空”だけ。 私は息を飲み、


裂け目へ身体をねじ込んだ。 ズルッ――ドン!


冷たい石の広間に転がる。


遠くで「待て!」が反響した。 祭壇の台に、ひとり。


黒い目隠し。


金具の口枷。


首輪から伸びる鎖が、


腕も脚も、壁の輪へ結ばれている。


鎖は石に食い込み、最初からそこに“生えて”いた。 女は動かない。


なのに私は、目を離せなかった。


穴から監督官が這い出てきた。


「――見上げたな。死刑だ」


鉄棒が、頭上で唸る。 考える暇はない。


私はピッケルを振り下ろし、


彼女の鎖を叩いた。 **カン――**じゃない。


「ピロン♪」 視界に、文字が滲む。


【警告:封印の一部が損傷】


【警告:掟の整合性が崩壊】 鎖が四角い欠片になって、


霧みたいにほどけていく。 女の指が動き、


口枷の金具が外れた。


次に、黒い目隠し。 「……世界を、壊したい?」


その声で、背後の鉄棒が止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る