第3話 優しさから
「...という訳なんです」
シモから聞かされた話に驚きを隠せないフウト
わざわざ淹れたホットミルクの存在も忘れるぐらいにわかには信じ難い話だったからだ。
「僕が上級職のスキル?オマケにかってに建築?」
口に出した所で余計意味が分からない。
シモはハーブティーをスプーンで少し混ぜてから1口飲み、こう続けた。
「私たちのパーティーは今、後衛が不在でして、ちょうど求人をだそうと宿屋を出て向かっていると、偶然あなたに出会したという訳なんですよ。」
限りなく?が浮かんでいる頭の中をフル回転させて一旦状況を整理する。
「つまり僕は、村人だけど上級スキルが使えて、そのスキルを活かして君のパーティーに入って欲しいと?」
「...そういうことです」
「決して悪い話ではないと思うのですが、
どうですか?」
勧誘を迫られ、もう一度考えてみる。
僕の本職は勇者だった、だが15年間ステータスが変わらなくて村人に変えた途端にこれ?
ふざけるにも程があるな。
もし仮に全て正しかったとして、なぜこうなった?それもまた調べなければならない。
自分は本職が勇者なのに、剣技も上達しなければ頼れる仲間もいなかった。
だから目の前にいるシモの事も本当は憎くてたまらない。仲間がいることが。
でも、
目の前に困っている人がいれば助ける、それが勇者ってもんじゃないのか?
(今は村人だけど)
自問自答を繰り返して結論を出す。
「僕なんかでいいなら」
と、覚悟を決めて宿屋に着いたら。
「ガル様のパーティーは既に宿を出られております」
一番に驚いたのはもちろんシモだ。
性格も性格だが一応それでも彼女のパーティーだった。
裏切られた事は辛いに決まってる。
シモはその場に泣き崩れ、先程から
「なんで、なんで..」
と泣きながら言っている。
「な、なあ」
見てるだけは心に来るものがある、耐えられなくなって話しかける。
「あ、ご..ごめんなさい」
袖で涙を拭き、そう言う。
「無駄足、でしたよね。お手を煩わせてしまって申し訳ありません」
「....」
こういう時はなんて返せばいいのだろうか。仲間がいなかった弊害でさっぱりだ。
でもそれなら自分に出来ることをするまで。
「冒険は好きか?」
「え?」
「自分は勇者ランクこそFだったものの冒険は楽しかった。見た事の無いものや可愛い幻魔。沢山見てきた」
冒険が楽しかったのは紛れもない事実。
単に訓練しているだけだったら15年も続けていないだろう。
「シモ、、は好きか?冒険は」
手を差し出す。
少しの間。
冷えた風を受け、どんどん冷たくなっていく手は、力強い握り返された相手の手で暖かくなる
「はい!」
今さら言うのもなんだが、シモは年下だ。
恐らく。どうしても偉そうになってしまうが仕方ない。
握られた手からは熱意が伝わる。
楽しさ、ワクワク、高揚。
何と例えても差支えのない感情を受け取った。
僕はそれに応えるだけ。簡単な話。
「じゃあ僕とパーティーを組まない?」
「え?」
「ああ嫌ならいいんだよ!嫌なら!」
強制してるようだったので流れを止める。
だけど、シモは力強く首を横に振って
こう言った。
「いいえ...よろしくお願いします!」
新たなパーティー誕生の瞬間がそこにはあった
_____________________
「じゃあまず、パーティー登録に行きましょう!フウトさん!」
「え?あ、ああ」
パーティーを組んだことが無かったのでそんな事は初耳だが、適当に流しておけばバレないだろう。
「あ、そういえばフウトさんは、ずっとソロでしたね。ごめんなさい」
「っ!...」
そんなことも無かった。胸が痛いな。
"元"ガルのパーティーメンバーだったこともあり、シモのことを知ってる人は多い。
だからこそ悪い噂で有名な自分がいるこの異色な2人に、道行く人は思わず2度見していた。
パーティー登録はギルドで行える。もう二度と縁がないと思っていたところだ。
「...あ、そういえば大切な事を忘れていた」
「なんですか?」
「僕は村人だから、報酬は貰えないんだ」
「え?」
この国では、冒険クエストで報酬が貰えるのだが、それは中級職と上級職のみ。
一般職は仕事で稼げるから。との事らしい。
「じゃあ、どうするんですか!!」
前を歩いていたシモがバッと振り返り、聞いてくる。
「報酬は全部、シモが貰ってくれ。仮にこの先新しいメンバーが増えるとしてもそれはみんなで分けてくれたら良い」
「でも..そうしたら...」
そう、僕の収入源が無い。ということだろう。
だが、策はちゃんとある。
「その代わり、僕の家に同居してもらおう」
「へ?」
初めて聞く間抜けすぎる声だった。
「同じパーティーメンバーだし、お金もご飯とかのために使えば、僕のためにもなる。
正直、僕はご飯が食べられればそれでいいからさ。ちょうど宿もないし、どうかな?」
「男の、人の、家...」
抵抗するのも無理はない。宿屋と家ではまあ違うことも多々ある。
それに、シモは女性だから思うところもあるだろう。
だが、背に腹はかえられぬ。シモからしたらそんな状況だ。
「わ、わかりました..、フウトさんは策士ですね」
予想通りの承諾。
「ごめん、じゃあよろしくー」
「はい、わかりました」
そうこうしてるうちに、ギルドについて受付に行く。
「パーティー登録お願いします!」
「わかりました、名前をお伺いします.ᐟ」
「シモです!」
「フウトだ」
「メンバー求人は何人まで出されますか?」
目で訴えてくるシモ。
「...何人でもいいです、集まったら打ち切りに来ます」
「はい!じゃあ最後に測定しますね!」
測定によって、パーティーランクが決まる。
高ければ高いほど高難易度のクエストが受注できる。
ちなみに僕は村人なので測定はするが換算はされない。
なので、シモ単体の測定値がパーティーランクになる。
『測定:シモ』
『ステータス確認:魔道士』
『ランクB』
『スキル:光檻(ライトヘル)闇引(ウェルダーク)』
魔道士の沢山あるスキルの中で最初のふたつだけ聞いたところどうやらシモは光、闇、の両方を扱えるらしい。ランクもBに上がっている。
『能力値は以下の通りです』
そういうと目の前にシモのステータスが表示される。
『攻撃 12万 魔力60万 防御 42万 素早さ 50万』
『ステータスレベル:106』
流石と言ったところか。魔道士として申し分ない魔力に、高い素早さ。そして100を超えるステータスレベル。
パーティーランクはCとなった。シモ一人で十分すぎる結果だ。
「フウト様はどうされますか?」
「あ、いや僕は...」
「受けます!」
何故かシモに答えられた。やれ!と言わんばかりの圧を感じる。
「はい、じゃあ確認しますね」
『測定:フウト』
『ステータス確認:農民』
『ランク -』
『スキル:増殖、剛力、毒耐性、』
「ほらな、何にも変わって...」
『スキル:鉄壁防御、炎球連射、貫通反射、魔道具召喚(ラファエル(天使)武具)、自動攻撃、自動回避...』
「え?」
既に20個、いやそれ以上スキルを言い続けているが、止まる気配がない。しかもスキルは大半が上級スキル。
「「....」」」」
その場にいた誰もが魂が抜けたような顔をしてこちらを見ている。自分もその1人。
そして、
トドメを刺すようにやってくるまたもや信じられない表示。
『攻撃 9999万 魔力9999万 防御9999万 素早さ9999万』
『ステータスレベル9999』
もはや冗談の域ではない。
さて、どうしようか。
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