勇者諦めて村人になったら最強になった件

みゐ

第1話 最弱の勇者

ステノア王国。初代勇者パーティーが幻魔の頂点である魔王を封印し、その地が栄えて出来た国だ。

この国にはギルドというものがあり所属することによって幻魔を討伐するクエストを受けることが可能だ。

職業は生まれた時に鑑定され、変えることもできるには出来るが、本職であることに間違いはない。

そんな職業鑑定で、自分は幸運なことに上級職である勇者に選ばれたのだが...。


「これ合ってるんですか!?」


思わず荒らげてしまった声がギルド本館に響く。


「はい、フウト様のステータスは前回と変化しておりません。冒険者ランクはFのままです」


淡々と述べられるマニュアル通りの言葉、だが絶望であることに変わりはない。


なぜならフウト15歳、生まれてから一度もステータスが上がっておりません!


「ほんとに間違いじゃないんですよね!!」

「っるせーなー」


いつもの事だが何回も聞き返していると待機列から大柄の男が出てきた。

そのたくましい体つきと背中に担いでいる大剣ステラを持っているのは、巷では有名な勇者ランクBのガルだ。


「ちんたらちんたらやってても貴様のランクはF、変わらねえのはわかるよな?」

「はい、すいません」


もちろん僕がこんな相手にかなうわけも無く、今日は虚しく退所した。

ちなみに勇者ランクとは、職業勇者の強さを示す階級だ。ランクはFからSSまであり、C以上あればまあまあ強い方だ。初代勇者はSSだったらしい。


自分は職が勇者であったこともあり、12歳の時に故郷エルノサを離れここに来た。だが、勇者ランクがFのままなので稼ぎも十分じゃなく、貧相な生活を送っている。


「ここ最近じゃ、安全に暮らしている村人の方が裕福そうだな」


そんな独り言を呟いてふと考える。


(このまま勇者を続けるより村人の方がいいのでは??)


決め事は早い方だ。善は急げと言うしね。早速職業変更手続きを受けに来た。


「おっまた負け犬が来たぞー」


仲間と共に嘲笑するガル。今日でこんな生活とはおさらばだ。


「すいません、職業変更手続きを村人でお願いできませんか?」


「村人、ですか」


受付さんが少し考えてから続ける。


「失礼かもしれませんが、フウト様は勇者ランクFながらも勇者であります、それを本当に村人に変えてもよろしいのですか?」

「大丈夫です」

間髪開けずに言った。もうとっくに覚悟は決まっている


「左様でございますか、ではこちらの契約書にサインを」


渡されたペンでステノア文字を書く。


「今までありがとうございました。こちらは勇者ランクFの方の退職金でございます、またのご利用お待ちしております」


律儀な挨拶をして頂き、こちらも軽くお辞儀をしてギルドをでる。


「とりあえずステータスを確認するか」


『ステータス確認:農民』

『攻撃9魔力9防御9素早さ9』

『スキル:増殖、毒耐性、剛力..ズズズズ』


「まあ一旦はこんなもんか、なんか調子悪いし置いておこうかな」


そういってステータス画面を閉じ自分の家に戻る、、?なんだか騒がしいな。


「幻魔だ!幻魔がでた!」

「みんな逃げろー!!」


なんと自分の家周辺に幻魔が出たらしい、

でも荷物取りに帰りたいな。

まあさっさと行けば問題ないはず。


バッと家に帰って身支度を済ませ、大事なもの1式揃えて外に出た...が


「ヴォォォォォォォ」


目の前に幻魔がいる....

ああ良い人生だったな。


もう戦うことは出来ない。身を捧げて幻魔が振りかぶってきた刹那..


『スキル発動:鉄壁防御、貫通反射、自動回避

魔道具召喚:天の大鎌、自動攻撃』


わけの分からない詠唱が耳元で聞こえる。

誰かが助けに来てくれたのだろうか。


怖くて目をつぶっていたが、騒音が治まったので目を開けてみると..

見るも無惨な姿になった上級幻魔のエルドラゴンが。


そして鳴り響くステータス上昇の機械音

『スキル無詠唱爆撃、炎球連射を取得しました』

『ステータスが1000万増加、経験値を2000万獲得しました』

『エルドラゴンの毛皮、牙を入手しました』


「最近の勇者、凄いな。強すぎないか?」


その場に立ち尽くしていると少しずつ消えゆくエルドラゴンの残骸。

一番近くに居たから入手したと思われる毛皮と牙が自分の持ち物に入っている。


「今夜はご馳走だー!!」


家は見るも無惨な姿になったが、目の前の事が先だ。

売りに行けば大層なお金になる。

誰が倒してくれたか分からないけどお金になるものの話は別、早速鑑定所へ足を弾ませた。



「ほう、あいつが..。」


低く、どっしりとした声が響く。


「どうしますか魔王様」

「すぐに行かんでもいい、様子見だな」

「かしこまりました、失礼します」


「面白いじゃないか、フウト君」


禍々しい雰囲気に包まれた新たな魔王城、封印されているはずの魔王の姿がそこにはあった。


そしてまだ腰が抜けている人がここに1人、村人がうずくまっている時の瞬く間に、召喚魔法陣が無数に現れエルドラゴンが討伐されている所を終始見ていた、勇者ガルパーティの魔道士シモがいた。


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