叫べ!


 ぐるぐる思考を止める方法はいくつかあるだろうが、そのうちの一つが『思考ごと止める』ことだと私は考えた。


 これがなかなか難しい。そもそも私は「ぼ~っとする」ができないタイプだった。自主的な思考をしていないときは脳内に何かしら歌が流れているし、そうでないときは思考が無限に嫌な記憶を回想させたり、何かしらの連想を続けている。


 出来ないからこそ、そこに救いを見出したのかもしれない。


 とはいえ、どうすれば思考が止まるのか。

 瞑想とか? 無理です脳内大合唱です。じゃあ無意味やん。


 いろいろと対策を考えるものの、自分の思考がだいぶ邪魔で上手くいかない。


 そんなある日気づいた。嫌な回想の合間に挟まるくだらん創作的空想(これがたまに創作の肥やしになる)が気づきを与えてくれた。


 その時の妄想の内容はこうだ。

 いい大人のはずのキャラクター達が騒いでいる。それを見ていた一人が呟く。



『都合の悪いことを言われて、両耳を手で塞ぎ「あーあー聴こえない聴こえない」と大声で言い続ける奴、周りからしたらすげぇイラっとするよなぁ』



 という映像を思い浮かべて、思った。自分も耳をふさいで、自分の声を無視できたらと。


 しかし自虐は己の内からわいてくる。耳をふさいでも意味がない。


 思考とはそもそも、延々と黙読をしている状態のようなものだ。

 だったら、思考を別の言葉で塗りつぶせばいいのだ。そうすれば少なくとも、自分を責める自分の言葉を聞かずに済むのでは?


 というわけで、試してみた。


 思考が傾こうとしたとき、脳内で叫ぶのだ。


「あああああああああああああ!!!」と。


 なんなら全力で叫ぶ自分をイメージしてもいい。想像だけで息が切れるほどの全力だ。他に思考する余地がないほど力を振り絞れ。


 これは上手くいくのでは、と思っていた。

 だが、私は一つ見落としていた。それは我がプロジェクトの重大な欠陥だった。



 「あ」だけじゃシンプル過ぎてよそ見余裕。



 まぁ、そりゃそうですよね。

 あたかも歌詞を暗記してる曲を歌うときは同時に別の作業ができるかの如く。これでは思考は止まらない。なんなら「あー」に飽きて早々に叫ぶのやめちゃうもんね。


 つまり叫ぶのは、何かしらの意味ある言葉でなくてはならない。

 文章だと結局は内容が過去に引っ張られちゃうから、単語がいい。


 意識にひっかかり、飽きず、フラッシュバックに結びつかない単語。そしてそれ単体でインパクトを持つ単語。


 そうつまり、下ネタだ。


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