ウツツワギヘ
璃亜里亭 無音@ティオンヌマン
〇物件探し
これは、筆者が知人夫婦から聞いた話を記載するものである。
その知人夫婦、仮にA夫妻とする。A夫妻は二人暮らし、子供を作る予定もない悠々自適な暮らしをしていた。しかし住んでいる1LDKのマンションが手狭に感じてきていた。お互いに多趣味な二人故、お互いの独立した趣味部屋が欲しいと感じていたのである。売れないウェブライターを生業とするワンルーム住まいの筆者からすればなんとも贅沢な悩みであるが、ともあれ、二人は終の棲家足りえるような理想の物件探しを始めたのであった。間取りの関係でいくつか候補はあったものの、立地の問題で今一歩踏み出せないような物件ばかりが目につく中、一軒の中古物件を発見した。
築一年、駅徒歩五分、二階建て3LDK。価格は二,五〇〇万円であった。この条件でこの価格は破格と言っていいだろう。A夫妻はすぐに内見の申し込みを行った。しかし一抹の不安はあった。あまりにも安すぎるのだ。
日本全国区には事故物件と呼ばれる物件が数多く存在しており、とあるデータによると年間数千~数万単位で増え続けているという。 築1年での売却ということは、それだけの事情があったという事だ。
不動産屋には告知義務というものがある。自殺、他殺、事故死と言った心理的瑕疵等がある場合に、買主や借主に伝える義務だ。賃貸契約では三年間、売買契約では無期限となっている。
内見にあたり、夫妻はしつこいくらいに不動産屋に確認を行ったが、この物件は全くそういった事とは縁のない物件であると説明された。もしかしたら当初から販売や賃貸に出すつもりで建築された物件なのかもしれないと思い、いざ内見へと向かった。
東京都杉並区、西武新宿線下井草駅から徒歩五分の閑静な住宅街に存在するその物件は外観からして新しさがにじみ出ていた。鍵を開け玄関に入る。広い玄関は段差も低く使いやすい印象を受けた。入ってすぐ廊下となっており、右手側にトイレや風呂、脱衣所といった水回りが集められている。左側のドアを開けるとリビングダイニングとなっている。十八畳の開放的な空間であり、キッチンは対面式であった。少し変わった点といえば、ダイニングからキッチン側に行く際に簡易なゲートが付いていることだろうか。また二階に通じる階段もリビング内にあり、吹き抜けがある。住み良い生活が自然と想像されるような間取りであった。
二階に上がり部屋を確認する。三部屋があり、一つが大きめで役十畳程度、残り二つは六畳程度の小ぶりな作りとなっていた。しかしウォークインクローゼットがどの部屋にも備え付けられており、使いやすさは高そうだ。大きめの部屋はA夫婦の寝室、他の二つはそれぞれの私室として使えるだろう。
内見を始めるまでは正直疑いの気持ちの方も強かった二人だが、いざ実際に見学してみると当初の不安は吹き飛んでしまった。即決でここにしよう。夫婦の意見は一致した。
その後はとんとん拍子に話が進んだ。二人とも公務員という安定的な職に就いており、銀行の融資審査もすぐに通った。売買契約も無事に終わり、引っ越しの日程も決まった。そんな時、夫人が妙な夢を見たという。
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