第3話『沈黙と緊迫の、学生生活』

入学式は体育館で行われる。真ん中に新入生が通るための大きな通路が空けてあり、その両側には床を覆い尽くさんばかりの椅子がズラリと並べてある。入学式や卒業式でよく見る構図だが、目を奪われるのはその椅子の量だ。

見たところ、縦が20列ほどで横が15列ほど。それが新入生用通路を挟んで両サイドにあるため、席の合計はざっと計算しても600席ほど。


「1学年だけで600人は居るんだ…話の合う人を探す事すら至難の業だったかも、こんだけ人が居ると。」


とは言いつつも、別に多くの人と関わる気はない。穂乃果にとって人間関係とは"狭く深く"するものだ。仲のいい友達が3, 4人出来れば御の字。

鈴葉先生の先導で、指定された席に着席する。隣の席との距離があり得ないくらい近い。都心部で満員電車に押し込まれた時くらい近いが、こんだけ席があるなら仕方ない…と妥協する。

人数が多いため、全員が着席し終わるまでに5分ほどかかった。体育館に静寂が訪れると、前方のステージに人が歩いてくる。


(あれが学園長かな?)


「これから第76期新入生の入学式を開始します。初めに、学園長の桐島 瑞音(きりしま みずね)先生よりお話があります。」


ステージ脇の生徒会らしき生徒が話し終えると、間もなく中央からやや低めの女性の声がする。

彼女は高身長でポニーテールというアニメのお姉さんキャラで居そうな感じの見た目で、校長と言うにはまだ若すぎやしないか、と約600人の誰もが思っただろう。


「皆さん、ご入学おめでとうございます。ネイト養育学園学園長の桐島瑞音です。皆さんは、この学園に様々な思いを抱いて入学したことでしょう。交友を深めるため、理想の自分を求めるため、もしくは…誰よりも強くなるため。様々な思いがあって良いんです。この学園は生徒1人1人の希望を本気で叶えるため、数多くの行事や制度を設けています。」


ここまで聞くと、めちゃくちゃ良待遇に思えるが、次の一言で穂乃果は全てを悟った。いや…最初から分かってはいた。何故なら、この学園が重視するのは…


「"戦闘技術"。知っての通りこの学園は、学園都市エデンの5学園で最も戦闘の授業が多いです。それも偏に、皆さんに『終焉戦争(ティタノマキア)』に勝って帰ってきて貰いたいからです。」


学園都市エデンで行われる最大で最恐のイベントこそ、『終焉戦争(ティタノマキア)』。

エデンの人間で、そのイベントを知らない者はまず居ない。

その起源は、エデンの均衡を守る"とある神"の死期を遠ざけるための祈りの式典。

今では5学園の生徒が入り乱れて戦い、より多くの生徒を殺した学園が勝ちとなるイベントと化している。生徒、ひいては学園全体の実力が試される一大行事だ。


「恐れる必要などありません。皆さんには相応の"特殊能力"が与えられます。更に教員一同、皆さんの実力を戦場で存分に引き出せるような授業をしていきますので、皆さんは憂う事なく充実した青春を楽しんで頂きたいです。」


体育館の温度がこの数秒で一気に10℃くらい下がった気がする。それくらい、彼女の言っていることの意味は重いものだった。要するに…


(死ぬ気で過ごせ、って事だよね。)


比喩ではない。一歩間違えれば本当に死ぬ。そんな環境に身を置きながらの学園生活に恐怖したのか、所々で鼻をすする音も聞こえた。


終わりの挨拶を残して学園長の話は区切りがついたが、一面に重苦しい沈黙が漂っていた。沈黙を打ち破るかのように差し込まれる、初めに聞こえたのと同じ生徒の声。

それが体育館に鳴り響くのを受けながら、ステージ上に上がってくる女子生徒がいる。

彼女こそ、スクールカーストのトップに君臨する女王にして、この学園の生徒会長。





「次に、生徒会長の甘崎 瑠衣(かんざき るい)さんの話があります。甘崎さん、お願いします。」

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