異端な私と、無能な貴女。〜Tales of Eden〜

緋色紡希

第1話『不安と緊張の、入学式』

桜の花びらが舞い散る、4月のある日。

ここ『ネイト養育学園』では、心を躍らせ、新たな舞台へと足を踏み入れた新入生を迎える式典が始まろうとしている。


「多いなぁ…エデン随一の人気校とは聞いてたけど、新入生だけでこんなに居るなんて思わなかった…。」


校門から校舎まで続く、お洒落なレンガで舗装されたメインストリートに広がる人混みの中で、独り言みたく呟く少女。他の生徒と同じ制服を着て、春の暖かな風に茶色いショートヘアが揺れている。

少女の名は「来栖 穂乃果」。今年からネイト養育学園に入学する事になっている。


人見知りで心配性。苦手な事は対人コミュニケーションと外出。趣味は部屋に籠って1人で読書。買い物は基本ネット通販。

陰キャとインドアの混合物を極限まで煮詰めたかのような少女だ。


(いつも通り大人しくしてれば大丈夫だよね?不良に捕まって悪い事させられて退学とか、そんなこと無いよね?でも、人数が多い分悪い人も多いって聞くし…。知らない人に話しかけられたらどう答えれば良いんだろう?聞かれた事すら上手く答えられなくて周りから入学早々変人とかされないよね…?)


幸いなことに彼女は頭が良い。中等学校でも、定期テストでは学年順位で約300人中3位より下に落ちた事が無いし、受験期に受けさせられた模試でも、大体A〜B判定に収まっていた。

学力と"戦闘技術"を重視するネイト養育学園において、彼女は余程の事がない限り退学は無いはずだが、それでもこのビビりよう。


「うぅ…こんな不安になるなら、別の所にすれば良かったかも…。」


大勢の新入生たちが固まって校舎の方へ移動する中、1人立ち止まっていた穂乃果に…背後から誰かがぶつかってくる。


「きゃっ…!」

「ごめん、大丈夫だった!?」


穂乃果とは対照的な明るい声で穂乃果に声をかけるのは…淡い緑のロングヘアーをした、穂乃果より二回りほど背の高い少女。エメラルドの様に鮮やかな緑の瞳が、逆光でもよく目立つ。


「あ…えっと、その…」

「どっか痛めた?怪我とか、してない?擦りむいたりとか…大丈夫?」


めちゃくちゃ心配してくれる。不良生徒も多いという事前情報のせいで勘違いしていたが、普通に良い人もいるのだ。当然の事ではあるが。

しかし、穂乃果にとってそれは一縷の希望でもあった。こうして相手からひっきりなしに話しかけてくれる方が、穂乃果の方から会話を始めるチャンスが多くなるから。


「え、えっと…大、丈夫…です…」

「良かった…。周りに人多いから、気を付けてね?」


そう言って、目の前の少女は穂乃果を見つめながら立ち上がる。


「じゃあね!お互い楽しもうね!」


そう言って人混みの中に飲まれる彼女に…穂乃果の心は、しばらく惹きつけられたままだった。


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