姫人魚すくい

キカイ工

第1話『人魚の子』

 『人魚の子』

 岩場に腰をおろし素足を波に遊ばせる。

 少し離れたところで人魚が歌をうたう。穏やかな波音を伴奏にして、柔らかく澄んだ歌声が響き渡る。この優しく美しい歌声に、本当に船を沈める力があるのだろうか。

 うたい終えた人魚に声をかけた。

「あなたは僕のお母さんではありませんか」

 人魚は腰かけていた岩の上から滑るように波間に消えると僕に近づいてきて足をひとつ、そっと撫でた。水面から顔を出した人魚が首を振ると悲しげに僕に微笑みかけて沖へと去っていった。

 もうすぐ日が沈む。

 ゆっくりと立ち上がる。さっき人魚が触れた僕の細く萎えた足に、そっと触れてみる。まだらに肌を覆う鱗が夕日を浴びてキラキラとオレンジ色に輝く。

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