第16話
翌日、学校に行くと、俺の教室に蟻須がやってきた。
「横山先輩いますか」
そう言って俺を見つけると、にまりと笑ってやってくる。
「見てください、これ」
そう言って蟻須がスマホを差し出す。俺はスマホを受け取り、画面を覗き込む。
すると、そこには一晩で拡散されたダンス動画があった。
「すごいな、これ」
「でしょ。フォロワーも着実に増えてますし、成功ですね」
まさかここまで上手くいくとは思わなかった。だが、SNSに詳しい蟻須が打った一手だ。この結果は約束されていたものかもしれない。
「この結果、白雪先輩に報告しなくていいんですか」
「……行ってくる」
俺はそう言うと、自分の教室を出て氷織の教室に向かう。氷織は自分の席で朝の準備を始めていた。
俺は氷織の肩を叩くと、興奮気味にスマホの画面を見せる。
「昨日出したダンス動画が伸びてるぞ。めっちゃ拡散されてる」
俺がそう言って氷織にスマホを渡すと、彼女は目を細めた。
「やっぱり私がいないほうが良かったんだ」
「そんなわけないだろ。俺としては氷織もこの動画に一緒に映ってくれたらって思ってるよ」
「お世辞はいい」
「お世辞じゃないんだけどな」
氷織は動画が伸びて嬉しそうではあるが、どこか悲しそうな顔をしている。二つの感情に挟まれてとても複雑そうだ。
「でも、フォロワーが増えたのは嬉しい」
「だな。これで俺たちの活動内容を呟いていける」
そこで校則を改正することなどを呟けば、一気に認知されるだろう。
そうなれば氷織の目的にも大きく近づくことになる。
「氷織、良かったな」
「うん。良かった。これも楓と蟻須ちゃんのおかげ」
「氷織もがんばっただろ」
「私は何もしてない。頑張ったのは楓と蟻須ちゃん」
確かに氷織の言うように、今回の動画には氷織は直接関わってはいない。だが、ダンスの振り付けを練習したり、ちゃんと努力はしていたのだ。だから俺は氷織のそう言う頑張りを評価したい。
「氷織が頑張ってるのはちゃんとわかってる。それに制服のデザインの件に関しては氷織頼みなんだから、まだまだこれから氷織に頼ることは多いんだぞ」
「うん、わかってる」
「本当にわかってるならもう少し嬉しそうな顔をしろよ」
俺は溜め息を吐く。攻略ノートには氷織は基本的にネガティブだと書かれていた。自分を卑下する癖があるとも。その辺は改善していきたいところだと書かれていた。未来の氷織の願いでもあるのだろう。
「氷織、俺は見てるからな」
「楓……」
「俺は氷織が頑張ってるところ、ちゃんと見てる。裏でものすごく頑張ってるのを俺は知ってる。だから、あんまり自分を卑下するな」
「ごめん……」
氷織自信、自覚があるのだろう。俺の指摘に図星というような顔をした。
「それに俺は氷織のことが好きなんだ。もっと自信もっていいんだぞ」
「あんまり学校で好きとか言わないで」
「嫌だね。俺は自分の気持ちを伝えるって決めたんだ。俺は氷織が好きだし、そのことはいつだって伝えるよ」
「うう……」
氷織の頬が赤く染まる。照れているのだ。最近はだんだん氷織の感情が読めるようになってきた。氷織も時々俺のことを好きだと言ってくれるようになってきたし、順調に前へ進んでいると言えよう。
「楓が口が上手いのは、知ってるけど」
氷織は少し唇を尖らせながら言う。
「でも、好きは大切な時に言ってほしい。なんだか言葉が軽く感じちゃう」
確かに氷織の言い分にも一理ある。言葉を重ねることで、言葉が軽くなるというのは理解できる。だが、俺は愛情を伝える言葉だけは別だと思っている。
「好きって気持ちは感じた時に伝えた方がいいと俺は思っている。それで相手は安心できるし、俺だってそうだ」
「楓もそうなの?」
「ああ。俺も氷織から好きって言われたらすっごく舞い上がるし、踊り出す自信がある」
「そこまで」
「氷織はどうだ。俺に好きと言われて嫌な気持ちになったか」
「ならない。なるわけない」
氷織はむっとして反論してきた。
「だろ。好きって気持ちだけは伝えられるときにたくさん伝えておくのがいいんだ」
「楓って私が初めての彼女なのに妙に女慣れしてるね。もしかして浮気してる?」
氷織がジト目で見つめてくる。
「何馬鹿なこと言ってるんだ。俺は氷織以外の女の子は眼中にないぞ」
「嘘。蟻須ちゃんに鼻の下伸ばしてた」
「ダウト。俺は蟻須が苦手だ」
「でも、可愛いとは思ったでしょ」
「そりゃな。あいつは客観的に見て可愛いだろ」
「ほら」
「何がほらなんだ」
俺は溜め息を吐くと、苦笑する。氷織の中では俺はとんだ女たらしのようだ。
「俺は氷織が信じられるまで何度だって愛を囁くよ。それこそ、氷織の顔がゆでだこになるぐらいな」
「学校ではやめて。恥ずかしいから」
とはいえ、氷織に言うように学校では控えた方が良さそうだ。氷織の精神衛生上よくないというのもあるしな。俺が氷織に好きだと伝えるのは二人きりの時に限ったほうがいいだろう。
チャイムが鳴り、俺は氷織に別れを告げ、自分の教室へと戻る。既に蟻須の姿はなかった。俺は自分の席につきながら、放課後のことを考えていた。
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