悪役令嬢はわたしの大事なともだちだった

ariya jun

 私は、川本みや。

 ごく普通の女子中学生だった。


「ねぇねぇ、けいちゃん。前すすめた奴読んだ?」

「『私のプリンセス物語』でしょ。面白かったよ」

「よねぇ。私の推しは断然アントワーヌ。格好いいよね」

「んー……私はヒロインのお母さんが好きで」


 登校中のたわいもない会話。私がこの前読んでからはまったネット小説の感想会だった。

 学校の授業はだるい。早く終わって友達と楽しい会話を弾ませたい。

 そう思っていたのに。


 横断歩道を渡る時に猛スピードで突進してくる車が私たちの方へ激突してしまった。


 事故現場を目撃していた周囲は騒然として、サラリーマンのおじさんがスマホで救急車を呼んでいた。


 こうして私はあっけなく最期を迎えた。


 そして、私は転生していた。

 今おおはまりの『私のプリンセス物語』の主人公・マリーに。


「ど、どういうこと?」


 これって、ネット小説ではやっている異世界転生ものでしょう。


「何でマリーなのっ……! いや、嬉しいけど」


 最近流行しているのは物語の悪役に転生してしまい、物語を大幅改変してしまうというもの。

 この流行パターンで行くと私は悪役令嬢に転生しているはずでは。


 いえいえ、嬉しいですよ。

 主人公のマリーで。

 物語の展開通りにいけば私は推しのアントワーヌ王子と結ばれるのでは。


「ちょっと……やだ、どうしよう」


 きゃあと明るい声でベッドでごろごろしてしまう。


「でも、悪役令嬢転生ものだと私が悪役になっちゃうんじゃ」


 逆に心配になってしまう。

 もしかすると悪役令嬢は私と同じ転生者の可能性がある。

 そうなるとアントワーヌ王子と既に良好な関係になり、私はお邪魔虫になってしまう。いや、それどころか。


「断罪されるのは私なのでは……」


 ぞぞっとする。


「失礼します」


 メイドのコリンナが挨拶をしてくる。


「お嬢様、早く準備しないと遅れてしまいますよ。今日は晴れて国立メルセデス学園に入学となったのです」

「そうなのっ」


 私はガバっと起き上がった。

 どうやら今日が物語スタート地点のようだ。


「亡くなられた旦那様がせめて教育だけはと学費分を残されたのです。しっかりと勉学に励まれてください」


 準備を手伝ってくれるコリンナは今までのマリーの生い立ちを説明してくれる。

 そう。マリーには父親がおらず、母親と一緒に残された屋敷で過ごす男爵家である。領地は豊かではなく、残された遺産でつつましく生活している。

 せめてマリーにまともな教育を、デビュタントだけはと母親は銀行に預けた遺産だけは守り抜きそれでマリーを学園へと送り出してくれる。


 そしてマリーはアントワーヌと出会い、恋に落ち、苦難を乗り越えアントワーヌと結ばれるのだ。


「お母さま、行ってきますね」

「しっかりと勉強しなさい」


 準備を終えて、馬車にのる私を送り出してくれる母親。

 家庭教師の仕事をしながら生計をたててここまでマリーを育ててくれた。

 その苦労も報われるのだ。

 妃となったマリーと一緒に最後は宮殿で幸せに暮らすのだ。

 待っててね。私、頑張るから。


 少しずつだが、マリーの記憶と私の記憶が重なり合ってくる。マリーの過去がまるで自分の過去のように今は感じられる。

 馬車に乗って去っていくマリーを見送りながらマリーの母親は複雑な表情を浮かべた。


「心配だわ。あの子、結局歩き方が上達しなかったから他の女学生から何か言われないかしら」


 歩き方というのは令嬢と作法のことだ。

 本を頭にのせて優雅に歩く練習を何度も教えたが、マリーには全く身につかなかった。

 本当は母親としてつきっきりで教えるべきであるが、生活費に残ってくれている使用人の給与のこともありあちこちで家庭教師の仕事をして家にいることが少なかった。


「大丈夫ですよ。お嬢様が身につかなかったのは必要性を感じていなかったから、他のご令嬢と接しているうちに良い刺激になると思いますよ」

「そう期待したいのだけどねぇ」


 学園には貴族だけではなく平民……貧民と呼ばれる者も特待生として通学している。彼らと間違われて差別されないかという心配もあった。

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