三日目
目を開けると、やはり頭に痛みが残っていた。
カーテンを開けても、今日は彼女の姿がなかった。
向こう側のカーテンが開いていたので覗くと、新聞が一枚吊るされていた。
目を細めて読み取ろうとした、そのとき──
「起きた? 私、ちょっとご飯の受け取りしてた。そうじゃないとあなた、死んじゃいそうだし」
乱れた髪。虚ろな目。寝起きなのだろう。
僕は、新聞のことを記憶の底へ押し込んだ。
「……ああ、ありがとうございます」
「ほら、好きなシチュー」
──なぜ、僕がシチュー好きだと?
囚人が食事を運んでくるのか?
模範囚とはいえ、僕の好物まで知る理由はない。
……まあいい。
記憶の底にしまい込んだ。
「今日は、あまり喋れません。書くことがありますので」
なら、今日報告書を書こう。本部への報告も溜まっている。
そう思い、そっけない返事をして机へ向かった。
書類作成は二時間ほどで終わった。
暇になり、机を探っていると、一冊の日記が出てきた。
内容は──看守に恋する、ある死刑囚の話。
読み物として意外によくできていて、引き込まれていった。
しかし《告白する》と書かれたページを最後に、文章は途切れていた。
後ろの白紙をぱらぱらとめくっていると、その一節が目に入った。
──僕は彼女のすべてに賛成だ。きっと彼女もそうだろう。
卑屈な僕には珍しく、ひどく心を惹かれた。
気づけば外は暗い。
彼女は何かを書いていて、僕はカーテンを閉めた。
思えば今日は一度も、もう一人の“生きる死刑囚”の声がしない。
妙に静かな日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます