第33話 ロヴェナクへ

 

 この世界にも、季節はあるらしい。

 いまは秋口なようで風が少し冷たくなり、木々がオレンジや紫に、まだらに色づいている。


 ちなみに冬は1カ月ほどの長さしかないという。

 寒いのがあまり好きじゃない私にとって、飛び上がりたいくらいの朗報ろうほうだ。



 先日のギルド依頼の報酬で、アイリーと私は戦闘装備を整えた。

 ただ、火魔法用の杖はない。


 街に1つしかない魔法道具の店に行き、杖を選ぼうとはしたけれど、どの杖も合わなかった。にぎったとたん、3回くらい小さく爆発したから、髪が未だにちょっとチリチリしてる。


 杖専門だという、やせ型で年齢不詳ふしょうな店主の見立てでは……。


「アナタは~、杖が必要ないスタイルみたいだねぇ」


 そんなスタイルがあるなんて、知らなかった。


「これ以上、大事な売り物に余計なダメージ与えられたくなくて、適当に理由つけたんじゃ?」


 とアイリーは言っていた。


 ちょっと泣きたくなったところで、思い出した。

 

 リッドさんや冒険ギルドでの鑑定によると大魔法に匹敵ひってきするほど。

 だから、杖が必要ないんだろうと前向きにとらえることにした。



 ここ半月ほどは、料理人のかたわらアイリーの森狩りに同行。

 フリクトンさん、従者さんと組みエルカーンや冬眠前のグレッズ狩りにも何度か成功した。


 まぐれ当たりだけど、私が構えたフライパンに突っ込んできて、目を回し倒れたアンガーボアは、丸々とえていたこともあって肉質がいいらしい。

 持ち帰ると、ルーヴァンさんがホクホクしていた。


 冒険者ギルドでも依頼を受け、荷物の配送や魔物狩りも件数をこなしている。

 

 金・銀のコインがけっこう貯まってきたので、執事長のセラフィさんに相談して収益の3割をお屋敷に収めることになった。

 

 セラフィさんの説明だと、お屋敷関係で重要かつ大きな出費があるときのみ使うとのことで、収益のほうが多かったら、そのまま貯金・または補てんしてくれたりするそうだ。

 4割でもいいと粘ろうとしたけど、セラフィさんのほうが粘り強かった。

 少しは役に立てるのかな?と思うと、嬉しい。


 ところで。アイリーの打ち明け話によると……


「じつはさー、故郷に弟と母親がいて、以前から報酬の一部を送ってるんだよ」

「え、知らなかった!」


「ま、言ったところでと思ってたから」

「何かできることない?」

 

 うっかり言ってしまった。話し合った結果、私の取り分を少し減らし、仕送り金にててもらっている。

 

「ナガメ、本が読めるしホント頭いいと思うけど、誰かのためってなると大金を簡単に出しがちだよな」


 ココロの底でイラッとはしたんだけど、一理ある。

 

 それはさておき、アイリーとの交渉ごとはけっこうたのしい。


 同室、かつよく同行する人なのだから、不機嫌な顔を見なくて済むと思えば、かなりお得だ。それに、狩りや冒険の面ではいまだに教えてもらうことばかりだし。


 ______________

 

 ミルヴァンさんが私たちを探している、と料理人仲間から聞き、薬草小屋をたずねた。このところ、冒険者ギルドで私たちが活動しだしたと知っているらしいから、何かの依頼かな?


 小屋に近づくにつれて、草花や丈の高いススキみたいな草が茂っていて、3回は転んだ。


「ほらぁ、言ったじゃん。ミルヴァン・トラップに引っ掛かりすぎだ」


 と、アイリーに笑われた。


 彼は相変わらず、干しかけの薬草に埋もれるようにして立っていた。

 手もとの書類をめくりつつ、何やら大きな独り言がだだれていた。


「ふっふっふ。土壌のせいでしょうか?今夜には、マガの刈り取りが大量にできますよ。こんなに早く手に入れられるとは。

……干し具合を見て、ナージュ草も3束、煮だしておきましょうか!」


 周りに誰かいるの?と思って、2度見した。

 アイリーが呼びかけると、ちょっとビクッとなってから……。


「貴方がたに、カオススライム狩りをお願いしたいんだ。

万能薬を完成させたいですからね。……念のため、僕も同行します」


 やっぱり、依頼。と思っているとアイリーが至極しごく不満そうに言う。


「カオススライムだって……?!

あいつら、ここから30リューちかくある湿地帯にしかいないし、弱点や属性がコロコロ変わるから、仕留めるのも相当難しいぞ」


「いいや、できる。僕に考えがあるから」

「考えってどんなだよ?説明しろ」

「……依頼を受けるか決めてくれますか。

それによって計画が変わる。準備も急ぎたいんだ。計画は、現地で」



 部屋に戻るなり……


「何だあいつ!マジでむかつく!あっさり話を受けるナガメもおかしい」


「ん、でもさ、自信ありそうだったし……戦闘の経験になりそうじゃない?

ミルヴァンさん、王宮に務めてたこともある方なんでしょ」


「それは、護衛や冒険者じゃなく、だよ。はぁ~~、カオススライムの面倒臭さ、恐ろしさを知らないヤツは!後悔しても遅いからな!」


 

____________


 数日後。


 料理長の許可もとれ、の食材調達も任された私とアイリー。そして、ミルヴァンさんは、湿地方面の街ロヴェナクへ行く馬車に乗り込んだ。


「んー、いい風吹いてる!」


 外出できる解放感もあるんだろうけど、機嫌よさげなアイリー。

 さっき、ミルヴァンさんから提案された報酬が1人あたり金コイン7枚と、けっこういい額だからかも。


 ミルヴァンさんは、フードを深くかぶって丸くなり、寝ているようだった。

 私とアイリーは車窓の景色などを材料に、気ままなおしゃべりに花を咲かせる。


 目的地、ロヴェナクまでは、休憩をはさみ5時間ほどで着いた。

 ここからは、徒歩で向かうようだ。


 ミルヴァンさんはよほど気が急いでいるのか、私たちに声もかけず、湿地帯への道のりを歩き始めようとしたので止めた。


 食事や、携帯食料の調達が必要だ。


「……で?そろそろ計画とやらを話してもらうぞ」


 地元民に評判らしい店に入り、席に着くやいなや、アイリーが切り出す。


 名物だという料理は、ザリガニみたいな見た目のフライに、黒っぽいタルタル状のソースがからんでいる。食べてみると、見た目以上に美味しい。

 

 ただし、給仕係さんの説明では、冷めるとガッカリ風味に変わるらしい。


「……いいでしょう。まず、2人にはこれを渡しますね。戦闘の直前に、飲んでください。

 または、たどり着く前に強敵にエンカウントした時でもいいです」


 渡されたのは、しゃれた小瓶入りの液体だ。

 あざやかな、き通った赤い色をしてる。


「ありがとうございます。わぁ~、キレイですね!」


「……1つ忠告。ソレ、かなり飲みづらい。

辛さと酸味が強いんだよね」


 なるほど。一気に飲みすしかなさそう。


「どんな効果なんだ?」


「戦闘力を、15分間底上げする。例えばアイリー、きみなら小刀の威力が2倍近くなるハズだよ」


「本当だろうな?まあいい。それで計画は?」


 ミルヴァンさんの話をかいつまむと、こうだ。


 カオススライムは群れることがあるので、1体でいるところを狙う。


 必ず、こちらから『先制攻撃』を仕掛ける。ミルヴァンさんが、弱体と形態変化を抑制よくせいする薬品を、大量にかけるそうだ。


 さらに、攻撃は念のため一定の距離を取って行い、ターゲットを取るのは基本、体力と素早さ、防御力が高めのアイリー。


 攻撃は、小刀とフライパン打撃を2回ずつ交互に。

 カオススライムにはがあり、2回以上の攻撃で耐性をつける個体がほとんどだから、だそう。


 火魔法は、吸収されて内部爆発に巻き込まれるリスクと、素材ごと消える可能性があるから使用不可、だそうだ。


 決定打は、攻撃による蓄積ちくせきダメージで弱体化したタイミングで、表面化した『弱点』の核に命中させること。

 

 ただ、弱点がかばうように移動でき、見極めが難しいから、ミルヴァンさんが指示を出すらしい。



「ふーん、ま、ふぃいんじゃないふぁ?」


 すべてを聞き出したアイリーはようやくナットクしたようだ。

 ソースのかかったザリガニを、口につめこむ速さが増している。


 私も食べすすめようとしたけど、すでに冷めてしまい、ガッカリ味になっていた。

 こうなるともう、もったいない気持ちとのせめぎあいだ。


 「ミルヴァ~ン、全然食ってないだろ。もっといっとけ、持たないぞ」

 「い、いえ、十分頂きました。ナガメさん、残りはどうぞ」

 「え、私はもうけっこう食べたかなぁーって」


 そんなこんなで、準備は整った。

 

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