第23話 拘束と尋問

 

 そこで、執事長が素早く呪文を唱えた。


「……?」


 その場にいた全員が、驚いた。


 何か丸っこいものが大広間のすみの、宙に浮いている。

 まるでマスコットキャラみたいな、可愛らしい姿だ。

 ……よくよく見ると、さっきまで戦闘していた黒槍の魔人の面影がある。


「クッ…………」


 悔しそうにジタバタしているけど、見えないおりに閉じ込められているのか、逃げる見込みはなさそう。

 

 執事長セラフィさんの呪文は、察するに強制的に魔物の姿を現し、動けなくする効果のようだ。




 また逃げだされては困るということで、予定は変更。

 

 その場でリッドさんによる尋問じんもんが始まった。



 事前の簡単な説明によると、リッドさんには尋問じんもんのスキルがあるようだ。サラッと知ったけど、だいぶ怖いスキルだ。

 能力が同格以下(弱らせた場合を含む)で人の言語を操る対象にのみ、有効らしい。


「サイレンス・オース」


 スキル発動。

 

 強制的に本当のこと以外を喋れなくなったうえに、だいぶカワイイ黒槍の魔人の口からスラスラと語られたのは___


「俺はこれまで、人間から吸い上げた負のエネルギーや血液を媒介ばいかいし、土壌深くに注入。闇の属性に染め上げることで、勢力の拡大をはかっていた。

目下の目的は、この屋敷。何せ俺は、出会って以来、ずっとカイを狙っていたからな。身分や能力ある人間からは得るものも大きい。

屋敷の人間全員、無知でちっぽけで無力だから、いつでも征服せいふく下におけたんだ」


「はあ?そんなこと、許されると思ってんのか!」


 アイリーが切れた。プルプルしだしてたから、一応準備できていた。

 小刀を無限に投げだしかねないので、私とリネンさんで、止めに入る。

 

 気持ちはわかる。無知でちっぽけっていうあたり、完全になめられている。


 執事長セラフィがこちらの様子を見て、ため息をついてから、先を続けるよううながした。


「……だが、この領地には短期間で、着実な変化が起きていた。

まず、パンとスープがうまそうになった。パン、ふっかふかだし。

何だよ、あのイティのジャムってのは!」


(……口調、変わってきてない?)


「最近だけでも、小麦の収穫がわんさかで?ミルダまで元気になるし!

極めつけはあの、ルチェの木!

季節を問わず実をつけまくるとか、反則はんそくだろうがっ」


(……んん?ミルダって、名前じゃなかったの?

私、何も知らずにうしー、うしちゃーんって言わされてたの?痛い!

あの2人、今度会ったら問い詰める)


「何が許せねえかって、屋敷の人間だけじゃなく、街まで活気づいてきてることだ!あんなに無気力でネガティヴで、吸い放題。

好都合だったってのに!まだある。あんなうまそうな食事が、我々の力を奪う毒ってことだ!」


(やっかみっぽくない?矛盾むじゅんしてるし。

見た目美味しそうだけど、食べたら毒?)




「……だいたいは分かった。というか途中から薄々、気づいていたんだが」


 腕組みしていたカイ様が、おもむろに口を開いた。


「ブラヴァートだろう、お前」


 ブラヴァート?それって確か……。


「あーっ、カイ様のご友人じゃん!」


 アイリーが、大声を出した。

 そうだ、この間、屋敷にお客様として来ていたうちの1人だ。


 もと、旅商人……だっけ。銀髪で笑顔で、話し上手。

 端正たんせいなお顔ですこぶる上品だった彼は、いつわりの姿だったのか。



「と、いうことは。お出しした料理はブラヴァートさんにとってまったく美味しくなかった、ということですか」


 料理長ルーヴァンが、やけに丁寧な口調で質問した。


「そうだ!のどが焼けるようだった!あの毒をいかに口に運ばないようにするかと考えたあげく、旅商人の話をしてやって切り抜けた。

部下に助けられ、やっとの思いで根城に帰り着いた。

この屈辱くつじょくが分かるかっ」


 「ああー、それで貴方だけ、料理が沢山残っていたんですねぇ」


 合点がてんがいった、という様子のルーヴァンさん。

 あ、怒ってる。

 9割がた、ワタシが丹精たんせい込めた料理を残すなんて~!的なやつ。



「だから、何度も誘ったのに泊まっていってくれなかったのか」


 と、残念そうにカイ様。

 ん……何かコトの焦点ズレてきてない?



「ところで……やはり、沢山の人を襲ってきたのですか?」


 リッドさんが、片眼鏡をクイッとしつつ、質問した。

 さすが、核心突いてる!



「もちろんだ!それはもう、数えきれないほどにな。

とくに若い女、青年は最高だ!極上の味で……」


 ちょっとしたポーズまでつけて応えるブラヴァート。

 すぐ隣にいるアイリーがこぶしを握るのが見える。



 すると執事長セラフィが、スッとブラヴァートの前に進み出た。


「……ほお。なるほど?」


 ものすごい気迫。今にも最終魔法を詠唱し、吹けば飛びそうなブラヴァートを消し去りそう。


 マスコット・ブラヴァートもさすがにヤバッとなったらしい。


「し、しししかし、私は1度たりとも人間を手にかけたことはないっ。本当だ!

いつだって、手加減していたっ」


 急に焦り倒している。


「手加減……。じつに疑わしい。偽りではないのか?」


 念を押すように、リッドさんが問いかけたときだった。


「ゲホッ……ほ、本当だ!この方は、そこらの魔物なんかとは違う。

知性も、分別もある。

弱った魔物、自ら闇落ちをした元人間まで、助けて下さった。

俺が失敗しても見捨てず、駆けつけてくださった。

さっきも、逃げようとしたんじゃない。魔力が尽きて不安定になってるだけなんだ」


 いままで床に崩れ落ちていた魔人が、苦しそうに息をつきながら言う。


「サイレンス・オース」


 リッドさんはすかさず、その魔人にも尋問スキルを発動させる。

 

 が、だいたい同じことしかしゃべらなかった。



「それに、さっきは俺、包丁と小刀とフライパンで追い回されて、悔しかった……!

だって、あんなのただの調理道具じゃないか!」


といいだすので、ルーヴァンさん、アイリー、私の3人とも


「悪かった(わ)ね!ただの調理道具で!」


とツッコみ返しておいた。



「ブラヴァートさんにとって、その姿でいることがどれだけ耐え難いことか。

た、頼む、頼むからそれ以上は……」


ちょっとだけ哀れに思えてきたから、不思議だ。


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