第16話 王国任務、狩人フリクトン

 

 それから数日後。王国任務の狩りが行われる日がやってきた。


 先日の出来事で、元気をなくしぎみだったアイリーは、狩りと聞いて飛びねるほど、張り切っている。

 仕事の合間に小刀の練習もして、抜かりない。

 私も一緒にフライパンを振った。ただ、これ以上ダミーの人形を壊すと怒られそうなので、素振りにとどめた。

 それでも、うっかり3体は壊してしまった。けれど……おかげで、少しは板についてきたかも。


 最初に私がダミー人形を壊すのを見て、アイリーが技名も考えてくれた。

『アイアン・スプラッシュ』

 ……粉々になってはじけ飛ぶ木くずと、料理油が跳ね飛ぶ様子がかぶったらしい。


 鉄のフライパンは、リアルな話をすると洗剤でゴシゴシ洗うのはNG。油をことで料理の味に深みを出すから、油は大事な要素。一流シェフの技だと海外のドラマで見た。あと、鉄分も取れて身体にいい。


 分かってはいるんだけど、重さと手間が忙しい生活と合わなくって、私は挫折ざせつしちゃったな。

 元の世界で当たり前だった、マーブルやセラミック、そしてダイヤモンド・コートが恋しい。


 現地では1泊するらしく、狩場へはカイ様と執事のリッドさん、従者さんが2名。ベテランのメイドさん2名に、料理人も数名が同行するみたいだ。


 最初に料理長ルーヴァンに相談したところ、アイリーが一緒に行くことに難色なんしょくを示されてしまった。アイリーが料理人として腕の立つ人だから、抜けられると困るのだ。


 本人が珍しくうるんだ目でお願いモードを発動していたから、内心ちょっと笑いをこらえつつ、『援護射撃』をしておいた。その甲斐かいもあって、無事来られることになった。



 驚いたことに、狩場へは時短を兼ねて転移魔法を使用するという。


 従者さん1人と、メイドさん1人が同時に呪文を唱え、両手を構えた先に、転移空間が開く。


「並んで、1人ずつです。中ではなるべく一定の速さで歩き続けてください」


 と従者さんが促す。言われた通り、1人ずつ急ぎ足でくぐり抜けていく。初めて体感する転移魔法。

 すごくドキドキするけど、なるべく顔には出さないでいよう。


 私の番。勇気を出して足を踏み入れ、そのまま歩き続ける。

 トンネルのような暗がりがちょっと恐ろしい。


 唐突に、強い風が吹き抜けた。見渡す限り木立で、葉がこすれあう音や、鳥のさえずりが聞えてくる。

 少し離れたところに、白いテントのようなものがいくつか作られている。

 それに、恐らく現地の木で作られた長テーブルや、イスも。ここが今夜の野営地になるのだろう。


 しばらくすると、全員が集まって、カイ様が口を開いた。


「狩り担当は、今日これから日暮れまで、獲物狩りを優先して。必ず、2名以上で行動すること。

 少しでも危険に遭遇そうぐうしたら、この野営地に戻る行動をとってほしい。この場所を中心にかけられた守護魔法も、助けになるはずだ」


 守護の魔法。屋敷の守りみたいに、野外でも使えるみたいだ。


「今回の獲物は王国に納品される。ただし十分な量がある場合は、屋敷にも持ち帰る」


 美味しい料理でいっぱいのテーブルを想像して、アイリーと笑いあう。


「それから……紹介したい方がいます。フリクトン・バードさん」


 どこからともなく現れた男性。その姿に息をのむ。アイリーも気が付いたようだ。

 この間、森の散策中に出会った……じゃなく、弓矢で警告してきた人だ。


 フリクトンさんは、軽く一礼をしたものの、目線を泳がせている。

 あの様子、とっくに私とアイリーに気づいているだろう。


「この森で17年以上、狩りをしている方で、領地一の弓の名手なんだ。

 話を聞かせてもらって、狩りも見せてもらうといい。……それでは、始めよう」


 その途端、アイリーはいさみ足なのか、フリクトンさんに対して気まずいのか、ビューンと森へ消えていった。慌てた私が後を追おうとキョキョロしていたら、従者さんの1人が矢のような速さで追いかけて行く。


 リッドさんが言うには、探知のスキルを持っているそうだ。任せていい、と言ってくれた。

 もう1人の従者さんと、メイドさん1人が声をかけてくれ、一緒に行動することになった。


 私は小走りでフリクトンさんのところへ行き、頭を下げた。


「あの……この間は、ありがとうございました。

 おかげで、大変なことにならなくて済みました」


 フリクトンさんは、しばらく黙っていたけれど


「……いいんだ、だが、気をつけろよ」


 ボソッと、それだけ言われた。

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