34魔物製作者2

「ひっ……」


「あれは……」


 声を聞き、子供たちが怯える。

 俺が振り向くとそこにいたのは異形の姿をした、人のように見える生き物だった。


 二足歩行でフォルムは人っぽい。

 ただ肌はくすんだ灰色をしていて、鼻がやたらと長い。


 鼻先は柔らかいのか、長く伸びた先は垂れ下がってアゴにつきそうになっている。

 動くたびに揺れ動いていて、気持ち悪い。


 手足は細くて枝のようなのに、背はやたらと高くてパシェよりもありそうだった。

 ボロボロのローブをまとっていて、黙って立っていればカカシにも見えるかもしれない。


「お前、悪魔だな」


 ゲルディットの地獄の底から響くような低い声には怒りがにじんでいる。

 少なくとも子供に手を出しているのは明白。


 怒るのも当然だ。

 俺も今すぐに斬りかかりたいぐらいの気持ちだった。


「あーあー、せっかく作ったのに。こんなふうに壊すことないだろう」


 長鼻の悪魔は切り壊された骨の格子を見て、グッと眉を上げる。

 しゃべるたびに鼻の先がブルンブルンと揺れる。


「……おい、貴様」


「なんだ?」


 子供に手を出していることも怒るべき理由の一つである。

 しかし俺はそれよりももっと深い怒りを覚えるものが見えていた。


 俺には、長鼻の悪魔の姿が霞んで見えている。


「何人、手をかけた?」


 長鼻の悪魔には多くの幽霊がまとわりついている。

 もはや幽霊というよりも悪霊のような、強い思念が悪魔を取り巻いているのだ。


 叫び、うめき、嘆き、後悔、悲しみ、怒り、苦痛。

 様々な感情が渦巻いている。


 悪魔は幽霊にも手をかける。

 力を吸い尽くして、消滅させてしまう。


 なのにこんなに多くの幽霊がまとわりついているということは、短期間に多くの人を手にかけたことになる。


「そんなことを聞かれても……お前は今まで踏み潰した虫の数を数えたことがあるのか?」


 幽霊の奥に見える長鼻の悪魔は裂けそうなほどに口を歪めて笑う。

 教会で出会った悪魔とは比べ物にならない悪意に満ちた悪魔だ。


「パシェ、あの悪魔はここで倒すぞ」


 ゲルディットとパシェの体が魔力による黒いオーラに包まれる。


「いきますよ」


 俺が二人に神聖力を送り込む。

 すると神聖力のオーラと魔力のオーラが混ざり合って銀色に変わっていく。


「あーあーあーあー、怖いねぇ。ただの聖騎士かと思ったが……その落ち着き、銀のオーラ、悪魔祓いか。あーあー……面倒だ」


 長鼻の悪魔は袖に手を突っ込む。

 そして三つの紫色の玉を指に挟んで取り出した。


「ほぅら、ご主人様がお呼びだぞ」


 紫色の玉をポーンと投げる。

 一度地面にバウンドした紫色の玉はメキメキと不愉快な音を立てながら大きくなり始めた。


 沸騰するお湯に浮かんでくる気泡のようにボコボコと不自然に膨らんでいく。


「あれは!」


 そのまま大きくなった紫色の玉は、なんと魔物になった。


「墓地で見た……」


 イノシシの巨躯の頭を斬り落として人の顔を貼り付けたような異形の姿は、ソコリアンダの事件の時に墓地で戦った魔物と同じだった。


「行け。侵入者どもを片付けろ!」


 長鼻の悪魔が指示を出すと、イノシシの魔物が動き出す。


「エリシオ、子供たちを守れ!」


 ゲルディットが前に出ていき、パシェが続く。


「ほぅ? 二人同時に神聖力を送り込む? あーあーあーあー、めんどくさい相手だ」


「はっ!」


 ゲルディットが先頭のイノシシの魔物を斬りつける。

 顔面が斜めに斬りつけられて、イノシシの魔物はけたたましく叫ぶ。


「ふぅん!」


 怯んだイノシシの魔物の額にパシェが剣を突き刺す。

 深々と根元まで剣が刺さり、そのまま背中を切り裂くように剣を跳ね上げて取り出す。


「みんな、奥に集まって、固まるんだ。耳を塞いで」


 戦いの光景も、戦いの音も子供に良い影響を与えない。

 俺は子供たちを牢屋の奥に集めて戦いに背を向けさせる。


 けたたましく響く魔物の叫び声を少しでも軽減すればと手で耳を覆わせた。


「あーあーあーあー、これは厳しいな」


 あっという間にイノシシの魔物が一体倒された。

 濁った灰色の目を細めた長鼻の悪魔は、今度は逆の袖に手を突っ込む。


 また紫色の玉を取り出す。

 しかし今度はイノシシの魔物の玉よりも一回りほどサイズが大きい。


「ならこれはどうだ?」


 紫の玉を投げる。

 またしても玉は大きくなっていく。


 だが今回の玉の大きくなり方が、イノシシの魔物のものとは違う。

 異なった形になっていく。


「なに……あれ」


「気持ち悪りぃ……」


 現れた魔物を見て、俺は思わず顔をしかめる。

 例えるなら二足歩行のオオカミというところだろうか。


 全身が毛に覆われていて、人間と骨格が違う雰囲気がある。

 ただ普通に二足歩行のオオカミかといえばそうでもない。


 顔はイノシシの魔物と同じように人っぽい。

 目の下に涙のように赤い筋の入った女性の顔をしている。


「どうせなら全身ケモノっぽくすればいいものを……」


 さらには左腕に当たるところは毛が生えておらず、筋肉質で太い人間の腕のような形をしている。

 そして、胸のところにも顔がある。


 人間の顔。

 多分、子供のような、顔。


「いいだろう? 可愛い、俺の、オモチャ、だ!」


「アイツ……!」


 人の特徴が残る化け物。

 それは悪魔によって魔物に変えられてしまった元人間。


 悪魔に対する吐き気を催すような嫌悪感が、俺の怒りをさらに刺激する。

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